第36話

 隆はジョー助とヒロに軽トラックの荷台に乗ってもらった。100円パーキングから北の雨の宮殿へと出発する。

 時を刻む秒針の使い方は智子が24時間のお姉さんから聞いていて、正志と瑠璃のカスケーダは軽トラックの後方、約10メートル範囲にいればいいようである。

 暖かい日差しの晴れ間の空へと浮上する軽トラックで、隆はいよいよだなと思った。これで本当に里見に会える。

 思えば里見と会えなくなってから、三年の歳月が過ぎた。仕事の都合でほとんど会えず。里見が死んでからは一年の歳月が過ぎた。

 隆は鏡に映った里見の悲しい顔を思い出したが、とにかく会いたいと強く思った。

 隆はそれで十分だと思った。

「あなた、いくわよ」

 智子が時を刻む秒針のネジを巻いた。二三回巻くと周囲の雲がにゅーっと伸びてきた。もう二三回巻くと、今度は雲がまっ平になりはじめた。

「これで多分いいと思うわ。さ、行きましょう。里見ちゃんに会いに」

 隆はハンドルを強く握り、北へと走り出した。


「正志さん。雲が平べったいわ」

「きっと、智子さんが時を刻む秒針を使っているんだ。俺たちの周囲の時間が加速しているのだろう。さあ、行くぞ」

 正志はカスケーダで、隆の軽トラックの後ろをピッタリと追った。

「ねえ、もしジョー助とヒロがいるのに雨の宮殿で私たちが死んだら。私たちはどうなるのですか?」

「それは……大丈夫さ。戦の神と火の神が守ってくれるさ」

 正志は軽く頷いて、帰りたくて仕方がないといった顔の瑠璃を見つめる。

「正志さん。私たちはどこまで隆さんたちのサポートをするのですか?」。

「瑠璃……。俺は10年間も不幸のデータをとっていたが。もうそろそろ原因が解る気がするんだ……」

 正志は慎重な言葉を使って、自分の心を落ち着かせた。


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