第16話

39


「ほっ!」


蹴るべし。


「はっ!」


蹴るべしっ!


「たっ!」


ひたすら蹴るべし!


「やあっ!」


ズバッ!と、頭の高さまで上がった足を振り切った。

折角若い体になったんだからと、日課にしている柔軟の成果が出ている。


蹴りを放つたびに、バチバチと右足に纏った【緋蜂の針】が赤くスパークしている。

ちょっとスーパーな気分だ。

ハイキックの軌跡に沿ってバチバチいくのもカッコイイ。

何か技名でもつけるべきだろうか?


「アンデッド実は俺だった事件」から早10日。


アレクに聞いたところ、「ラギュオラの牙」やギルドによって俺の事はある程度冒険者たちに周知されたようだ。

その為アンデッドは俺の事を見間違えた可能性が高いという事で落ち着いたが、それでも万が一本当にアンデッドがいた場合だと、放置したままでは被害が広がるので、今は浅瀬と念の為上層一帯を調査しているらしい。

その間紛らわしいから俺はダンジョン立ち入りを自粛するように言われている。

1月ほどで終了するようだが、それまで暇になってしまった。


王都ではダンジョン三昧の予定だったが、思わぬスケジュールの空白に何をしようかと考えていた時、セリアーナに、暇なら学院について来るか?と聞かれたが…断った。

学院内にある大図書館は少し興味があったが、貴族のガキンチョたちの群れに飛び込むのはどうも…。

そんなわけで、屋敷で【緋蜂の針】の効果を調べることにした。


結果、【緋蜂の針】は踏みつける以外にも蹴ることで発揮する効果もあるようだ。

蜂は攻撃手段に針で刺す他噛みつくこともある。

わざわざ赤と黒との色に、更にブーツとタイツに分かれていることから、きっと何かがあると思いあれこれ試していたが、正解だった。


まぁ、庭を歩きまわっている時に、毛虫が靴に付いていて思わず足を強く振ったら発動したってのが少々しまりが無いが、結果オーライだ。


ちなみに毛虫君は爆散した。

俺は毛虫や青虫もダメなんだ。


踏むこともだが、これも人に試すのは危ないから、屋敷の裏庭で一人で訓練をしている。

【赤の盾】を持ったアレクなら耐えられそうな気もするが。


コツは掴んだ。

蹴る時に動作だけでなく、蹴る、と強くイメージすることが大事だ。

そうすることで、足を振り始めると何やらスパークする。

これが何なのかも気になるが、毛虫の末路を考えると触りたくはない。

今はまだ一蹴り一蹴り集中しないと出来ないが、そのうち無意識に出来るようになりたいものだ。


「精が出るな」


ビシバシハイキックを決めていると、裏庭に出てきたじーさんが声をかけてきた。

いつもは執事も一緒だが今日は一人だ。


「今日は朝から出かけないんだ?」


ここ数日何やら忙しそうにずっと朝から出かけていたが、片付いたんだろうか?


「ああ。調整に少し時間を取ったが、騎士団の訓練所を使えるように手配した。セリアーナには昨日話してあるが、どうだ行ってみんか?今日から数日は昔部下だった男が隊長を務める隊が使っておるから、お前も自由に使えるぞ」


「ぬ?」


もしかしてここ最近出かけてたの、これの為なのかな?

確かに的も無しに宙を蹴るだけってのも手応えが無くて飽きて来ていたが…。

何が起こるかわからないから、庭に配慮して踏みつけるのもやらなかったし、折角色々手間かけてくれたみたいだし、行ってみるかな?


「わかった。行くよ」


「よし。馬車は表に用意してあるから、お前も準備して来い」


そう言うなり屋敷に早足で戻っていった。


もう馬車回してんのか。

俺の意見とか関係無しに、行くの決まってたんじゃないか?

…あれだね。

きっとじーさん、【緋蜂の針】の力を色々見てみたかったんだと思う。


…まぁ、いいか。

お言葉に甘えよう。


40


「やっ!」


気合の声と共に、渾身の力を込め振りぬいた足が、土で作られた的を粉砕する。

中々の威力だ。


「「おおおー⁉」」


フッ。

ギャラリーの歓声が心地いいぜ。


じーさんと同じように子に当主の座を譲り、代わりに王都に詰めている老人たちだ。

家だけでなく個人でも爵位を持っている結構なお偉いさんなんだが、要は刺激に飢えたご隠居さんたちだ。

さっきから的を粉砕する度にやいのやいのと騒いでいる。


この的は訓練所に詰めている魔導士が魔法で作っている。

どれもサイズ、強度は同じらしい。

俺以外にも何人か的へ攻撃を行っている者がいるが、精々欠けさせる程度で粉砕できている者はいない。


「もう一回お願い」


魔導士に的の修復を頼む。

何度も頼んでいるからかついには側で控えるようになってきた。

それはさておき、繰り返して来たが少しわかってきた。


「せいっ!」


新しくできた的に向かい、同じく気合を込め足を振りぬいた。

ただし、先程と違い力は入れていない。

その代わり速度を重視してみた。


「ふむ…」


結果は先程と同じように粉砕した。

砕け方も同じ程度だ。


「もういっちょお願い」


今度は蹴り方を変えてみよう。

今までは回し蹴りだったけど、今度は横蹴りだ。


「ほっ!」


的に向かって軽く助走し足の裏を叩きつける。


バンッっと音を立て砕け散る。

ちゃんと足の裏でも蹴りと認識されるようだ。

威力も同じくらいだろうか?


わかってきたぞ!


回し蹴りと違い横蹴りはほとんど跳び蹴りだった。

軽いとはいえ俺の体重が乗っていたし、素の威力なら大分違ったはずだが、結果はほぼ同じ。


つまり【緋蜂の針】の蹴りは、威力は同じなんだ。

俺を強化するんじゃなく、ゲーム風に例えるならアイテムの固有スキルで固定ダメージ。

きっとこれだ。


しかしそうなるとだ…。


ちらりと崩れた的を見る。

結構な威力だ。

足振るだけでこの威力が出せるんなら、十分すぎる。

ただ、これ魔物相手に通用するだろうか?


ゴブリン程度ならともかく、王都ダンジョンのイノシシやウシあたりだと、ダメージは入るだろうが倒すまでにはいかない。

まだ試せていないけれど踏みつけるのなら倒せるかもしれないが、相当な痛みがあるそうだし、死ぬまでの間大人しくしているとは思えない。

暴れられて下手すりゃ俺が死ぬ。


むむむむむ……。


ダンジョンだと【浮き玉】に乗っているから、蹴るのは少し難しいと思う。

もう少し成長して背が伸びたらともかく、今の俺の足の長さだとちょっと足りない気がする。

いや、だが【影の剣】と合わせて、手と足でぐるぐる回りながら攻撃できるかもしれないが…。

それなら最初から【影の剣】を使った方がいいか。


「……ラ。……セラ」


なんか呼ばれてる気がするが気にしない。


これはもう対人間用のアイテムって割り切った方がいいかな?

護身用だ。


【影の剣】は人間相手に使うにはちょっと強力過ぎる。

加減しようが部位を選ぼうが、切るのも刺すのも大怪我だ。

何より俺の腕じゃそんな余裕はない。


それに比べたら、コレは手や足を狙えば骨折位はするだろうが、死ぬことはない。

俺の見た目と相まって油断も誘えるだろうし、こいつはいけるぞ!



「セラ」


「ちょっと待って」


しつこいな。

聞き覚えのある声な気がするけれど無視だ。


「セラ!」


「痛いっ⁉」


無視していたら耳を引っ張られた。

人が真面目に考えごとしているのに何をする!


「…お嬢様じゃん。何すんの?」


声のする方を振り向くとセリアーナがいた。

さらにその後ろにエレナと、セリアーナと同じ年位の貴族らしき子たちが10人位いる。

何でこんなとこに?

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