第13話

32


「凄いじゃない」


俺が置いた、目の前にある4枚の聖貨を見たセリアーナの言葉だ。


「それなら2枚頂くわよ」


2枚取り残りをこちらに差し出した。

やはり勘違いしている。

まあ、無理もないか。


「違う違う」


「3人の合計なの?」


それも違うぞ!


「今日セラが入手した聖貨は10枚です。お嬢様…」


「っ⁉」


エレナにネタ晴らしをされてしまったが、そういうことだ。

その4枚はセリアーナに渡す分の聖貨だ。

初戦のオオコウモリの後も順調にゲットし続けその数10枚。


これどういうことなんだろうな?

何か才能でもあるんだろうか。


「……」


自分のあるかわからない才能に恐れ戦いている間、セリアーナは神妙な顔で黙って机の上の聖貨を見つめている。


はて?そんなに悩むような事が有るんだろうか?

2人の方を見ると、そっちも何やら同じような表情だ。


「結構。セラ、【隠れ家】に入るわ。出して頂戴」


何か重要な事でも話すんだろうか…?



大森林同盟。


約500年前にこの中央大陸に入植がはじまり、リグレス帝国の前身であるリグリア王国が最初の国として誕生した。

そこから大陸西部にいくつもの国が興ったが、更なる自由を求めて、魔境・大森林の開拓に身を投じた者達がいた。


いくつもの開拓村ができ、離合集散を繰り返し、国となった。

それが東部の始まりの国、同盟の盟主ルゼル王国だ。


さらにそこから100年程経ち、独立を前提に特に優秀な家臣に開拓を進めさせた。

そして、北からシュベル王国・バルカ王国・メサリア王国の3国が興り、その4国が互いに協力し合う為に大森林同盟を組んだ。


「って本に載ってたよ」


【隠れ家】に4人で入るなり大森林同盟について聞かれたので、本からの受け売りだがそう述べた。


「あら?よく知っているわね。といってもそれはあくまで表向きの内容よ。エレナ、アレク。貴方達は今後も私に仕える気はあるかしら?」


「もちろんです」


エレナは即答し、アレクも頷いている。


「結構。セラ、お前は拒否させないわよ」


「あ…はい」


何の話か分からないけれど俺に拒否権は無いらしい。


「在学中に第4王子と婚約し卒業と同時に発表され、その1年か2年後に結婚。これはもう決定しているの。そして恐らくルトルの街を含む開拓地を束ねた土地が私たちの領地となるわ」


「…独立?」


これは結構大事なんじゃなかろうか?

あの辺は彼女のじーさんが切り開いたとか言ってたし…大丈夫?


「ゼルキスは広くなり過ぎたわ。目が届かなくなった領地の端を国の援助付きで自分の子供に与えられるんですもの。お父様もおじいさまも乗り気よ」


そう考えると確かにお得なのかもしれない。

聞くところによると、大森林は魔境と呼ばれる天然のダンジョンの様な物で、強力な魔物がうじゃうじゃいるらしい。

とは言え、ダンジョンと違いたとえそこでどれだけ死者が出ようとペナルティがあるわけでも無く、また探索に出るのに許可や代価がいらないので、人は集まる。

そこの拠点になる場所が開拓村だ。

あのまま孤児院に居たら俺もそこに送られていたかもしれない。

街や商人が主導だったのが今後は国や領主主導で進めることになるって事だろう。


「この事は王家とごく一部の貴族しかまだ知らないわ。ミュラー家内でもお父様とお母様、それにおじい様だけよ」


なるほど…でもそんなに隠さないといけないことなんだろうか?

第4王子って事は上に3人いるんだろうし、王妃になるってわけでもなさそうだけど、【隠れ家】にわざわざ入る事と言い、気を使い過ぎなんじゃ?


そう思い2人を見ると、何か納得している。


あれ~…?

何か俺の知らないことがあるのかな?


33


「何か聞きたいことでもあるの?」


怪訝な顔をしているのがわかったのだろうか?

いい機会だ。

折角なので聞いてみよう。


「そこまで隠す事なの?」


「ああ、そこを教えておく必要があるわね。大森林同盟は西方諸国、特に帝国と連合国と戦争とまでは行かないけれど、決して関係は良好ではないわ」


…西方諸国って、東側は大森林同盟の国しかないんだけど。


「…それって大陸のほとんどの国ってことでしょ?なんでまた?」


「西にはもう魔物はダンジョン以外にはほとんどいないのよ。この意味が分かるかしら?」


「……あっ!」


平和なのはいいけれど、聖貨を得る手段が減るのか。

で、ダンジョンがあるって事は維持に聖貨が必要だから…。


「わかった?同盟の取り決めで聖貨は外国に持ち出せないから、国内で消費するようになっているの。例外は教会だけ。お前もルトルの孤児院にいたからわかるでしょう?領都から離れれば離れるほど教会の影響力が強くなるの。だから、そこを摘み取るのよ」


はぁ~…色々考えてんな。


「教会と仲悪いんだね」


前々からの疑問だ。

教会と一纏めに言っているが、メダリア教という宗教の施設だ。本拠地であるメダリア神国は西にあり、確か帝国に囲まれている。

ただ、布教を許しているし、ガチャをやるのにメダリア教の聖像が必要っぽいし、なんでまた拗れているんだろう?


「ええ。といっても元はそうでもないの。ただ、ここ50年程かしら?聖貨の入手数が減ってきた帝国や連合国が教会内に入り込んでからね」


教会を通して聖貨を持って行ってるんだな。

随分手の込んだことをやっている。


「戦争になったりは?」


「無いわね。恩恵も加護も所持数の桁が違うわ。実際戦争になれば勝てはしないけれど、少なくとも西側に相当な痛手を与えられるわ。国が維持できなくなるほどのね。よほどの馬鹿じゃない限りそんなことはしないはずよ。まあ、それでも絶対に無いとは言えないから、教会の活動を許しているのよ」


「ほ~ん…」


「でも、許しているからといって街を実質支配されるのは上手くないの。ルトルに関しては、この結婚でその問題を解決できるわね。同盟内にも少数とは言え西と繋がっている貴族もいるし、隠すのは彼らの邪魔を警戒しているからよ」


派閥やらもあるのか…。

俺にはそこら辺はなんもわからんから関わらないでおこう。


「そか。大体わかったよ。ありがと」


「他に聞きたいことは?」


「や、もう充分」


「そう。なら今後1年間の方針を話すわね。エレナ、貴方は私の護衛について頂戴。学院を始め貴族の相手が増えるけれど大丈夫ね?」


「はい。お任せください」


「アレク、貴方は冒険者や傭兵とつながりを作って頂戴。新領地の事は伏せるのよ?能力、人間性どちらも見たうえで有望な者を選ぶの。できるわね?」


「任せてくれ」


「セラ」


皆忙しそうだなーと、眺めていたらまさかの俺の名が出た。


「な…何⁉」


「何驚いているの…。王都のダンジョンはどう?一人でも大丈夫かしら?」


む?

1人で行ってもいいんだろうか?


「浅瀬までなら問題無いよ。それより先は知らない」


「…ムカデは?」


「⁉」


「ムカデ?魔虫よね。それがどうかしたの?」


エレナの言葉に怪訝な表情を浮かべている。


「セラはムカデが苦手なようで…ずっと悲鳴を上げていました」


い…いかん。

1人行動が無くなる。


「大丈夫!逃げるから!【浮き玉】から降りないから!」


我ながら必死だと思うが、このままだと屋敷でメイドさんをやらされかねん。


「…ムカデ以外なら大丈夫なのね?」


必死さが伝わったか?

その言葉にぶんぶんと首を縦に振る。


「そう…決して無理はしないこと。いいわね?」


セーフ…!

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