第52話 想い人

コウは己について分かっている事を包み隠さずに伝える方が良いと考え、可能な限り皆に事実を伝える事にした。


「私は男ではありますが、聖女としてこの世界に召喚されてきました。攻撃手段は弓や剣以外では、魔力を弾に変えて発射する魔力弾というものを弾き飛ばすのと、生活魔法に強く魔力を込めて放つくらいです」


コウは着火のファイヤーで部屋の片隅に有った椅子を一つ火達磨にし、ウォーターですぐに消し、そしてとどめとして魔力弾で粉々に破壊した。勿論すぐにクリーンで煤が付いたりした部屋と椅子の残骸の処理をした。結果椅子が一つ消えた以外、特に何も無かったかのようになり、皆の驚く顔がそこにあった。


宏海は凄い凄いとはしゃいでいた。


次にコウは徐にナイフを出し、己の手を切った。血が出た途端に宏海が悲鳴を上げていた。手で制し、コウはただ見ていて下さいと言い、ヒールと唱えると傷がみるみるうちに消えていった。



「ご覧の通り私は、聖女しか持っていないと言われている回復の能力を持っています。また、聖女は攻撃能力が無いと聞いていますが、私は例外のようでこのように攻撃手段を持っており、この7闘魔の一人と言っていたサラリーじゃなくてサザリーという魔族の士官を討ち取る事ができました」


次いで補足を含め、順を追ってフレンダが説明してくれていた。時折そうよね等と追認を求められ、コウが相槌をする形だ。



フレンダによる詳細報告が終わり、一旦国の幹部のみで話をする事となり、夕食の時間まで自由時間となった。


宏海の勧めもあり、夕食迄の間は宏海の部屋で過ごす事になった。勿論、冒険者パーティーを組んでいるフレンダ、トリト、クルルも一緒である。


この世界に来てからというもの、宏海は精神的に辛く参っていた。鬱になりかけていたのだ。


幼い頃、近所の男の子達にいじめられていたが、必ずコウが助けてくれた。昔から整った顔立ちの為、気を引こうとする男の子が何かとちょっかいを掛けていた。また、何かあるとコウは宏海の手を引っ張っていってくれていた。ただコウはおっちょこちょいでだらしないので、宏海はコウの世話を普段から焼いていた。


宏海は異世界に召喚され不安で堪らなかった。宏海がいつも頼りにしている弘美がいないからだ。宏海は認識していないが、決断するような事柄は全てコウの判断に依存していたのだ。ただ、弓道をするのは別だ。彼女の意思で選んだ。


と言ってもコウがやるから自分もやる、コウと一緒にいたいからだ。コウのように弓やアーチェリーって面白いよな!かっこいいよな!と競技に興味があったわけではない。


勿論やるからには上を目指すのは彼女の性分だった。


色々な事に一人では決断ができなく、この世界に来てからは戦う事を教えられ、生き残る為の訓練を言われるがままにしていた。生きていればコウに会えると信じ、己を鼓舞し続けていたのだ。


また、魔法について教えられた時、何をイメージするかが大事と言われたのだが、彼女は守る事を選んだ。


その為、攻撃手段は基本的に弓しかない。


宏海の部屋に着き、5人だけになったのだがそれでもコウにベタベタするのを止めなかった。


三人はコウから聞いている宏海の人物像とかけ離れている為、この目の前にいる女性についてよく分からずに困惑していた。


「じゃあまず俺が宏海の紹介をするな」


三人はうんとかああとか気の抜けた頷きをした。


「こいつは俺の幼馴染で、俺が会いたかったと言っていたのが彼女だ。少し気が強い所もあるが、面倒見が良くて優しい女性だ」


トリトが話に割って入った。


「彼女がコウの言っていた想い人なのだな?」


宏海は真っ赤になり、くねくねしていた。


「そんな、想い人なんて。ヒロ君が私の事をそう思ってくれていたの?嬉しい」


「宏海、彼女達の事を紹介するが、詳しくは追々話すけど、この国を目指す旅というか、逃避行の途中で出会った仲間なんだ。取り敢えず軽く紹介するな。猫耳娘がワーキャット族のクルルで、なんと18歳だ。体は小さいがエネルギッシュで近接戦闘はものすごく強いんだ。見た目は幼いし口調があれだが、れっきとしたレディーだ。

次が女剣士のトリトで、16歳のエルフだ。俺なんかと違って剣の腕が立つし、しっかり者で頼りになる仲間だ。ずっと男装をして男を装っていたから、少し男口調だったり、がさつな所もあるが、ちゃんとした女性だからね。

そして彼女がウッダード国の第三王女で、ナタリーことフレンダだ。

俺をずっと助けてくれて、ここまで導いてくれたのが彼女だ。それとな、俺達を召喚した魔方陣に魔力を注入したのも彼女だ。ただ、どういう結果を招くのかを知らされておらず、命ぜられて魔力を注入しているだけだから、彼女を責めないでやってくれ。彼女は、その、ツンデレだ」


宏海はフレンダをぎゅっと抱き締めた。


「貴女がそうなのね。ずっと貴女の存在も感じていたの。多分貴女の魔力によって私達はこの世界に呼び寄せられたから、貴女に私達は紐付いているのだと思うわ」


更に残る二人をぎゅっと抱き締めていた。


「もう貴女達はヒロ君じゃなくてコウ君に抱いてもらったの?」


4人がぶんぶんと首を横に振っていた。


「嘘でしょ。貴女達皆コウ君の事が好きだのでしょ?コウ君も好きだと思うわ。大丈夫よ、貴女達がコウ君の妻になるのは。ただ、私が第一夫人であれば問題ないわ。

ヒロ君も彼女達を皆いずれ妻の一人に迎えるのでしょ?

それより今のその格好、女性に興味がなくなったの?

やっぱり男の娘になっちゃったの?」


「ち、違うんだ。そうじゃないんだ。これは身分を隠すのに女性を装うのが一番だったから、それでフレンダの提案で女装していただけなんだ」


「分かっているわよ。こんな可愛い子達と一緒だからちょっと意地悪しただけよ。ちょっと焼いだだけよ。コウったら慌てちゃって可愛いわね。でもその格好素敵よ」  


宏海は不敵な笑みを浮かべていた。


「あっ、そうだ。みんな喉が渇いたでしょ。メイドさん達に飲み物とお茶菓子を持ってきてもらうようにお願いしてくるね」


そう言って一旦宏海が部屋を出て行ったのであった。

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