第3話

05


「むう…これも外れか…」


女神像に捧げていた聖貨をわきに置く。


聖貨を女神像に捧げるってのが作法だと思ったんだけど、違うんだろうか?

前手にした聖貨と見た感じどれも一緒だし、これでいいと思ったんだが…。

38枚全て試したが、どれも何も起こらなかった。


このまま寝かして換金できるようになるまで待つってのも有りかもしれないが、これだけまとまった量がせっかくあるのだし、それはもったいない気がする。


「気合かな…?」


最初の時を思い出してみるが、気合入れてたっけ…?


「はあああぁあああぁぁぁっ!」

「きえええぇぇええぇええっ!」

「ちょぁあああぁぁぁぁぁっ!…けほっけほ…」


むせた。

そして何も起こらなかった…。


「やっぱ違うか…」


引き当てた時はともかく、ガチャが発動した時は特に気合入れてなかった。

となると…。


「数か?」


2、4、6…10!

キリ良く10枚で行ってみよう。

10枚ずつ重ねていたうちの1つを掴み、女神像に捧げた。


「おっ…⁉」


10枚で正解だったのか、1秒ほどしてから頭の中でドラムロールが鳴り響いた。



「前は隠れ家欲しいなーとか考えてたら見事に来たけど、何かそういうのあるのかな?何がいいかなー。魔法とかいいかも?超強いやつ!」


ソファーから立ち、小躍りしながら気合と共にポーズを決め叫んだ。


「カモンッ!」


ドラムロールがファンファーレに変わり、頭に言葉が浮かんでくる。


「…ん?」


浮かんだ言葉は【浮き玉】

訳の分からない物が来た…。

何だ?これ。


そんな事を考えていると、顔の高さの目の前に、何やら黒い物が現れ、そして…


「お…?って、どぅぇぇええぇぇ⁉」


ゴズン!と重量感の音を立てながら、床に落ちた。

慌てて身を躱したが、裸足だし直撃したら危なかったかもしれない。


「…何これ?」


息を整え、ペタペタと触れてみる。


バスケットボールくらいの大きさだろうか?

黒い球体で、硬く冷たいものの金属とは違う気がする。

そして重たい。

10キロ以上はあるだろうか?持ち上げられるが、無理をせずゴロゴロと隅へ転がした。


少々思っていたのと違ったが、まだ後2回出来る。

気を取り直してやってみよう。


「良いの来い良いの来い良いの来い…」


そう念じながら聖貨を捧げ、ドラムロールが鳴るや即止めた。

浮かんだ言葉は【魔鋼】


「…んんん?」


また知らん物が出た。

さっきの失態を繰り返さないよう、1メートルほど下がりながら様子を見守っていると、黒く四角い物が現れ、そして…


ガンッ!


と、またも重量感ある音をたて床に落ちた。


「……何なんこれ?」


黒く光沢のあるレンガブロックサイズのインゴットだ。

つつくと、キンキンと硬い音がするが、鉄や鋼鉄。

この世界にあるかはわからないが、アルミやジュラルミンとも違う。

【魔鋼】と言うようだが、ファンタジーな物なんだろうか…?


「おっ…重いっ」


見てもこれが何かわからないから次行こうと、隅に持って行こうとしたのだが、これが重い。

さっきの玉も重かったが、それどころじゃない。

多分20キロ以上ある。

俺より重いんじゃないか…?


「ひぃひぃ…」


座って足の裏で押しながら何とか移動させられた。

結構ゴリゴリ行ったはずだが、フローリングに傷は入っていない。

この部屋自体ファンタジーの産物だし、そんなもんなんだろうか?


それはさておき、残り18枚で、多分後1回で終わりだ。

今の所よくわからない物しか出ていない。

共通点といえば重たいって事くらいだが、それは多分関係ないんだろう。


「良いの出ろ良いの出ろ良いの出ろ…」


先程と同じくそう念じながら再び聖貨を捧げた。


「良いの出ろっ!」


例によってドラムロールが鳴り響く中、今度はより気合を込めて叫んだ。

そして浮かんだ言葉は【影の剣】


こっこれは!良い物か⁉

剣!それも何か影!

これは、ファンタジーの香りがするぞ!


06


【影の剣】


影ってのがちょっとわからないが、ようやくどんなものが出るかイメージできる物が来た!

ただ、何てったって剣だ。

刃がむき出しって事は無いかもしれないが、もしそうだったらスパンッと行ってしまいかねない。

こいつぁデンジャーだぜ…。


「おっ…!って、と、と…」


どんな物が現れるのかと、先程より更に一歩下がって現れるのをワクワクしながら、「ふひひ」と見守っていた所、現れたのは妙に小さい物だった。

床に落下する前に、慌てて走り寄って受け止めた。


「…指輪?」


落とす事なくキャッチ出来たそれは、銀色で中央に黒のラインが入ったものの、彫刻や宝石がついているわけでもない、極シンプルな指輪だった。


素材は何だろうか?

銀かプラチナだろうか?

ちょっとわからない。

まぁ、金属製。


さて、問題は。


「…剣は?」


これは何ですか?指輪です。

よくある例文が頭をよぎった。


指輪。

そう指輪だ。

指に着ける輪っかで、ネックレスに通したりなんかもするが、少なくとも剣じゃ無い。


「……剣は?」


剣は?



何とも評価しづらい結果に、しばらく落ち込んでいたものの【隠れ家】の例もあるし、この3個も何かあるかもしれない。

前向きに行こう!


「はめるんだよな…?」


とりあえず使い方がわかる指輪から調べることにした。

今のサイズ的には親指が丁度良い位だがそれはちと不格好だし、ブカブカだが人差し指にしよう。


「噛みつかないよな…?」


ちょっとイタリアの「真実の口」を思い出し少し不安になるが、はめないことには始まらない。

軽く息を吐いて気合を入れ直し、右手の人差し指に通した。


「おっ…おお⁉」


付け根まで通したところでキュッと縮み、指に丁度あったサイズになった。

同時に、何故か指輪をはめた指の爪が、マニュキュアを塗ったように真っ黒に染まった。

これ呪われてないよな…?


「あ、外れた」


ゲームみたく外せなくなったらどうしようと思ったが、そんなことは無かった。

指輪は外すとまた元のサイズに戻り、黒く染まった爪もまた元通りになった。

もう一度はめると黒くなり、外すと戻る。

これだけなんだろうか?

この黒い爪が何かある気がするんだけど…。


しばらく爪を観察したりつついたり指輪をはめたり外したりしていると、爪が黒く染まる瞬間に、指輪との間に薄っすら光るラインがあることに気づいた。


指輪をはめることで体に何かが起こり爪が黒く染まるのではなく、爪に直接何かを行っているって事かもしれない。


つまり…


「伸びろ!」


声に出しそう念じると、黒い爪が20センチほどの長さに伸びた。


「ぉぉぉ…」


その状態でよく見ると、この黒い爪は自分の爪の上に被さっていることが分かった。

爪の根元から生えているものの、指に沿って湾曲せずストレートになっている。

左手で恐る恐る触れてみたが、全く曲がりもしなりもしない。

強く押さえても、人差し指は何の感覚も無く、自分の爪とは全くの別物なんだろう。


「戻れ」


声に出しそう念じると、黒い爪こそ残ったものの長さは一瞬で元に戻った。


「ついにファンタジーが…!」


【隠れ家】も凄いのは確かだが、何というか実感しにくい。

それに対し【影の剣】は指輪はサイズが変わるし、爪はシャキンシャキン伸びるし…これは楽しいぞ…!

大当たりじゃないか!


グゥゥ~。


「む…」


そういえば聖貨ガチャに浮かれてすっかり忘れていたが、食事をしていなかった。

モニターで外を覗いたらもうあたりは真っ暗だ。

時計が無いのでわからないが、街に着いたのは夕方頃。

どんだけ集中していたんだろうか。


残りの2個の確認や教会から出た後等考えるべきことはまだまだあるが、風呂入って食事とって一休みしよう。

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