第42話

「あーーーーっ!そうだった!核!核!かーーーーーうぅーーー!」

 魔窟が無くなれば、とれたて新鮮オイシイ核が食べられなくなるじゃん!

 いや、今も食べられないんだけど!

 頑張って取る練習すればいつかは……いつかは……と思っているのに。

「まぁ、数年もすれば新しい魔窟ができるだろうから、実際のところはどうでもいいんだけどな」

 はぁ?

 グイっと髭面の男の襟首を両手でつかみ上げる。

「どうでもいい?そんなわけないでしょう!どれだけたくさんの私の分身……じゃない、初心者冒険者がここで働いていると思っているの?それに、何年もって、私はここにいられる時間はそんなに長くないんだからっ!」

 北の国で逃亡生活するのは3年。

 ん?別に3年たって、追われなくなったあとは自由なんだし、ずっと北の国で魔窟で生活すればよくね?

 お金貯めて、魔窟付きの土地を買って、魔窟の中に家を建てて、四六時中取れたての核を食べる生活。

 ……魔窟の中の家……。うっかり魔の物を倒す勢いで自分で壊しそうな未来が見えたけど……。

 いや、きっと大丈夫。そのころには力加減を覚えている。

 私、学習能力ある天災。――って、誰が天災だよ!天才だよ、天才!

「あ、ああ、怒るなって。だから、普段はボス部屋に近づくことすらしないようにしてたさ。だが、魔の物が全く出ない。昼間に魔活性が起き巨大なウサラビーが出現したと言う話しも聞いた。何かが起きているんじゃないかと、今日はボス部屋まで調査に来たんだ」

「それで、罠を踏んづけてしまったと……、調査員に向いてないんじゃない?」

「……ああ、そうだな。だが、並みの人間じゃ調査から帰れない可能性もあるだろう、その点俺なら問題ないしな」

 調査から帰れない?

「迷子にならないってこと?この魔窟、迷うほど複雑じゃなかったと思うけど」

 もし、こんな単純な魔窟で迷子になるなら、調査員辞めちまえ!ってマジで思うわ。問題だらけじゃねぇか。

 罠は踏むわ、迷子にはなわ、謎は解けてないわ、か弱い一般の初心者冒険者を怒らせるわ。

「はぁー、分かってないな」

 は?

 何、その、盛大なため息!なんで、私の方が残念な子みたいな扱いうけてんの?

「どうして、お前はそんなに恐怖を感じない?危機感が薄いと冒険者は生き残れないぞ」

 は?恐怖?危機感?

 首をかしげると、

「迷子になって帰れないんじゃない、普通は、魔の物にやられて帰れないんだ。特に何が起きているか通常とは違う状態の調査では」

 !!

 迷子になったら、私ならボスやっつけて魔窟消滅させちゃえば問題ないけど、他の人は迷子になったら大変だよな、帰り道わからないからと思ったのに、違った!

 色々私と普通の人の違いを考えたのに、違ったよぉ!

 くっ。

 そうか。巨大ウサラビーに倒されそうになってたもんな。普通の初心者冒険者……。

「この状態も、通常であればボスが出てきても倒せばいいが、今回は異常事態だ。3級魔窟の通常のボスとは違う、得体のしれない何かが出て来る可能性がある。その場合、俺一人で対処ができないかもしれない」

「得体のしれない何か?」

 わくわく。

 サンキュー魔窟!

「お前、楽しそうだな、だから、危機感持て!」

 あれ?楽しそうなのバレた?

 変ですね、私、公爵令嬢としてなるべく感情は表に出さない訓練を……ですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る