第4話
「仕事を辞める?!」
「ああ……」
「それじゃあ、どうやって暮らすのよ?!」
「悪い。力が出ないんだ……」
その夜。二人は口論をしていた。
智子はまだ泣いてもいない。隆もだ。
まだ、里美が帰って来るのではと、二人とも信じていた。
「里美が数日後に戻ってきたら、どうするの。生活のことを考えないと……。家のローンや里美の学費や……お願い働いて」
隆は首を振り。
「お前は仕事が出来るのなら……。お前は仕事をしながら里美を待ってやれ。俺は家で里見を探して待っているから。きっと、すぐに里美が歩いてくるさ……」
心身共にボロボロになるまで、隆は里見を暴れ橋から下流までを探し回り。消防団の人々が思い切って、隆に「もう休め。家にいろ。捜索は俺たちだけで十分だから。必ず見つけだしてやる」と聞いてやっと隆はフラフラと帰った。
二人ともこのような悲劇が自分たちに降りかかることはまだ考えてもいない。出来れば里美が救助され。元気に戻って来ることを願っていた。そして……一週間が過ぎた。
隆は家にこもっていることに、慣れつつある。
前はトラックで町や都市を走り回っていた。あの日に戻りたい……。家に帰ると里美の寝息を襖越しに聞き、妻の智子も安堵の溜息を付いてから寝室へと行く。
学校の運動会には二人で駆け付け。
時間が少しでも空けば智子と一緒にお弁当を作ってやる。
珍しい休日の日には、三人で公園へと遊びに行った。
「もう昼か……」
習慣の一週間分の洗濯物をコインランドリーへと入れに行くと、いつの間にか昼になっていた。
警察や消防士と近所の消防団からは、まだ連絡が来ない。
新聞をあの日から取るようになった。
新聞の記事には娘の消息を懸念するような記事が目に入るようになった。そんな時だけ隆は酒を煽った。
これほど一周間というものが長い時だと感じたのは今までになかった。
昼飯を食うためにわりと広いキッチンで、簡単な食事を作る。
妻の智子は今頃は同じく昼飯の時間だろう。
茶碗に賞味期限切れのパックの白米をよそい、副食の小魚を焼いて、飯の支度をしている時に、新聞の小さな欄が目に入った。
{あなたの苦悩を取り除きます。最近、雨の日に不幸なことが多くなっていますね。そんな時には、占い師 華田 正志へ。些細なことでもご相談に乗ります}
隆はその新聞の欄を切抜き、飯を早めに食べ終わると、足早に外へと出た。
自宅から取手駅の方へと、岡尾橋と町を歩いて30分のところに、華田 正志の家はあった。会社から借りていたトラックは今は無いのだ。
平日のためか人がまばらの大通りを、皺だらけの赤いポロシャツと青のジーンズと、底がすり減った靴で早足で歩いていると薄暗い空から小雨が降って来た。
簡素な住宅街の真ん中にそれはあった。二階建てで真っ白いペンキの木造建築の家に看板があり、
{事業相談や悩みや雨の日の不幸に関係していることなどのご相談を承ります。 占い師 華田 正志}と書かれていた。
隆は眉唾ものだがと、インターホンを鳴らすと予約を取っていないことを思い出した。
ドアが開き背の高く、上がワイシャツとネクタイの背広姿の若い男性がでてきた。長い髪は後ろに全部梳いてあり、ポニーテールのようだ。
均整の取れた顔をしていて、30代の浅黒いモテ男といったところだ。
「初めまして……。どうぞ。完全予約制というわけではないので。お入りください」
暇と遊びという両極端を持て余しているような気配が少しする男であった。その男は家の中へと隆を気軽に招く。
「すいません。どうにも……相談したいことがあります」
隆は応接用のソフャが二つ向かい合って、小さなテーブルの部屋へと案内された。部屋は華奢な造りで、バラの香りがしてきた。奥さんだろうか。華田の隣に立っていた華田とは対照的な色白で、白のブラウスとラベンダー色のスカート。目を自然に見開いてしまうかのような、そんな女性がキッチンへと行きコーヒーを渡してくれる。
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