第11話
27
「よく来たな。護衛を連れぬと聞いていたから心配していたが、無事について何よりだ」
屋敷に着き中に入るなり強面のじーさんの出迎えを受けた。
アリオス・ミュラー・ゼルキス。
セリアーナの祖父で、今は当主の座を息子に譲り、その補佐として王都で暮らしている。
俺の居たルトルの街を起点に、領地西部の開拓を先頭に立って進めたパワフルな人らしい。
野盗討伐などゼルキス領のみならず周辺の治安維持にも積極的で、王国東部の発展の中核を担った凄い人。
それがこのじーさんだ。
「バゼット家の娘に傭兵の小僧の事は知っておるが…そいつは何だ?」
その強面&パワフルなじーさんに睨まれている。
マジで1人や2人どころじゃない人間を殺してきた人の眼力は相当なものがある。
「…うっ」
すげぇ迫力だ…。
つい後ろに流れていきそうになるのをアレクに掴まれた。
【浮き玉】は考えたように動いてくれるが、無意識な反応にも応えてしまう。
「領都で私が拾った子ですわ、おじい様。独力で恩恵品を揃えている中々の人材で、いい機会なので王都に連れてきましたの。私が学院へ通っている間、エレナ達と王都ダンジョンを探索させる予定ですわ」
セリアーナの言葉に反応し、こちらをギロリと睨んでくる。
「その小娘がか…?」
「ええ。ご安心くださいミュラー家の損になる様なことは致しませんわ」
後ろからだから表情まではわからないが、多分ニコニコしながら言っている。
祖父、孫の関係とは言え、あの顔を前にこれだけ堂々と言えるんだから大物だわ。
一方じーさんの方は、いかにも信じられないって表情だ。
気持ちはわかる。
「…まあいい。さあ、入りなさい」
玄関ホールでの立ち話を切り上げ、中へ案内される。
お邪魔しまーす。
◇
王都に着いた翌日。
セリアーナ達は何かと手続きがあるようで、エレナ、アレクと一緒にあちこち出かけている。
俺もついて来るか?と聞かれたが、断った。
王都に来る前に、冒険者ギルドで所属変更の手続きをした際について行ったのだが、何をするでもなくただただ浮いているだけだった。
この世界、戸籍管理が進んでいるからか、妙に書類文化が進んでいる。
ただ、何をするにも人力。
アナログだ。
お貴族様パワーをもってしても、何をするにも時間がかかる。
てことで、領都の屋敷と同じく、こちらでも使用人といい関係を築くべくお手伝いをしている。
【浮き玉】は相変わらず大活躍だ。
流石に領都のあのバカでかい屋敷に比べたら小さいが、こちらも十分デカい。
昨日来る途中に馬車から見ただけだが、他の屋敷に比べても大きい方だ。
大きいホールを含めて3~40部屋位は有りそうだ。
他を知らないから比較できないが、ミュラー家ってのは中々の大物なのかもしれない…。
「セラちゃん、上を支えて頂戴」
おっと手伝い手伝い。
【隠れ家】に詰め込んでいるため、馬車1台ではありえない量の私物がある。
どうやってあのじーさんにスキルの事を話さず誤魔化したのかはわからないが、昨日一旦別室に置いていたがセリアーナが出かけている間に、部屋に荷物やそれを収納する棚などを運びこんでいる。
「いや…しかし多いなー」
「やっぱりミュラー家の令嬢ともなると、1年とは言え王都で生活するには必要な物が沢山いるのね」
「本当ね。凄いわ~」
と、お喋りしつつも忙しそうに大量の荷物を運び入れている。
済まん…、俺のスキルがあるから詰め込んでいるのであって、別に王都で順次買っても問題無い物ばかりなんだ。
申し訳ねぇ…と考えつつも、運び込まれた棚に荷物を詰めたり掃除をしたりする。
そして、綺麗になーれ~と何となく口ずさんだその瞬間だ。
『きゃっ⁉』
悲鳴が聞こえ慌てて振り向くと、何か皆光っていた…。
ついでに俺も薄っすら光っている。
…なんだこれ?
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悲鳴が聞こえたのか、作業の監督をしていたじーさんが部屋に飛び込んできた。
【浮き玉】を使っているし、俺の監視も兼ねているのかもしれない。
大当たりだぜ…じーさん。
「なっ⁉…これは…?」
そして驚いている。
そりゃ部屋にいる人間が光ってたら驚くか。
程なくして発光も落ち着き、そして消えた。
「い…今のは何なのだ?」
俺の方を見てそう言った。
まぁ、俺以外新顔いないしすぐわかるか。
素直にごめんなさいをしておこう。
「ごめん。多分今のオレ」
「ふむ…。作業はこのまま続けよ。お前はついてこい」
「へーい…」
仕方が無いと、大人しくじーさんについて行く。
向かった先は1階の奥にあるじーさんの執務室。
「そこにかけよ」
言われた通り、椅子に座る。
ちょっとした応接スペースがあり、剣と槍が飾ってあることを除けば割と普通の部屋だ。
向かいにじーさんが座った。
「あの光は加護だな?多分と言っていたが、まだ使いこなせていないのか?」
「うん。そもそも使ったのはあれが初めて」
「ふむ…お前にもかかっていたようだが、何か変わりはあるか?」
「うーん…特に変わった事は無いかも…?」
体調に変化は無い。
まぁ、子供なんて大体絶好調か絶不調のどちらかか。
後は…
「お?」
「どうした?」
どこか変わったかな?と手を眺めていたら指先のあかぎれが治っていることに気づいた。
他にも心なしか肌荒れもよくなっている気がする。
【祈り】が発動したと思うんだけど、あれの効果って…スキンケア?
◇
「お前らしくない失態ね」
いつの間にやら先に1人帰ってきていたセリアーナに見つかってしまい、事情を説明することに。
まぁ、その言葉は甘んじて受けよう。
スキルやアイテムは実際に使われないと効果がわからない物がほとんどだ。
身内相手とは言え、どこから漏れるかわからないし温存できるならその方がいい。
まぁでもお陰でこの強面のじーさんと多少は打ち解けた気がする。
見た目はド迫力だが、意外と気さくで【祈り】の検証にも付き合ってくれた。
ただ言わせてほしい。
「掃除してたら発動するとか思うわけないじゃん…」
しかも鼻歌で。
「それもそうね。許してあげるわ」
「…ありがと」
「それで?おじい様まで一緒になっていたくらいだし、何かわかったのかしら?王都までの移動中色々試していたけれど、成果は無かったでしょう?」
「うん。いろいろじーさんと検証したけど、わかったよ。オレが何か行動している時に祈ると発動するみたい。で、オレと一緒に行動をしている人間、パーティーメンバーだね。それが対象。人数制限はわからないけど、最初オレ含めて6人にかかってたから、結構たくさん行けるんじゃない?」
「…?移動中私たちは一緒にいたわ。何が違うの?」
「アレクは馬車を、お嬢様とエレナは読書。で、オレがクルクル踊りながら祈る…、あれ別行動ってなってたんじゃないかな?」
道中の様子を思い出しながら答える。
あれは一緒にいただけだ。
「…そう言われたらそうね。効果は何かわかったの?」
「そっちはまだはっきりとは分からないね。傷が少し回復するのと力が上がるのはわかったけど、どれ位なのかとか他にもあるのかとかは、ここじゃ試せなかったから…」
力に関しては、バーベルでもあると差がわかりやすいが、騎士団の訓練場にはあるそうだが、残念ながらここには無い。
椅子や机を動かしたりして調べてみた。
体感だが1割くらい上がった気がする。
俺じゃ大して効果は出ないが、アレクなら中々効果は大きいはずだ。
「そう。ダンジョン探索はお前の分も許可を取ってあるからそこで試すといいわ。ダンジョンでの戦闘中にいきなり発動するような事が無くて何よりね」
確かに。
部屋の中でもいきなり光った時は驚いたからね…。
「ダンジョン行けるの?」
「ええ。でも一人で行くのは駄目よ。2人はまだいくつか準備があるから、それが終わってからにしなさい」
む…まぁ、ゲームじゃないし初見でソロプレイをする必要はないか。
それまであれこれ実験しておこう!
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