第4話
07
たっぷりの湯で汚れを流し、温かい食事に白湯を片手に明かりの下で本を読む。
実に文明的じゃないか。
ちなみにメニューは、パン(盗品)に塩漬け肉(盗品)の切れ端を湯で戻し、ついでに葉野菜(盗品)も一緒に入れたスープ。
そしてカボチャ(盗品)の千切りを塩(盗品)で炒めたものだ。
ビールでもあれば尚良いんだが、さすがにこの歳ではまずいだろうし、育った時の楽しみに取っておこう。
宿や食堂、倉庫から食品は失敬し色々あったし、フライパンは備え付けが、菜箸もどきは自分で作っていたが、肝心の包丁が無かったからここまで野菜に塩振ったのを食べていたからね…
【影の剣】の最初の獲物は塩漬け肉だった。
その後野菜を切ったのだが…。
学生時代一人暮らしを始めたばかりの頃の話だ。
カボチャを切ろうとしたら包丁の柄が折れたことがある。
攻撃力・防御力どちらも野菜界屈指の存在だ。
そのカボチャを、スパンスパンスタタタタタッと、全く抵抗なく切れてしまった。
茹でたりレンジにかけたりせず、生のままでだ。
面白くてついつい1個丸ごと千切りにしてしまったが…、これ凄くないか?
俺の冒険、最序盤で強力武器をゲットしてしまったんじゃなかろうか?
「ごちそーさま」
さて、食材しか切っていないが【影の剣】の力はわかった。
聖貨ガチャ…これは本物だ。
ということは、よく分からない他の2つもきっと凄いに違いない。
まずは【浮き玉】から調べてみよう!
黒い透明感があり、硬く重い、バスケットボールサイズの玉。
見た感じはそんな物だ。
ペタペタ触ったりゴロゴロ転がすが何も起こらない。
使い方がわからん。
投げるにしてはちょっと重すぎる。
名前からして浮いたりするんだろうか?
【影の剣】は指にはめるだけだったが【隠れ家】の様に何かイメージが必要なんだろうか?
【浮き玉】のイメージ…イメージ…イメージ…。
「浮けっ!」
それ位しか思いつかず、手を乗せ気合と共に叫んd…
ゴンっ!
勢い良く浮き上がった【浮き玉】が顎に直撃した。
「っそ…そう来たか…」
あぁ、後ろがソファーでよかったな~、と薄れゆく意識の中でどうでもいいことを考えながら、倒れこんだ。
◇
ふよふよ
ふよふよふよ
ふよふよふよふよ…
面白いなこれ。
今俺は、【浮き玉】に乗っかり部屋中をふよふよ漂っている。
【浮き玉】の強烈な一撃を顎に食らい、気を失ったあの日から3日。
その甲斐あってか何となく使い方がわかり、練習を重ねた成果だ。
触れた状態で「浮け」と念じると浮き上がり、頭で考えた通りに動いてくれる。
また、乗った状態だと、横向きや逆さまになっても落ちることは無く、それどころか、髪や服が下に行く事も無い。
もしかしたら【浮き玉】に引力でもあるのかもしれない。
室内なので、高さや速さの限界はわからないが、動き回ったところ大分余裕がある。
天井まで楽に浮かび、自分で走るよりずっと速い。
それでいて、一か所で浮き続けたり、ゆっくり動いたりもできる。
地味な事だが、キッチンで椅子に乗らなくて済むのは助かる。
操作はずっと楽だが、ラジコンヘリみたいな感じだ。
【魔鋼】に関しては…。
硬くて重たい塊って事しかわからなかった。
もしかしたら、これも触れながら念じれば何かが起こるのかと、あれこれやってみたが何も起こらなかった。
そもそも只の加工用素材かもしれないし、どのみち重くて動かせないし当面は放置でいい。
【隠れ家】の中で出来ることは概ね終えた。
食料はまだまだ余裕はあるし、引きこもろうと思えばいくらでも可能だが、教会内もモニターから見える範囲では、初日や翌日は夜も人が多くいたが今はもういなくなっている。
幸い今日は曇っていて月が隠れている。
そろそろ外に出てみようかな?
08
ふよふよと【浮き玉】に乗っかり夜空を漂うことしばし、潜んでいた教会から大分離れた。
周りの建物が精々3階程度だからか、教会が大分目立つ。
礼拝堂でいいんだろうか?10階位の高さで、同じ敷地に隣接する建物もデカい。
遠目からでもわかるが、屋根の先端にYの形をした物が付けられている。
孤児院にもあったし、もしかしたら十字架の様にあれがシンボルなのかもしれない。
少し気になるのは、規模こそデカいが街の外れにあること。
教会とか街の中心部にあるって思っていたけど…。
領主と仲が悪いのか、それともこの街だけなのか…。
機会があれば調べるのもいいかもしれんね。
それにしてもこの街。
かなりデカい。
正方形ってわけではないから正確にはわからないが、パッと見で2キロ四方位ありそうだ。
そして壁がグルっと街を囲んでいる。
日本ではまずお目にかかれなかった光景だ。
街の中心の方は明かりが見える。
人の姿もちらほらとあるが、あの辺は繁華街か何かかな?
ちょっと気になるが、人目に付くかもしれないし止めておこう。
となると…
教会の丁度反対側に位置し、街の中なのにさらに壁で囲まれている一角がある。
他はどこもある程度密集しているが、そこはどの家も大きいうえ庭も広い。
家というより、屋敷だな。
何かで見たが、お金持ちの家は上にではなく横に大きいとか。
正にそれだ。
通りを明かりを持って巡回している兵士がいるし、セレブな気配がする。
そっちに行ってみよう。
てか【浮き玉】スゲぇな!
スイスイ行けるからついつい高度を上げてしまったんだが、30メートルかもっと高いところにいるんだけど…。
10階くらいの高さだよな…?これ。
速度も原付くらいは出てる。
高度も速度ももっと行けそうな気はするけど…止めておこう。
大丈夫だと思うけど、落ちたら死ぬ。
【浮き玉】の予想以上のポテンシャルに少々ビビりつつ、数分でそのエリアの上空に辿り着いた。
壁の上に兵士がいて、越えるときは少し緊張したが幸い上を見ていなくて助かった。
というよりも、全く上を警戒していなかった。
壁上だけでなく、街中の兵士もそうだ。
もしかしたら空を飛ぶ人間はいないのかもしれない。
いや、普通いないけれども…。
これはもう大怪盗をやれって事なんだろうか…?
さて、空が無警戒なのを良い事に一通り見回ったところ、このデカい屋敷が立ち並ぶ一角で、一際大きい屋敷を発見した。
目抜き通りの終点にあり、高い塀が周囲を囲んでいる。
門前はもちろん、裏も警備の兵がしっかりついている。
外だけじゃない。
明かりを持った人間が庭や、屋敷の中を見回っている。
発見というには少し語弊があったかもしれない。
めっちゃ主張しとる。
この厳重具合…、領主の館かな?
◇
領主の館はデカかった。
ちょっとした、小学校くらいの広さだろうか?もちろん校庭も含めてだ。
まず屋敷自体も大きいのだが、それ以外にも、客人用だろうか?何棟か建っている。
他に、倉庫らしき建物に、兵士の詰め所、訓練所、使用人の住居。
小さいがYの字が屋根についているし、礼拝所らしきものもある。
他にも何かよくわからんのが色々と…。
そして昼夜問わず、庭も館の外も警備兵が犬とセットで見回りをしている。
ただ、犬も兵士も【隠れ家】を見抜く事は出来なかった。
【浮き玉】に乗っていたから足跡を始め痕跡を残していないからってのもあるだろうが、夜コソコソ敷地内をうろついていたが全く気付かれなかった。
流石に姿を見られたらバレるだろうから、そこは気を付けていたし問題無い。
問題無いはずなんだよなぁ…。
『お前、いい加減諦めて出てきなさい』
モニター越しに15~6歳くらいの偉そうな姉ちゃんの声が昨日に続いて今日も聞こえてくる。
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