第41話

「あ?北の国の人間じゃなくても?まぁ、どの国にも魔窟はあるからな。だが、実際、冒険者の中でも知らない者も多いんだがなぁ、お前は良く知ってたな、そのなりからすりゃ初心者だろ?」

 うわー。

 いろんな意味で、うわー。

 思わず北の国って言っちゃったよ。私は違う国の人間って言うようなもんだよね。どうやら、髭面のおっさんは気が付かなかったみたいだけど。

 それに、初心者冒険者のフリしてたんだ。何度も魔窟ぶっ潰してるからボス部屋のことも知ってるの普通のことだと思ってた。

「ボス部屋だけど、魔の物でないなら問題ないじゃん。じゃ、」

 くるりと再び背を向ける。藪蛇になる前にさようならだ!

「罠を踏んだ」

 はい?

「俺の右足の下が、どうやら罠になっていたようだ」

 罠を踏んだ、ですって?

 それは、聞き捨てならない言葉だ。

 振り返って、髭面の男に近づく。そして、思いっきりにやりと笑ってやった。

「いい大人が、罠を踏んでしまうなんて」

「笑いごとじゃない。がちりと下にスイッチのようなものが下がった。足をあげると、完全に何か発動するはずだ」

「何かって、ここボス部屋だもん。ボス部屋のスイッチなんて、ボスが出て来るスイッチに決まってんじゃん。そんなことも知らないの?」

 ってしまった。私、またもや初心者冒険者の設定忘れて、ペラペラと……。

「なんだ、分かってるじゃないか」

 髭面の男がニィッと笑う。うきー。なんだろう、負けたような気持ちになるのは……。うぐぬぅ。

「じゃぁ、俺が頼みたいことも分かるだろう?」

 は?

 足をあげると、ボスが出ることが予想される。そこで、私に頼みたいことがある。

 ピカピカピーン!

 なんだ、そういうことか!

「なあんだ、一緒にボスと戦ってほしいのか」

 だったら初めからそういえばいいのに。

 仕方ないなぁ。こう見えても、……初心者冒険者に見えても、私、魔窟ぶっ潰したことあるから……任せときなさい!

「お前なぁ、俺が、女に助けを求めるようなクズに見えるか?もし本当にボスが出るんなら、迷わず逃げろって言うさ」

 ん?

「クズに……見える……」

 なんかスゴイシツレイな物言いするし。牢屋に入れられてるし。あ、それは幻だった。あかん。あかん。

 なんか、足に重りもつけられてる幻が見えてきたぞ……。だって、似合いそうだもんな。

「あー、あー、だから、悪かったって。俺の悪い癖だ。気に入った人間をからかうのは……」

 は?

 気に入った?

 何言ってんだろう。迷惑なんだけど。からかうと面白いっていってからかうのって、それ、い、じ、め!

 もしかして、からかって面白いんじゃなくて、実はからかった後に嫌な顔で睨まれるのが好きなんじゃないだろうね?

 ザ、父と同じ系!

 こいつもやばい奴だ。近づいたらダメなやつだ。

「頼む、足をあげると、俺の重みが無くなるからスイッチが入るなら、俺の代わりになるものを重しにすればいい。だが、俺は重しを取るために動くわけにはいかない。俺の代わりに重しになりそうなその辺の岩を取ってくれないか?」

 なんだ。

「ボスが怖いのか……」

 ぼそりとつぶやく。

「は?お前、本当は何も分かってないな?ボスを倒せば、この魔窟は消滅する」

 知ってるわ!

「比較的安全に、お前たちのような初級冒険者が稼げる魔窟が一つ消滅する」

 ん?

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