第12話

 正志のカスケーダに三人が乗った。

 カスケーダというドイツ車の2ドアカブリオレは、ルーフは電動ソフトトップとなっている。今はルーフは閉じてあった。そして、助手席に智子が座り、瑠璃は後部座席へと座った。

 坂に着いた時には、下校時刻はとっくに過ぎているが、寄り道をくっていた6人の小学生を見つけ。正志が相談に行った。女の子もいたが、笑ってこの行動を見ていた。

 二人は外へと出た。

 空はさっきと同じく暗雲立ち込め。薄暗くなっていた。

「本当に……私たちって、一体何をしているの。って感じね」

 智子が瑠璃に向かって、微笑んだ。智子のさっきの憤りも混じった抵抗は少しは落ち着いたかのようだ。現実にあったことだと思い始めたわけではなくて、三人の雰囲気は何故か自然な感じを受けるものがあったからだ。

「ええ……」

 瑠璃は曖昧な言葉を選んだ。

 

 華田 正志の妻になったのはちょうど4年前だ。二十歳の時に正志の占い稼業が繁盛して、軌道に乗った頃に居酒屋で出会った。

 二人とも同じ雰囲気を持っていて、すぐに仲が溶け合った。

 二人とも半ば遊び人の血を受けていた。

 子供はいない。

 面倒だからだ……。不真面目なところもあるようだが、真面目なところもある。なんだかんだ言って、正志の占い稼業は人助けのところが多かった。これまで多くの人の悩みを相談し。また、解決をしてきた。

「天国へ行けたら……何をします」

 瑠璃が智子にまるで世間話をするかのように話した。

 智子は微笑んで、

「そうね……美味しいものをいっぱい食べます」

 二人はまったく信じていない。

 正志が子供たちを連れて来た。緊迫した顔をしてるのは正志だけだった。

「子供たちと話はついた。俺の車で行くんだ。さあ、乗って」

 正志は智子と瑠璃を車に押し込み。

「じゃあ、やって」

 子供たちに言った。

 子供たちはみんな楽しそうに、この不思議な儀式を行った。


「かーもめかもめ かーごのなーかのとーりーはー いーつーいーつー」

 正志は緊張のためか何も話さなかった。

 瑠璃と智子は四六時中。気楽に話こんでいた。

 カスケーダの計器類がブレてきた。

 子供たちの驚愕で好奇な声が上がった。

 車は少しずつだが、宙に浮いてきた。

 智子は声にならない悲鳴を上げた。

 瑠璃はナイフのように叫んだ。

 カスケーダは天へと向かう。

「なんてこと! あなたー!! 隆―!!!」

 智子は空中のカスケーダの中で、現実が音をたてながら崩れていくのを感じ、二度目の隆の名を呼んだ。

 現実と信じられない現実がぶつかり合った時だった……。

「もうすぐです! 天の裂け目はそんなに遠くはないはず! 何せ昔の戦闘機ではそれ程高度が高くはないと思うからです!」

 正志は血の気の引いた顔を引締めて二人に大声を放つ。

 

 稲光が天を覆い尽くす。

 落雷が地上の至る所へと落ちていった。

 美しい光輝く半透明な鳥らが発生し、カスケーダを囲んだ。


「うちの夫は今どうしているのですか?! ああ……。隆くん」

 正気と狂気の狭間の智子が叫ぶ。ショックで昔の呼び名がポロリとでる。

「正志さん。私……どうにかなりそう。引き返さない?」

 瑠璃は混乱をしているが、恐怖のために正気に戻ってきた。

「待って、家の夫はどこ!? 早く連れ戻さなきゃ!!」

 智子の必死の声は雷鳴で聞き取りにくくなった。

「だから、もうすぐです。きっと……。瑠璃! これも仕事だ! 旦那さんを連れ戻すことはできます。ご安心下さい。」

 しばらくすると、三人は見つけることが出来た。

 雷鳴と雲の間の天と地の裂け目を……。


 隆は軽トラックのハンドルを握り、眼下の海を眺めていた。

「ここが、天国! やったぞー!!」

 隆は涙を拭いてハンドルを強く握った。

 下には大海原が見える。

 遥か前方に陸地が見えて来た。

 快晴のようで空は空で雲と太陽もあった。カモメが数羽、隆の車に近寄った。

 ここが、天の園。つまり天国である。

 現世と確かに違うところは、人が空を飛んでいるところであった。雲の上には所々に木造建築やプレハブ住宅などの家が建っていた。窓からも人々がこちらに手を振っている。


 こちらに一人が近づき手を振った。

 他の複数の人達、色々な国の人たちはこちらを珍しそうに見ていた。

 その人物は男で、黒い髪の日本人。目が大きく、やたらと鼻が大きい青年だった。

「こんにちは、車ですか。珍しいですね」

 はにかんだ笑みの男は年は20代である。

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