第29話

「でも、大丈夫っしょ。神様って消防士にもいるんだよね」

 それを聞いて正志は驚いた顔をした。

「英雄のヒロ……。そうだ。火の神は消防士かも知れない」

 正志は火事の起きた。ここから西の方の高級住宅街へと走り出した。


 隆は靴を履き変える。

 智子が買ってくれたのだ。

 長い間、使っていたために。ボロボロになっていた。

「ねえ、あなた。少しは休んだら」

 靴屋の前で、智子は道路の脇のベンチで下界から釣った。アイスクリームを隆に渡す。

「いや……いらないよ。俺はまだまだ元気さ。里見がこの世界にいるからな」

 隆はベンチに座ろうともしなかった。

「あれから、5日間も……歩き過ぎよ。雨の宮殿で、簡単に里見ちゃんに会えたら、どうするのよ。そんなに疲れた顔をして……。お願い。少しは休んで。この世界の神様も協力して下さるのだし。そんなに根詰めなくても」

 隆は仕方がないといった顔でベンチに座った。

 空は快晴だった。

 東京の渋谷を連想される雑踏が心地よい。

 背広姿や主婦や雑踏を生み出す通行人は、明るく生活を楽しんでいるかのようだ。

 健やかな風が吹いて、智子の渡すアイスクリームの冷たさと体温の暖かさが調和していて気持ちがいい。

「ああ……。里見にまた会えるな……」

「ええ……」

 隆は気を抜くとベンチの背凭れに身を預け、ぐっすりと眠った。

 智子も疲れていた。隆の寝顔を見ながら、ついウトウトとしてきた。




















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