第30話

「うん、狙い通りのところに命中したみたい。えーっと、こんな時には……」

 たしか、なんか、魔の物じゃなくて、動物を仕留めた時には何か言う言葉があったような?

 えっと……。

「しーとーめーたーぞぉーーー!」

 ……なんか違う気がする?

 まぁいいか。

 耳の根本をひっつかんで、持ち上げる。

「……えーっと、念のため?」

 そっと、尻尾を指の先でつまんでみる。

 魔の物のように、消滅もしなければ、鼻の先から核を出すこともない。

「……ぐすん、知ってるもん。動物は魔の物と違うんだもん。知ってるもん。核……出すわけないもん。ウサラビーとウサギは違うんだもん……」

「ぐぅ」

「あー、はいはい。すぐに食べようね」

 お腹と会話。

 さ、寂しいわけじゃないからね!

 持ち上げたウサギを眺める。

「生で、丸かじり……、ダメ、リザ、知ってる」

 あれは、5歳くらいのときだっただろうか。

 公爵家でガーデンパーティーが開かれた。

 なんと、目の前で肉を焼いて食べるという、街の人たちがお祭りのときに楽しむというスタイルだ。

 まぁ、普通の貴族はそんなことしないんだけど。今思えば、お父様もお母様も冒険者の経験があったから、煙の臭いが服につくとか、焼いただけの肉なんて料理とは言えないとか、およそ貴族が嫌がりそうなこと、全然平気だったんだろうなぁ。

 ……まぁ、むしろ……。

「これは私の肉ですわ」

「じゃぁ、こっちが私ので、いいかな?」

 と、競い合うように肉食べてたな。

「リザ、まだ焼けてません!肉はしっかり焼いて食べないとダメですよ!」

 パチンとお母様のお肉に手をのばしたら叱られました。

「リザ、ダメだ。これもまだ焼けてないぞ。肉が焼けたら、色が変わるんだ」

 お父様のお肉に手をのばしたら目の前から肉を取り上げられた。

「お嬢様、こちらのお肉が食べごろですわよ?」

 侍女が、私の皿にお肉を乗せた瞬間。

「おねーちゃまばっかりじゅるいの!」

 奪われる肉。

 くっ。

 な、泣いてなんかないやい。

 とにかく、肉は、焼いて食べる。

 しっかり焼かないと、ダメ。

 じーっと、ウサギを見る。

 焼くと言えば、魔法。だけど、私は天才だから。知ってる。

「魔法で焼こうとすると、消し炭になる。たぶん、そう。私の魔法じゃ、消し炭になって、ああああってなる」

 ふっ、そんな状態くらい、私だって想像できるさ!天才だからね!学習能力のある天才だからね!

 えーっと。確か、火は、木を燃やすんだわ。

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