第34話 移動距離と時計の針
「それでは、今からあなたたちのこれからを話しましょうか。私たちはここでサポートをしますから」
モルモルがちょっとしたカンフャレンスルームで地図を広げて見せた。
深夜の12時を少し回ったところであった。
みなそれぞれの席についている。
テーブルに左手をついて、右手で地図の中央を示した英雄のヒロが辟易して呟いた。
「これが、雨の宮殿だね……」
隆たちは戦の神と火の神を探し当てた正志と瑠璃とで、大日幡建設へと向かった。
さっぱりとした天井の蛍光灯の明かりで隆たちの顔に憂鬱な色が浮かんでいることが解る。社内にはもう社員が一人もいなかった。今の時間まで残業をする社員は、24時間のお姉さんとモルモルだけである。
隆は少し憂鬱になった。原因は、この神々が住む都市から雨の宮殿までの距離だった。
「約160000キロもある……」
正志は呟いた。正志はこの時になって、初めて天界の人々は死なないということを知った。
隆はほとんど宇宙旅行だと思った。
でも、何とか無事に辿り着けないと。
軽トラックのガソリンは減ることがないなら、なんとか無事に辿り着けるだろうか?
「隆さんや正志さんたちの移動距離の大体16倍ですけど。でも、大丈夫ですよ」
24時間のお姉さんは古風な懐中時計をテーブルに置いた。
「この時計は<時を刻む秒針>と言って、この時計を持つ者の回りの時間を劇的に変化させることが出来るのです」
隆と智子は首を傾げる。
24時間のお姉さんはニッコリとして、噛み砕いて話してくれる。
「つまり、この時を刻む秒針には時間を早める効果があるのです」
「……つまり、その時計を持っていると、隆さんの回りの時の流れが早くなると?」
正志は再びモルモルの葉巻の煙に、眉間の皺を刻んだ瑠璃を、宥めながら言う。
「そうです」
「……ここは、不思議なところだな」
隆はどこか気の抜けている智子の肩に手を置いてポツリと行言ったが、心には胸一杯の嬉しさが滲んでいた。
天井の蛍光灯には、智子にも苦労の末でもある嬉しさの涙が密かに反射していた。
「そこで、みなさんに朗報です。大雪原で隆さんが出会った象の群れに乗った人たちも、この距離をいとも簡単に克服できるようです」
モルモルは重々しく席を立ち。部屋の片隅に設置してある液晶テレビを点けた。
そこには大雪原で出会った国際頼助警備会社の人たちのキャラバンが、果てしない大海原へと巨大な船に乗り込んでいた。
「船ですか」
正志の言葉に、
「そうです。この船の名は速白兎丸。遥か昔にワニの神たちが造った超高速船です。昔はこの船で天の園を一周しようとした神が居たのです。その船の速度は天の園では一番でしょう。この船で象のキャラバンは、雨の宮殿へと向かうのです。この船ならば僅か1日で雨の宮殿へと着くことが出来るんですよ」
「本当に私たち家族のために戦ってくれるんですね……よかった……」
隆は嬉しさが抑えられずに目元を擦り鼻を啜り始めた。
智子も気をしっかりと持っていたが、静かに泣いた。
「僕たちも協力をするよ。あと、ジョー助も……。大丈夫だよな?」
ヒロは雨の宮殿の場所を見つめているジョー助に言った。
「ああ。24時間のお姉さんは知っているだろうけど、僕自身が戦いに参加するのは2万年ぶりだ。敵の規模は多分、強さもだけれど、申し分ないと思うよ」
ジョー助は呑気にお茶を飲みながら話してもいる。
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