第34話
「丸焼きにしようとしたみたいだけれど、血抜きはした?」
「ち、ぬ、き?」
ウサギだろう?
たぬきの仲間みたいなこと言い出したぞ?
と、首をかしげると、青年がにこりと笑いながら、ベルトにさしてあった短剣を取り出しズバーンとウサギの首を切り落とし、尻尾も切り落とした。
ざばざばとウサギから流れ落ちる血。
「ああ、あああ」
血だ。珍しいものを見て、思わず声が出る。
魔の物は息絶えれば数秒もしないうちに姿が無くなる。血が出てもそれもすぐに消え去るのだ。
「あ、血も飲みたかった?ごめんね」
青年が慌てだした。血を、飲む?は?
「あー、とりあえず、喉が渇いてるなら水を飲む?」
王杯を青年が背中に回してあった鞄から取り出す。って、ただのコップだよ。王杯は、まぼろしぃ~。
「水よ、コップを満たせ」
水の入ったコップを差し出された。
「あ、そうだ」
何かを思い出したように青年はポケットから小さな宝石を取り出した。
いや、青年が貴族っぽすぎて何もかも高級品に見えるけれど、宝石じゃない。薄紫色の親指の爪くらいの大きさの塊。
「核?」
「うん、そうだよ。魔窟に行けばいくらでも取れるからね」
ぽいっと水の入ったコップに核を放り込む。
しゅわわわわと泡を出しながら、核が水に溶けた。
「どうぞ」
あまり喉は乾いてないというか、水なら魔法で出して飲めるし……と、思ったけれど勧められるままにコップを口にする。
「あ、おいしい」
ほんのり甘い。ただの水に比べたら、格段においしい。
「水魔法が使える人間はさ、コップなんて必要ないんだけどね。核をいれて飲むのにはあった方が便利なんだよ」
にこにこと笑って説明してくれる。
「なぜ、そんな説明を?」
「いや、ほら、いちいちコップを使って水を飲むなんて、また、貴族みたいだって思われたんじゃないかと思って」
あー、あー、確かに。冒険者ってわざわざ食器なんて持ち歩かないか。
普通がよくわからないけど。
「貴族みたいというより、王子様みたい」
青年がぶっと吹き出した。
「いや、はは、それははじめて、いわれた、な……。えーっと、あーっと、そうそう、そろそろ血も抜けたかな?血を抜いた後は、皮を剥いで内臓を取って……と、ほら、こうするんだけど」
青年が、しゃがみ込んで短剣で器用にウサギをさばきだした。
あっという間に普段目にする肉になる。
「すごい、なんか、すごい……肉だ。肉……肉ができた」
「ぐぅーぐーぐぅー」
感激して声をあげると、お腹も同意している。
「ふふふ、そりゃ、僕は見た目はどうあれ、冒険者だからね。一通りのことはできるよ」
にこっと笑った。
そうか!冒険者、やっぱりすごい!
自分で肉を作れちゃう。
世界で最強なのは冒険者!
肉、食べ放題。核も、食べ放題。
「すごい!嫁になりたい!」
思わず出た言葉に、青年が目を丸くした。
「ん?」
え?
何か、おかしなこと言いました?
「あ、いや、わた、僕が女の子だったら、えーっと、お兄さんのお嫁さんになりたいって……あ、あはは」
ボクは、ショウネン冒険者。
変装中。
男の子が嫁とか、何言ってんだ案件。
「良く言われる」
さらりと青年が肉を食べやすい大きさに切りながら言った。
「そ、そうだろうね!美味しい核も魔窟で取り放題で、肉もこんなに上手に料理できるんだもん。ちゃんとコップも持ち歩いてすぐに美味しい水作って飲ませてくれるし、最高の旦那さんだよね!」
お父様を思い出す。
……強いが、核を溶かした水なんて一度も話題になったことがない。魔の物は一掃するもの、消滅させるもの、ちんたら1体ずつ倒して核を取り出すなんて愚の骨頂!片腹痛いわ!笑止!強さの証明こそ冒険者の証!とか言って、冒険者たちに睨まれて、背中をぞくぞくさせてたに違いない。
……くっ。あんな男には絶対嫁がない。お父様に似た男性に惹かれるなんて言葉も聞いたことはあるけれど……。
あ!いいこと考えた!
お父様に似てない男性って、つまり、弱いってことよね。
お母様が「私より強くなったら結婚してあげる」ってお父様に言ったみたいに、私も条件考えておくのもいいわね。
私より弱い男と結婚したい。……おや?それはなんか違う?
首をかしげていると、青年がびっくりした顔をしている。
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