第8話

 次の日 

 

 隆は花田から貰った本を熟読し、智子に一言も話さずにレンタカーサービスへと電話をし、一台のオートマの軽トラックを借りた。

 まずは、佐貫へ行ってその占い師を探さなくては……。

 隆は自宅から佐貫まで涙が滲んで前が見えにくいが運転をした。

 その占い師は女性らしい。

 車で佐貫まで走行中。自分は何をしているのかと、考える部分を極力噛み砕いた。けれど、頭を突き破っては考えが肥大した。自分は天国へ行こうとしているのだろうか……?そこには、里美がいるのだろうか……?


 佐貫駅が見えて来た。

 周辺にコンビニとマクドナルドが見える。今の時間は人は余りいない時間帯だった。車をロータリーに一旦停めると、エンジンをかけたままで公衆電話を探した。タウンページを探しているのだ。

 マクドナルドの正面には、竜ケ崎線がありその隣に公衆電話がポツンとあった。隆はドアを開け、お目当てのタウンページをかっぱらうと車に戻った。

 エンジンの音も気にせずにタウンページを捲る。あった。女性だけしか受けない占い師はただの一人だけ。駅から少し行ったところのスーパー(フレッスという名だ)の近くの田んぼに家を構えていて、フレッスの駐車場に面して小屋をだして仕事をしているようだ。

 隆はフレッスへと車を飛ばす。

 15分としない時間でフレッスの駐車場にたどり着くと、早速占い師を探した。

ずんずんと巨漢を進めて、客とおしゃべりムードになっている中年の女性占い師の小屋に入った。

「なんだい。あんた?」

 女性占い師が目を丸くして問う。

 

 女性客もびっくりして、隆の顔を見つめた。

「すいません。天の裂け目への行き方の下巻をお借りしたいんですが……。本なんですが……。急いでいます。是非読みたいんです。娘が死んでしまったのです……。どうかお願いします……。必ずご本はお返ししますから……。娘は生き返るはずなんです……」

 隆は勢いよく言い出すと、急にしおらしく言い。自分でも混乱し半信半疑の頭を振った。そして、女性占い師の方しか見なかった。普通の服装で皺の多い赤いブラウスに肌色のズボン。背の低い丸みを帯びた顔で皺が目立った。白髪頭の柔らかそうな女性だった。女性客は明るそうな顔のおばさんで買い物かご片手でこちらに驚いている。

「私は稲垣 浩美(いながき ひろみ)。ここで占い師をしている者だ。娘さんは気の毒だけれど、あの本はあっちに行くのにいつも使っているんでね。渡せないよ。それに、男は例外なのさ。特別はなし。他にもあの本を持っている人はいるにはいるよ。だもんだからさ、探せばいいんじゃないかい」

稲垣は可哀想という顔をしているが、言葉はまったく逆だった。

お客のおばさんは何を話しているのかまったく解っていないようだ。不思議そうな顔をしている。

「……お願いです」

 隆は頭を下げる。

駐車場から行き来している人々がこちらに視線を向けたり、おしゃべりに隆の強引かつ異様な態度がでたりとちらほら。

 隆は頭を下げたり泣きべそをかいたりしたが、稲垣は一向に聞く耳を持たず。愛想笑いのお客がそそくさと帰ると、スーパーへと消えてしまった。


 かれこれ午後の6時。稲垣の占い稼業の終わりの時間まで隆は粘った。ひょっとすると、粘れば下巻を貸してもらえるという考えだ。

 スーパーで立ち読みを三時間も強行したり、並んでいる店に並ぶだけといつもと違う行動をとった。


 しかし、稲垣はさっさと店じまいをすると、駐車場に止めてあるブルーの軽自動車に乗ってしまった。隆に一度も視線を向けていないので、一体……彼女はどういう人だと思っていると、稲垣は帰ってしまった。

「待って下さい!!」

 隆の悲痛な声も聞いていない風で、稲垣の車は右折して行ってしまった。

 隆は急いで軽トラックに乗ると、後を追った。

 佐貫の田んぼの中央にポツンとある。稲垣の自宅まで車で乗り込むと、まっしぐらにドアを激しく叩いた。

「お願いです! お願いです! 娘に会いたい!! お願いです!!」

 隆は無我夢中にドアのチャイムも鳴らした。

 もう礼儀を忘れてしまっていた。


 しばらくすると、困り顔の稲垣がドアをゆっくりと開けた。

「なんだい、あんたは。もーまったく仕方ないね。ほれやるよ。ほんとは昔色々あって使っていないからさ。でも、それを使って天の園へ行っても後悔はするなよ……」

 稲垣が天の裂け目の行き方の下巻を投げてよこした。

 

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