第14話
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1人で王都ダンジョンへ潜るようになって、まず優先したことが狩場を決める事だった。
浅瀬の手前はムカデが。
奥は倒せはするものの数が多く、1人で狩りをするのは少々危険。
中々いい場所が無い…とウロウロしていた時に見つけたのが、上層へ繋がる中で一番外側の通路だ。
少し開けた場所で、そこで出る魔物は少し小さいサイズのゾウ位のデカいウシ。
他の冒険者と戦っているのを見たが、数は少ないが力が強く足も速く、小回りは利かないものの、巨体に見合う体力もある中々の強さだ。
上層へ遠回りということもあり、あまり人気は無いようでほとんど人がいない。
俺にはうってつけだ。
というわけで、しばらくそこに通っていた。
倒す数が少ないからペースは落ちるが、周りを気にすることなく、順調に聖貨を貯める事ができた。
「むっ⁉」
目標数に到達し、ウキウキで帰還していたところ、視界の隅に今まで見たことの無い発光を感じた。
何となく嫌な予感がし高度を下げたところ、天井が爆発し同時に左肩に強い痛みを感じ【浮き玉】のバランスを大きく崩した。
「うぐっ⁉」
痛みをこらえ何とかバランスを取り戻そうともがいていると更に太ももに強い痛みが走り、【浮き玉】ごと落下した。
「ぐぇっ⁉」
肩は焼け焦げ太ももは矢でえぐれ血が流れ、地面に血だまりを作っている。
そして倒れ伏す俺。
何が起こったのかと思ったが、痛みと血を見てようやく攻撃を受けたことを理解した。
最初のあれは魔法か…。
「だっ…大丈夫か⁉」
「だいじょーぶじゃねーよ…」
男たちの声に何とか返す。
「すっ…すぐ治療するからな!大丈夫だ任せろ!」
よく見えないが、声と何やらドタバタしていることから随分慌てている様子がわかる。
とりあえず治療してもらえるようだ。
結構シャレにならない怪我だが、この世界の魔法を始めとした治療は、病気はわからないが、怪我や毒にはとにかく効く。
このまま死ぬ事は無さそうだ。
でも知ってるぞ!
攻撃して来たのお前らだろう‼
◇
アンデッド。
死体に魔素が宿り、本能のまま生物を襲うゾンビ。
魂が魔素と混ざり合い、ゾンビと違い知能があるレイス。
人間、動物、魔物の区別無く生物に襲い掛かってくる。
通常の武器では効果が薄く、魔法やガチャ産の武具、魔道具といった物でなければまともに戦えない、強力な魔物だ。
死体が消えてしまうダンジョンには存在せず、外にのみ存在する事が特徴で、魔境や戦場、稀にスラムなどにも現れる事がある。
最初聞いた時の感想は、魂ってあるんだ…だった。
ただ、ここ最近王都のダンジョン浅瀬にアンデッドが現れた。
凄まじい速度で空中を動き回り、魔物の命を刈り取って回る。
黒く小さな姿をしているらしく、まだ人間に被害は出ていないが本来いない場所にいる場合、所謂ボスモンスターの可能性が高く、放っておくと強力な魔物に育つことがあるとかで、近く討伐隊を組むらしく目下調査中らしい。
俺も受け付けで気を付ける様に言われた。
1人で潜っているから尚の事だ。
アンデッドの情報を耳にしたらしく、セリアーナやエレナからも念を押された。
…まさか俺の事だとは思わなかった。
あの後応急処置を受け、出口近くだったこともありすぐギルドで本格的に治療を受ける事が出来た。
さすがは王都の冒険者ギルド。
デカいだけあって、ギルド内に救護院の分院があり、処置が早かったこともあり傷跡すら残っていない。
パないなファンタジー…。
【浮き玉】も回収してあるし、服がボロボロになったことを除けばすっかり元通りだ。
後はこの青ざめているおっさん達をどうするかだな…。
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「話は分かったわ」
じーさんの執務室で土下座をする男たちを見下ろし、セリアーナはそう言った。
「セラ、こっちに来なさい」
「ほいほい…って!っちょ⁉」
近寄るとジロジロこちらを見てくる。
そして頬を掴み、肩を捻り、裾をめくった。
怪我をした場所を見たいようだが、治療に【祈り】の効果も合わさり傷跡一つ残っていない。
「傷は残っていないみたいね…。それで?どうするのかしら?」
向き直り、彼らに同行したギルドの幹部を睨みつける。
王都内での冒険者同士の揉め事を調停する部門の長らしい。
結構な強面さんなんだが、全く意に介さない。
14にしてこの威厳…、やっぱ大物だわ。
「はい。ダンジョン内での人間同士での戦闘は犯罪となっております。また今回その現場にクランマスターも同道していたことからクラン・ラギュオラの牙は解散となります」
へ~…。
ラギュオラ…東部の開拓初期を描いた「平原の火炎竜」って物語に登場する竜の名前だな。
開拓団の指導者が戦い力を認められて、褒美として山や森を消し飛ばし広い平原を作ったって内容だ。
よくあるおとぎ話かと思ったが、実際ラギュオラと呼ばれる竜が存在したと知った時は驚いた。
さすがにそこまでの力は無かったと思いたいが、ルゼル王国内に戦闘跡と思われるクレーターがいくつか残っているらしい。
彼らのクラン名はきっとそこから取ったんだろう。
無くなっちゃうのか…。
「それだけじゃ無いでしょう?」
ん?
「は…はい。今回被害にあったセラ嬢はミュラー家付きの冒険者であることから、ミュラー伯爵家への敵対行動となり、…はい」
なんとも煮え切らない感じだが、余り穏便な内容ではなさそうだ。
割って入りづらい雰囲気だし、後ろにいるアレクの袖を引いた。
(アレク…この場合どうなんの?)
(一家まとめて死罪だろう。平民相手でも死んでいたら死刑だしな。ダンジョンでの殺しってのはそれだけ重いんだ。ギルド側にしたって結構な失態だな。何人か首が飛んでもおかしくない。)
まじかー……そりゃ青褪めもするわ。
よくよく考えると、変な玉に乗って宙を高速移動し魔物を倒しまくる小さい影。
怪談に出てきてもおかしくない存在だ。
そう考えると攻撃してきた彼らを理解できなくもない。
もっと傷が残ってたりしたらともかく、見事に治ってしまったからな…。
何というか怒りがわかない。
それにこのあとやる事に気分良く挑むために、できれば後味の悪い様なことは避けたい。
とは言え、事態は俺がどうこうってのを越えてミュラー家の問題になっている。
貴族の面子もあるだろうし、どうしたものか…。
「お嬢様お嬢様」
「何?」
「彼らどうするの?」
「死刑だな。ダンジョン関係無しに伯爵家への攻撃はそうなる」
セリアーナの代わりにじーさんが答える。
彼らの顔は見えないけれど、部門長は顔が強張っている。
うーむ…
「なに?欲しいの?」
「いや、いらないけどもさ…」
「お嬢様」
困っているとアレクが会話に混ざってきた。
「ラギュオラの牙は戦闘慣れしていますし、人数も揃っています。どうでしょう?ゼルキス領の開拓村の護衛などにしてみてはどうでしょうか?ダンジョンと魔境と違いはありますが、やれるでしょう」
なあ?とラギュオラの面々に向かってそう言う。
そう言えば新領地で活動する冒険者たちを探していた。
内密にって事だけど、これならゼルキスに連れて行くって事で誤魔化せそうだ。
彼らも助かったとばかりに何度も頷いている。
「ふむ…。どうする?セラの主はお前だ」
「そうですね…いいでしょう。この貸しは大きいわよ。お前もそれでいいわね?」
「いいよ」
「ならこれで話は終わりね。来年私が領地に戻る時に彼らも一緒に連れて行くわ。アレク、彼らとギルドに行って詳細を詰めて頂戴」
「はい」
部門長もほっとしたような顔だ。
もしかしたらこの人も首が危うかったのかもしれない。
まぁ、なにはともあれ、割と穏便に落ち着けたんじゃなかろうか?
俺が悪いわけではないけれど、自分が理由で大量に処刑とかはちと寝覚めが悪い。
よかったよかったと部屋を出て行く彼らを見送った。
さあ!
色々あったけど、ガチャだガチャ!
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