第14話

 馬車ががくんと大きく揺れて止まった。

「国境を越えました」

 え?

「ここから先は北の国となります。故郷とお別れをいたしますか?」

 使者がドア越しに声をかけてくれる。

 故郷とお別れ?

 ドアを開いて外に出た。

 目の前に広がるのは、森。

 後ろに広がるのも森。

 ここが境目だと分かるのは、砦が築かれているから。

「故郷とお別れっていっても……」

 森見てもなーんも思わん。

 っていうか、むしろ、お別れするのは、故郷ではなくてよ?

「こちら側が北の国というわけですわね?」

 目の前の森を指し示す。

「はい。ここから馬車で1時間もすれば、第一の街にたどり着きます。そこからさらに2日ほど馬車で移動すると王都です」

「そのさらに北が、私が使える候家の領地です。特産品は」

「特産品と言えば、うちには女性が好む」

 押し合いへし合いして、なんか説明始めた。

 ザ・ど、う、で、も、い、い。

「確か、私と婚約をなさった候家の方が、次期国王になるというお話でしたわね?」

 使者の4人がハッと顔を引き締める。

「は、はい。それは」

「ですが、その、リザ様のお気持ちは最優先させていただいて」

「そ、そうです。無理に押し付けるようなことは」

「気に入っていただけるよう、誠心誠意」

 焦ったように言葉を続ける4人。

 そうか。一応、私に申し訳ないなぁっていう気持ちはあるわけだ。

 でも、そんなに申し訳ないって思う必要ないですよ。

 にこりと笑う。

「候家の皆様は、北の国を出ることができないと伺いました。ここはもう、北の国ですわね」

 ハッとして、使者の4人が青ざめた。

「あ、いや、あの、決してリザ様をこちらまで迎えに来なかったのは、ないがしろにしているわけではなく……」

「お、王都で、その、盛大にお迎えの準備を、その……」

 ああ、なるほど。気が付かなかったけれど、確かに、ここまで来ても良かったんだ。

「誰一人来てない……のですわねぇ」

 どうでもよすぎて気が付かなった。

 けれど、これで、候家の、私の婚約者候補の4人が4人とも私の顔を知らない状態でスタートなんだ。

 ちょっと私に有利すぎない?

 使者たちが真っ青になる。

「では、今度はご本人が直接私に会いに来てくださいます?私が北の国にいる期間は3年です。どなたが私を捕まえに来てくださるか、楽しみにしておりますわ」

 この3年というのは話し合って決めたことだ。

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