第20話

「ただの、初心者冒険者の少年です」

 名乗るほどのものではない。

 じゃない、名乗るとやばいものではある。

「は?」

 はって、どう見てもそうでしょ?

「えーっと、あの魔窟って誰でも入っていいんですか?」

 授業料を払わないと押してもらえないかもしれないけれど、質問してみた。

「ああ、そうだな、普通は初心者が入る場所じゃねぇが……」

 え?初心者だと入っちゃダメな場所があるの?

「冒険者であれば今なら誰でも入れる」

 ほっ。よかった。

「って、今なら?」

 入っちゃだめな時もあるってこと?あれ?今だけ特別大サービスみたいなラッキータイム?

 急がなくちゃ!

「太陽が出ている間だけ入ることができるんだ。入口で入った人数がチェックされる。日が沈むまでに出てきた人数と数を合わせられるようにな」

「んー、もしかして、入り口の門みたいなやつが、そのための物なのかな?入っちゃだめな時間は締められるとか?」

「ああ、それもあるが、夜は魔活性の時間だからな。あの魔窟は3級窟で、夜になると魔物が外に出て来る可能性があるから、締めるんだよ」

 魔活性の時間?

「魔活性って、魔物が強くなるの?」

 噂では聞いていたけれど、うちの国にはそんなの無かったんだよ。

 だってさ、内陸部なんだもん。

 もともと魔は海から現れるって。もうちょっと言うと、北の海の向こうに魔大陸みたいなのがあるって噂があって、その魔大陸からやってくるって。

 海沿いのしかも北になればなるほど魔窟も増えるし、やばいのも増えるとかなんとか。

「やっぱ、修行と言えば、北の国!」ってお父様は選んだわけだし。

「魔窟ぶっつぶすなら、北の国!」ってお母様も選んだわけだし。

 二人が出会ったのは必然ね。

 っていうか、さんきゅう窟……サンキュー窟?

「おう!ワタシしってまーす。ありがとうっていうイミデース」

 そっか。ありがとう窟。

 なんて、素敵な名前の付いた魔窟!

 夜になると魔物が強くなる、素敵に素晴らしい魔窟に感謝してサンキュー窟って名付けるなんて!

 北の国の人のセンス、サイコーデース!

「うひょーい、サンキュー、サンキュー、ベリーマッチョ、サンキューベリーマッチョ」

 くるくると踊りながら入口へと向かう。

 おっと、しまった。

 つい、いつものダンスのステップが。

 やだわぁ。身についた公爵令嬢としての気品が!あふれ出ちゃう!

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