第39話
ごろりと地面に寝転ぶ。
「……」
そういえば。
「……」
さっきまで、寝てたんだ。
「あっかーん、お母様が言ってた。食っちゃ寝してたら、なまるって!」
体がなまったら、大変なことになるって!
動かなくちゃ。
もういい。巨大ウサラビー諦めた。
次いく、次ブヒブヒーが出るはず。
って。いない!
次だ、次!
いつの間にか、速足になり、そして、駆け足になり、全力疾走。
うわぁーーーーん。全然、魔の物出てこない!
こんなの、魔窟じゃないっ!
魔窟って言えば、うじゃらって魔の物が出てきて……。
ばっさばっさと切り捨てたり、ドゴーンドゴーンと打ち据えたり、バシュンバシュンと抹消したり士ながら進んで行くものでしょう。
体がなまっちゃう。
やばいわ!ただの走行訓練。
走るだけじゃ、ちっとも鍛えられない。
仕方がありませんわ。ダンスのステップを取り入れましょう。
はい、ではワルツのリズムを10倍速でいってみよう!
リバースターンからの、ナチュラル・スピンターン、ウイスク、ウイスク、シャッセ・フロムpp~!
はい、続けて続けてリバース・コルテに、バック・ウイスク、ウイスク、バックウイスク。
それから、プログレッシブ・シャッセ・ツー・ライトに、ウイーブ・フロムPP~。
レフト・ウイスク、フォーラウェーリバース・アンド・スリップピボット、からの優雅にウイスク、ウイスク!
「おい、そこの、馬鹿みたいなスピードでグルグル回ってる女」
ん?
空耳かしら?
「聞こえないのか、そこの女!」
ん。空耳ね。
だって、どっからどう見たって今の私はショウネン。
そして、この部屋にはモンスターはいないし、部屋の一番奥の片隅に、髭面のおっさんがいるだけだもん。
女なんて、どこにもいなぁい。
「聞こえないのか、そこの女」
ん?
あれ?
もしかして、髭面のおっさんがなにかしゃべってるの?
「ったく、そもそも、こんな夜に魔窟の最奥部にいるなんて、まともな女なわけないか。常識的な会話すらできないらしい」
イラッ。
私が、まともじゃない?非常識?
その前に馬鹿とかも行ってたわよね?
だいたい、用があるのに、そこの女とか失礼じゃない?
ぴたりと回るのをやめ、髭面の男の近くまで大股で歩みよる。
2mほどの距離まで近づき、腰に手を当てて男の顔をにらみ上げる。
「初心者ショウネン冒険者の僕に、なにか用ですか?」
黒い髪をだらしなくのばし、顔の半分は黒い髭に覆われている。
おっさん……だと思ったけれど、近くで見ればまだ30になるかならないかと言ったところか。
前髪の奥に見える目は、切れ長で鋭い。ちゃんと髪の毛整えて髭もそれば小汚いおっさんなんて思われない容姿をしてる。
ああ、あれだ。なにかに似てると思ったら、王太子が無実の罪でとらえられ牢屋に入れられて3カ月くらいたった感じに似てるんだ。
まぁ、そんなの見たことないけど。
なんでそんなふうに思ってしまったか。……あれだ。
ニックの時にも幻が見えたけど、髭面おっさんの周りにも幻が見えた。落ちぶれても心までは支配されない孤高な感じを漂わせる面構えに。
あ、あと、あれだ。ニックの時にも思ったけど、違うんだよね。冒険者というか普通の人と、立ち方が。
貴族って、それはもうなんか、馬鹿みたいに、立ち方だの歩き方だの小さなころから訓練される。
頭の上に本を置いて落とさないように歩きなさいとか。そのあとは、本の上にコップを載せられ落とすな。水の入ったグラスに代わりこぼすなとかさぁ。
まぁとにかくそんな感じで訓練に次ぐ訓練を受け、やたらと姿勢がいい。何の役に立つのか?
そりゃ、姿勢の悪い貴族がいれば、なまけ癖があるんだろうとか想像もできる。いわゆる、無邪気で可愛くて思わず守りたくなってしまうすごくかわいい男爵令嬢と恋に落ちたとしても、立ち振る舞いを見れば、苦労や努力ができる人間かどうか、真面目かどうかが分かってしまう。
つまり、家を守る女主人として、歳をとりかわいさが失われた後も人として敬える相手かどうかが分かるってなもんよ。
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