第43話
「事態が飲み込めただろう?とにかく、俺の代わりの重しになる岩を取ってくれないか?礼ならするし、立ち入り禁止の夜間に魔窟に入ったことは黙っていてやるから」
うぐっ。
そうだ。
女だとばらすって脅されたって、別の場所い移動しちゃえばいいけど……ギルドの規則を破ったなんて報告されるのは困る。
あんたこそなんでいるのよなんて言える立場じゃない。調査のためとか言ってたし。
はー。仕方がない。私の負けだ。完全に私の負け。
すごすごと、背中を丸めて髭面の男の前から歩き出す。
「おい、女!」
すごすご。
部屋の入口付近の岩に手を置く。
「これくらいでいい?」
ちょうど、髭面の男と同じくらいの、高さが190センチくらいありそうな細長い岩だ。
「馬鹿か。俺の代わりっていっても、俺と同じくらいの大きさって意味じゃない。重さが同じぐらいあればいいんだ。そもそも、そんなでかい岩、お前に運べ……」
うっさいなぁ。もう。
ひょいっと、片手で岩を持ちあげる。
「ああ?馬鹿は馬鹿でも馬鹿力かよ!」
だーれーがー、ばーかーかー!
ふんっ。
ぶんっと思いっきり、岩を髭面に向かって投げつける。
「ああ」
やっちまった……。
いつもの、癖で。
自然な流れで。
なんだか、お父様のようなイラっとさせる感じだったので……。
お父様相手にするような、力加減ナッシングで、投げつけて、しまった。
これ、やばいやつやー。
惨殺者……って言葉が頭をよぎる。
あ、頭と、内臓にぶち当たらなければ……ワンチャン……。
いや、でも、私、コントロールにはいささか自信がですね……。
いつも、お父様の頭に向かって正確にどんな形の物でも投げつけられると言う自信はですね……。
どうする、私……!
そうだ、岩を砕けばいいっ!
瞬時の判断で、足に強化魔法をかけぐっと地面を蹴る。
岩よりも早いスピードで飛び、グーパンチを岩の中心に向けて繰り出す。
ぱぁーんと割れて飛び散る破片。
よかった、これなら、最悪頭と内臓は無事なはず!
「うわぁ!なんだ!」
割れた岩の向こうに髭面の男の驚いた顔が。
「あっと、ごめんぶつかるっ!伏せて!」
そうだ。岩の向こうにいるに決まってる。
伏せてもらえれば、そのままくるりと体を回転させれば回避できるハズで。
って、男は、そのまま両手を広げた。
何してんだよっ!お父様みたいなことしてる場合じゃないんだからっ!
回転してしまえばちょうど足で顎を蹴り上げそうなのでそのまま何とか勢いを殺せないかと考える。
髭面の男の姿はもう目の前で……。思考が追い付かず、そのままぶつかった。
「ああ、もう、何なんだ、お前……」
痛く、ない。
「あ……」
髭面の男の胸の中にいた。
男は、ちょっと眉をしかめたものの、平然とした様子で、私を抱きとめる形で尻もちをついていた。
「無事……なの?」
お父様じゃないのに、あの勢いで私、ぶつかったのに……。保健室とか必要ないの?
「無事……じゃないな……、ところで、お前名前は?」
名前?いや、まさか、慰謝料請求のために?
「普通、男の人から名乗る者では?」
「ぷっ。そうだな。俺は、そうだな。ミスターエックスとでも呼んでくれ」
ミ、ミ、ミ、ミスターエックス?
「な、ナニソレ……」
まじ、ナニソレ。
カッコよすぎる。
ミスターエックス。
二つ名なのかな?
超カッコイイ。
「なんか、お前、顔、おかしいぞ?今は馬鹿にした目をする場面だぞ?で、お前の名前は」
「ギーメ」
「ギーメか。それで、無事じゃないってのはな、それだ」
ミスターエックスが自分の足を指さす。
尻もちをついて、立っていた場所から後ろに後退している。
「ボスが、出て来る……すまん。ギーメ、巻き込むつもりはなかったんだ」
ミスターエックスが申し訳なさそうな顔をする。
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