第19話 虹とオレンジと日差しの町

 隆はあれから5日間。この世界で半ば不眠不休で走りっぱなしだった。さすがに、一人になると寂しかった。涙が自然と零れる時がしばしばあった。

 腹が減ったら黒田から貰った釣り具で一旦停車させて、牛丼やキムチ鍋、そら豆のスパゲッティなどを釣って。トイレは地上へと車でそそくさと降りた。

 寂しい気持ちと里美がこの世界にいるはずという嬉しい希望。早く会いたいと思う気持ちからくる強い焦燥感。それは、この世界の恐ろしさは微塵も感じさせないほどの心境であった。

 

 カモメが数羽こちらに寄って来た。

 隆はカモメにアイスクリームを与えているうちに、さすがに極度の眠気が襲ってきていた。前方に虹が見えてきたが、思考もまともに出来ないほどの眠気で、隆は仕方なく、車を空中で停車させて少し眠ることにした。


 里見が小学校へと入ってからだ。幼稚園でも一緒だった中島 由美と中友 めぐみと仲が良くいつも一緒だった。特に中島 由美の両親とも隆と智子は仲が親密で、よく、体を休めないといけない珍しい休日の時は、学校への里見の送り迎えをしてもらった。そんな時の里見の寂しそうな顔は今では胸に大きな穴が空きそうだった。

 隆と智子はそんな中、出来るだけ里見に愛情表現をしようと、仕事の合間や珍しい休日の時には無理をできるだけして必ずお弁当を作ってやる習慣を身に着け、そして、公園へと三人で出掛けた。

 けれども、その時は年に数回ほどだった……。


 6時間程寝ていたが、隆は起きると涙を拭いて寂しさを振り切った。

「あれか……。虹とオレンジと日差しの町……」

 前方に遥か遠くへとアーチを伸ばしたオレンジ色の虹が現れ、その上にオレンジ色の町があった。

 虹とオレンジと日差しの町である。

 巨大なその虹は町のオレンジの自然の色と人工的な色とでコントラストのようなものをとっていた。ビルディングや町の中央に位置している塔。行き交う通行人もみなオレンジ色であった。

 隆はアーチ状の虹の面に、どうにか水平にくっついているような町の外れに車を停め。外壁で囲まれた街の入口の大通りから町へと歩いて行った。

 人口約3万6千人の小さい町である。

 オレンジ色の服を着た中年男性がジョギングをしている。その男は車が行き交う大通りの脇をこちらに呼吸を乱しながら走って来た。年は30代後半で、服装はオレンジ色のランニングシャツと短パンだ。隆は興味本位で中央に位置している塔を尋ねた。


「あれは、日差しの塔ですよ」

 その男性は出っ張った腹を気にしているようで、しきりにジョギングの最中の足踏みをして汗をかいて隆に話をしていた。

「実は両親を探しています。玉江 隆太と佐藤 江梨香です。ご存じありませんか?」

 隆はジョギングの最中に悪いとは思ったが、言わずにおれなかった。

「いやー、この町は広いですからね……」

 男性は足踏みを止めて禿頭をピシッと叩いた。

「そうだ。日差しの塔の町長に聞いてみては、そこで調べてもらえば解りますから。私はジョシュァといいます。この町でペットショップの支店長をしています。どうせ、この町に来たのなら最初に町長に挨拶と滞在期間を言わないといけませんから。あ、そうだ。私がご案内しますよ。未来の顧客になりそうですからね」

 ジョシュァは人懐っこい顔をして、どこか寂しそうな隆の表情に目聡く気が付いたようである。どうやら日差しの塔までジョギングを止め、隆を親切に案内してくれるようだ。

 隆はジョシュァと歩いて町の中央まで行くことになった。

 バスや自動車は地上を走り、行き交う通行人も真面目に働いたり、生活をしているようで、おおかた背広姿や学生服が目立った。


 けれども、みなオレンジ色に染まっていた。

 大通りをしばらく歩き、交差点に差し掛かった。

 道路標識や看板などもオレンジ色だ。ただし、信号機は別。

「あそこが、私の店です。この町にしばらく滞在しますか? 何ならペットを飼いませんか? お安くしますし、動物の神と動物の了承は得てあります。動物たちは下界ではそのまま動物だったものや、人間だったものがいまして、どちらも、ペットとして遊んでいたいと願っているのです。そんな人たちと動物を私は商売にしています。あ、注意事項が一つありまして、ご存知かも知れませんが。下界で動物だった動物はこの世界では死んでしまうのですよ。なので、どちらもたっぷりの愛情を頂けないとなりませんがね……」

 道路の反対側にある。オレンジ色のペットショップからオレンジに染まった動物たちが、ジョシュァを見ると喜んで尻尾を振ったり鳴いたりしている。犬や猫などが大半でジョシュァは元は人間だった動物たちからも人気者のようだ。


 隆はこの町には労働があるのが以外だと思った。天の園には労働もなく、全員が暇で、遊んだり、何か暇つぶしを探しているような風潮がある。と、黒田たちの影響で思えていたのだ。

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