第21話
「ここから見える太陽は少し慈愛が欠けているみたいなんだ……」
町長はこちらに向いた。
町長は二十代の男で、痩せ型。几帳面そうな顔で華道や茶道などの手芸をやっていそうな人物である。
中に入ると、以外にわりと広く思えるその部屋には、壁際の圧縮されたような縮んだ書架が目立った。応接間にもなっていて、畳の上にはオレンジ色のテーブルがあった。奥には四畳半くらいのこの町の長の部屋。町長の部屋が用意されていた。
「町長。この方は玉江 隆さんです。この町に住む両親を探しているそうです」
ジョシュァは町長に言った。
「あの……。私の本当の両親も探してもらいたいんです。お願いします」
隆は頭を下げた。
「ほう……。両親と本当の両親ですか。私は町長の服部 宮津朗です。初めまして。今お調べしますよ。この町には警官以外の公務員が余りいませんから来訪者のことを私も調べるんですよ……。お気になさらず」
隆はまた頭を下げると、
「お願いします。私の両親は玉江 隆太と佐藤 江梨香です。本当の両親の名はわかりませんが……」
隆はここへきて、取り乱していて体が震えていることに気が付いた。何故なら何年も前に他界した両親に出会うのであるから。正直、震えてしまうのは仕方がないのだろう。
「えっと……。名前が解らないと……調べようがないですよね。町長……」
ジョシュァは禿頭を撫でて不安な声を発した。
隆もそれを聞いて不安になったが、両親から聞けないかと考えた。まずは両親に会おう。隆は頭の片隅で、黒田に本当の両親の名を聞いていたらと思った。
「ええ、そうですか。きっと玉江さんのご両親ならご存知だと思いますよ。それと、どちらから来ましたか?」
「東からですが……」
隆が緊迫する表情で服部が調べるのを見ていた。服部は名前順を操作して、圧縮した書架全体がまるで漫画みたいに、出っ張ったり縮込んだりしながらするところで、玉江を探している。きっと同居しているからだ。
服部は出っ張った書架から一つのファイルを取り出して、
「東のどこからですか? 一応、この町の来訪者にはこの町に住む権利があります。そして、滞在期間か移住するかを聞かなければ……けれど、遊び人は残念ですが駄目なんです。ま、玉江さんはそんな方ではないと大丈夫だとは思っていますが」
服部が軽く目を瞬いた。隆に好感を抱いているのだろう。
「はあ……。あの……私はここで両親と本当の両親に会えばそれでいいのです。二・三日したら、その後は北へ行こうかと思っていまして」
隆はしおらしく頭を下げた。
服部はファイルに目を通しながら、
「……そうですか。正直、残念です」
「玉江さんはオレンジ色が好きと言ってましたけれど、旅人を足止めするわけにはいきませんよね……」
ジョシュァは残念そうに呟いた。
服部も残念そうな顔をして、ファイルを閉じると、
「ファイルによれば、ここから、町立図書館行きのバスで40分くらいの丘の上のオレンジ3丁目にお住まいの様です。バス亭はこの日差しの塔の周辺にいくつもあります。ですから、その中で町立図書館行きのバスを探して下さい」
「そうですか。ありがとうございます。早速、失礼して両親に会いに行きます」
隆はジョシュァと服部にお礼を言って、部屋を出ようとしたが。
「あ、このお金は使えるんでしょうか?」
隆は振り返って、薄い財布から皺だらけの千円札を二枚取り出した。
「大丈夫ですよ。この町はどんな通貨も使えますから。千円札ですか……珍しいですね」
服部が微笑んだ。
服部はまた窓から日差しを見つめると、ジョシュァは服部と少し話があるといって残った。
隆はエレベーターに乗った。
往復のバス料金は幾らなのだろうか?
そうだ。二千円で両親に何か買ってあげよう。何せ久々に会うのだし……。けれど、隆は温かい気持ちになっているはずなのに、少し背筋が寒くなった……。
エレベーターで降りると一階のフロアの土産物屋に歩いて行く。
「あ、オレンジ色以外のおじさんだ!」
また、あの黒人の少女が奥から駆けてきた。
「今度、私の店に来て。私の名前はシンシナよ。住所はオレンジの大地の六丁目。この日差しの塔から、オレンジ公園行のバスで三番目のところにあるから、ちっぽけな店よ。でも、どんな店よりもオレンジ色の洋服があるから……。私のパパは貧乏だけれど、この町のシンボルにとっても貢献している一人よ」
少女はそこでニッコリと笑った。
可愛い笑顔だ。まっ黒い顔が例え太陽がなくても自然な温かみを与えてくれる。
「おう、解ったぞ。ひょっとしたら、この町にしばらく滞在することになるかも知れないからな。そうなれば、君の店でオレンジ色の洋服を買おう」
隆は金が無いことを悟られないように少女の頭を優しく撫でて約束をした。
土産物屋は幾つもあって、隆は一番小さい店に入った。安いものがありそうだったからだ。
そこには、メガネを掛けたガリ痩せの青年が店番をしていた。黄色や緑や赤などのオレンジ色以外(この町では珍しいもののようだ)が売ってある。
「いらっしゃいませ」
青年はさっそく笑顔を振りまいて、店先のオレンジ色の招き猫に拝んだ。
隆はこの店に入って少々後悔したが、気前よくといっても二千円しかないが。
父親の好きな赤唐辛子と母親の好きな小さなサボテンを買うことにした。
生前は父親は大の辛党で母親はプラント好きな人だった。
「これとこれを下さい」
「ありがとうございます。全部で1420オレンジドルになります。あ、千円札ですか。珍しいですね」
隆は買い物袋を片手に外へと出ると、町立図書館行きのバス停を見つけた。そのバスは町の入り組んだ道路を500オレンジドルで一周するようだ。
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