第35話

 あれ?なんで?よく言われるって自分で言ってたじゃん。今更、褒められてビックリするとか??

「冒険者の僕が、最高?」

 ぼそりと呟きを漏らしている。

「あははは、それは、あはは。容姿を見てお嫁さんになりたいとか好きとか言われることは今まで数えきれないほどあったし、地位や財産狙いで近づいてくる女性は数多にいたけれど……。ぷっ、くっくっく」

 あ。

 そうか!そっちか!顔いいもんな。気が付かなかった。

 地位や財産?まぁ身に着けてる装備とかそこそこだし、核や獣のさばき方とか手際がいいし、それなりの冒険者なんだろうから稼げてるのかな。

「核を取って獣をさばいて……あはは、それで嫁になりたいなんて言われたの、はじめてだ。いいね、それ。僕の、外側じゃないこと見てくれてるんだ」

 ?

「外側じゃない?でも、何ができるとかできないとかって、外側じゃない?」

「容姿も地位も、僕が自分で手に入れたものじゃないからね。でも、冒険者として身に着けたことは、僕自身が選んで努力してこうしたいと思って手にいれたことだ。冒険者なんて顔に傷がつくからやめろって……それは、僕がやりたいことを全く見てくれてないだろう?」

 冒険者なんてやめろ……?

「冒険者やめろなんて言う人いるの?なんで、お兄さんみたいに優秀な冒険者が冒険者やめなくちゃいけないの?核も上手に取れるのに?核もろくに取れない人間だって、冒険者になろうと頑張ってんのに、核が上手に取れるお兄さんに冒険者やめろって言うなんて、信じられない……」

 初級冒険者としての仕事すら全うできない、私みたいな落ちこぼれもいるのに……。

「ふふふふ、まぁ、核はみんな取れるようになるだろうけど……」

 え?

「そんなこと言われたら……君が女の子だったら、お嫁さんにしたいよ」

 ええ?

 お嫁に、なりますよ?

 って、違う。

 私、ショウネン冒険者。

 女だってバレちゃ、どこから噂が回って候家の人間に見つかるか分からないので、変装を解くわけにはいかない。

 危ない、危ない。冷や汗が垂れる。

「そんなびくついた顔しなくても、大丈夫だよ。男の子をそういう対象に見ることは無いから安心して」

 にこっと青年が笑った。

 ほっ。よかった。

「僕の名前はニック、君の名前は?」

「あ、リ……」

 リザって名乗るところだった。あぶなーい。なんか自然に名前聞いてくるんだもん。ニックさん。ふぅ。あまりに自然な流れと、舞踏会にいるような幻とで、家名まで名乗っちゃうところだったわ。えーっと、偽名、偽名、偽名、ショウネンの偽名、うーんと。

「ギ……ギーメ……ギーメです」

「ギーメ君か」

 ああああああ、私の馬鹿。もうちょっとマシな名前思いつかなかったのかぁ!

 まぁいい。まあぁいい。

「ぐう、ぐう」

 お腹もまぁいいと言ってます。

「ふふ。相当お腹が空いているみたいだね」

「ぐう」

 こら、私より先に返事しないの。

「これから、薪を拾い集め、火をつけて肉を焼くのが待ちきれないんじゃないかい?」

「ぐう、ぐう」

 いや、お腹!おしゃべりだな!

「ふふふ、じゃぁ、ギーメ、次から肉を焼こうとするときは、ちゃんと枯枝を集めて、生木を焼かないように気を付けるんだよ。今日は特別。魔力が無駄になるから、他の人はこんなことしないんだけどね」

 魔力?

 無駄?

 肉を焼くために使う魔力が無駄なんて、ありえませんわ!

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