第27話

「そう、痛くないならいいわ。どう?とれたては美味しいわよね」

 はい。今度は、春の花畑にいるような香りが鼻を抜けます。蜂蜜のような甘さが口いっぱいに広がり、美味しいです。

 きっと、今度こそ私にもできる気がします。

 だって、耳をひっつかんで、大声わーでしょ?

 声は普通よ?

 で、気絶させたところで、尻尾をぎゅっ。

 ……ぎゅ?

 あ、なんか無理みたいな気がしてきた。

 ぎゅっとする代わりに、親指と小指の先でつまんでみようかしら?

 そうよ、髪の毛をつまみ上げる感じ……力加減ですれば!

「きゃぁーーーっ!」

「うわぁ!逃げろ!」

 何ですの。

 きゃーきゃー、びーびー。

「はっ。大変だわ。すぐに逃げましょう」

 少女が騒ぎの起こった方向に視線を向けて、焦ったように声をあげた。

「みんな、すぐに逃げるのよっ!魔活性だわ!」

 魔活性?

「え?まだ鐘は鳴っていないのに?」

「そう、日が落ちたはずはないのに、昼なのに信じられないけれど、魔活性よ!」

 魔活性すると、えーっと、魔物が外に出て来るって言ってた。

 大変なこと?

 少女が私の手をつかんだ。

「あなたも早く逃げましょう。魔活性すると、普段は出ないような強い魔物が現れるのよっ!数年に一度昼間にも起きることがあるの!」

 普段よりも強い魔物?

 きょとんと首をかしげる。

「きゃーいやぁー!」

「こっち来るな、こっち来るな」

 私の分身たちが、悲鳴を上げて逃げまどっている。その中の何人かは恐怖で思うように動けないのか、しりもちをついてしまっている。

「危ないっ!」

 少女が剣を構えて飛び出した。

 その足取りは決して優雅とは言えない。

「えーっと、あれが、強い魔物?」

 確かに、そのあたりにウロウロしてるウサラビーとはっきりと違うことは分かる。

 ……なんか、でかい。

 通常のウサラビーは、膝の半分までの高さくらいまでしかないし、耳を片手でひっつかんで持ち上げられる大きさだ。

 突然現れたのは、その何十倍もある巨体。

 巨大ウサラビー。

 背中に乗っかれるサイズ。

 耳は両腕を回さないとつかめないようなサイズ。

 ビョン、ドシン、ビョン、ドシンと、鈍い動きでへたり込んでいる私の分身たちに近づいていく。

 その子たちをかばうように、少女が前に出て、剣を振り回した。

 剣は、巨大ウサラビーをかすめるけれど、全く傷をつけることはできないようだ。

 うん、たぶん毛も分厚いよねー。でかい分、なんか堅そうだし。もふもふ感なさそう。

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