第20話
けれども、この町には労働や学校があって、皆それぞれ生活に励んでいた。
「みんな働いていますね?」
隆は道路の行き交う人々を見やり話した。
「ええ……珍しいでしょう。確かにこの町には労働もあって借金や銀行もあるので、生活をするためにはお金が第一に必要です。何百年と働かないといけませんがね。けれども、みんな真面目な人たちなのですよ。そして、この町ですけれど、やっぱりオレンジ色が気になりますよね。町長がみんなにアンケート調査をしたのですよ。町のシンボルは何がいいかと、そうしたら、皆この天の園には人工的な色や人工物がないから町全体を何かの色にしてみては? 虹の色より立派な色にしてみては? 巨大な塔を造ってみては? という回答が多く寄せられ、町長が町のシンボルを巨大な塔とオレンジ色にしたのです。町民は町の色は黄色がいいと言ったようですが……」
「はあ……」
隆の少し気の抜けた返事に、
「あなたは何色がいいですか?」
ジョシュァはそう言うと、オレンジ色の電信柱にあるくたびれた犬の写真{このペットを探しています}を見て嘆いた。
「え……」
隆はそういえば、一年間も酒をあまり飲まなかったことを思い出し。
「ビールの色。オレンジですかね」
「おお、あなたもオレンジですか。この町に住んでしまうのはいかがですか? 生活は楽しいですよ。張り合いがあって」
そんな話をして歩いていると、日差しの塔が見えてきた。外壁からまっすぐに歩いていた大通りの正面に天高く聳え立っていた。
その塔を中央に周りにはホテルなどの宿泊施設もある。
その塔はオレンジ色に日差しが映えて透明度のある巨大な建造物だった。ちょうど、雫のような形になっていて、下方は円のようになっていて、宙に浮いている。上方は天を穿つような槍の先端のような形だった。
隆は顎を上げてその高さに驚嘆していた。日差しの塔には丸い巨大な時計が連なり、空を飛ぶ人がどの高さから来ても、時間が解るようになっていた。
「さあ、こちらへ。どうです。自慢の塔ですよ」
ジョシュァは宙に30cmほど浮いている日差しの塔に近づき。普通自動車でも入れる。その大きなガラス製の両開きドアの前に立った。自動ドアである。
ジョシュァは隆を案内して中に入ると、複数の子供たちが奥で遊んでいた。巨大なそのフロアは左端にモダンなエレベーターが幾つもあり、そこへと向かう。右端には色々なオレンジ色以外の土産を売っている出店がいくつかあった。壁際にはオレンジ色の自動販売機の列が並んでいるし、ベンチなどがあって、ちょっとした憩いの場でもある。
「この塔は地上2000階まであるんですよ。私たちは空を飛べますからね。でも、造るときに苦労をしたそうです。こんなに高いと……ここは虹の上ですからね……天空は酸素が余りなかったそうで……。そして、この塔の各階には町の人たちが住んでいる居住区とレストランなどがあるんですよ。よかったら、見てみてはいかがです?」
隆は何気なく聞いていたが、エレベーターに入るとフロアの奥から丸い形のお菓子が転がって来た。
それを追って一人の黒人の少女がエレベーターに入って来た。
少女と目が合うと、
「おじさん。オレンジ色じゃないのね」
隆が目を細めて頷いた。
「この町の南側にはいかない方がいいわ。過激なオレンジ派がいて、近づくとオレンジ色の絵の具が入ったバケツを投げてくるから」
少女はそう警告すると、またフロアの奥へと走って行った。
部屋の奥には色んな国の子供たちが遊んでいた。
「この町には過激な人たちがいるんですね」
隆はこの天の園にも過激な人たちがいることに正直驚いていた。自分の着ているしわしわの赤いポロシャツとくたびれた青のジーンズを見て、オレンジ色の服を買った方がいいかと思案した。両親の家にいけばオレンジ色の服を借りられそうである。
「いやいや、その過激派は子供たちなんですよ。町の南側に屯していて、オレンジ色の服を着ていない子供にバケツを投げて、可哀そうですが……。その子供は全身オレンジ色になって泣きながら家に帰って真っ先にお風呂に入る。でも、心配しなくても、それは子供たちだけの話。オレンジ色の服を着ていない子供だけなんです」
それを聞いて隆は安心した。
自分はこの町で両親と本当の両親に会いに来ただけなのだ。
隆とジョシュァの乗ったエレベーターはボタンを押すと、2000階までおよそ2分で到着した。信じられない高速エレベーターだ。
「ここが、町長の部屋のある階になります」
エレベーターの扉が開くと、正面に少々狭そうな和風の部屋があった。八畳間くらいか。この建造物を造った人々の能力の限界なのか、それとも、こういう造りなのか考えてしまう。
紙と木でできた和風の部屋は両脇には金魚蜂が飾ってあった。壁には複数のオレンジ色の花が飾られてあり、奥行きのある嵌め殺し窓から、下方を除くと遥か彼方の雲の上には色々な店の宣伝文句が書かれた看板が立っていた。隆が通されると、着物を着た若い男性が窓から日差しを見つめていた。
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