第51話  宏美と弘美

 王は宏海に問うた。


「彼女じゃなくて、彼がそうなのか?彼が君の想い人なのか?」


「はい陛下。彼女が、もとい弘くんじゃなく、彼、弘美が私が将来を誓った私の想い人です。その、先程は皆様の前で失礼しました。あまりの嬉しさについ我を忘れてしまいました」


「そうか。それは良かった。君の元気のない原因の一つが想い人に会えない事だったからな。いつも私のヒロ君がと言っていたものだが、実在したのだな。さて、君の想い人が現れたとなると若い奴らが落胆するな。くくくく」


「へ、陛下!」


「よいよい。ただここにいるナタリー王女が魔王軍絡みで急ぎの話があるので、そこの聖女様と連れの者も含め隣室で落ち着いて話をしよう。ここは広過ぎるからな」


 そう言って身内や重鎮だけで会議をするような会議室に通された。


 宏海はコウにべったりで、腕をぎゅっと組んで決して放すまいというような勢いでしがみついている感じである。ずっとコウ君が、コウ君がいる!コウ君大好き!と呟いていた。そんな感じに呟いており、陰っていた表情はパッと明るくなっていた。但し、元々細かった体が更にやせ細っている感じであり、痛々しかった。


 さすがに国王の前だというのもあり、自己紹介をせねばならぬと思いコウは宏海に言った


「なあ宏海。さすがに王様の前で挨拶をしないわけにはいかないからさ、後でゆっくり話をするから今は俺達の身の振り方も含めてきちんと話をする時なんだ。いいかい?」


「うん、分かったわ」


 コウは宏海のあまりもの変貌ぶりに驚いていた。自信満々で強気の彼女は今はそこにいない。オロオロとし、憔悴しきった元気のない宏海なのだ。ただ、宏海との再会を喜び合いたい気持ちも大きいのだが、その気持ちを今は抑え、今この場をどうにかしなければならない。国王は良い人そうだが、油断しまいと警戒をしていた。それとどう見ても宏海はおかしかった。普段は人前を常に気にし、間違っても自分からコウに好きだと言ってくるそういう性分ではないからだ。


 国王の話からすると、宏海はコウがいない事により元気がなかったと言う。コウは自分の存在が、彼女の中でそれ程にも占めているのだとは知らなかった。


 宏海は元々弓道部に入ったのも、コウが弓道をやると言い出したから一緒に入っただけである。弓道が好きなわけでもなく、コウと居たい。そんな宏海の女心にずっと気付かないコウである。コウに頼まれたから後輩の面倒を見てきていたのであって、コウさえいれば部活は正直何でもよかったのだ。ただ、弓は弓で、矢が的に当たった時の中心部に当たった時の達成感それはそれで満足するところではあった。それとなかなか面白く、天賦だと自負していた。


 コウが国王に挨拶をしている間もずっと宏海はコウの手を握ったままだった。


「改めてお初にお目に掛かります。こんな姿ですが、私はれっきとした男です。それと女装は正体を隠す為に仕方なくやっていましたので、誤解なきようお願いします。大事な事なのでもう一度言います。好き好んで女装していた訳ではありませんから。それと見ての通りここにいるこの宏海とは幼馴染で、名前も同じひろみになります。その為、今はコウと名乗っております。今はコウとしてお見知り置きを。俺はウッダード国にて聖女召喚をされました。その時に私をここに送り込んだ女神シリウスと一度話をしましたが、どうもひろみという名を見て俺を女だと思い、聖女召喚の場に送るべきこの宏海が勇者召喚に送られ、勇者召喚に送られるべき私が聖女として間違って送り込んだようです。あのクソ女神め!」


「なんと女神様、しかもシリウス様と」


「間違いなくシリウスと名乗っておりました。若い可愛い系の女性です。召喚されてから、ウッダード国王に私は男というだけで身柄を拘束され、危険な魔物や生物の生息する山に放逐されました。どうやら直接手を下すような処刑の仕方をすると重大な呪いが課せられるようで、辛うじて戦えるだけの装備を渡し、その状態で放逐した後、魔物に私が倒される分には処刑したとは見なされないようです。幸いと言うべきなのか、色々ありましたし、無事とは言いきれませんが、何とかその山から逃げ出しここにいるナタリー王女と知り合う事ができ、これまた色々な事がありこうして旅の仲間も増え、オニール国を目指し旅をして、こちらに参った次第です。そんな中で魔王軍の士官と思われる者が率いる尖兵と戦う事になりました。これはその時に討ち取った士官です」


 コウは徐に死体をテーブルの上に出した。死体を出すと言っていなかったものだから皆一様に驚いていたのであった。


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