第53話  壊れていた

 コウは宏海が部屋から出て行くと俯いて涙を流していた。3人はきょとんとしていたが、トリトが確認をした。


「なあコウ、ひろみさんというのはいつもあんな感じなのか?」


 コウは首を横に振った。


「何かコウから聞いていた人物像とかなり違うわよね。確かに見た目はコウが言っていた通り綺麗な方だけど、どういう事かしら?」


 クルルはコウが涙をしている様子を不思議そうに見ていた。


「その、俺と違い、あ、あいつの心は持たなかったんだ。時間を掛けて治してやらなきゃならない。悪いが皆あいつの事を悪く思わないでやって欲しい。何でもするから頼む。仲良くしてやって欲しい」


 三人は頷いていた。


「あいつ基本そうなんだが、プライドが高くてさ、少々お高くとまっているところもあるから、同級生の女の子からはあまり相手にされていないんだ。それでも根は優しいから後輩にはとても優しくしているんだ。だから後輩には慕われていたんだよな。そうだな、普段は教室の片隅で大人しく本を読んでいる感じだったんだ」


 教室?と思ったが、トリトは質問をした。


「その、彼女は戦えないのではないのだろうか?」


「多分無理だろうな。虫も殺せぬ奴だから。あいつは基本的に優し過ぎるんだ」


「でもこの先どうするのよ?

 こちらが戦いを望まなくても、また魔王軍は攻めてくるわよ。それともコウは彼女を置いて戦いに行くの?」


「いや無理だ、彼女はまともに戦えない筈だ。戦える戦えないに関わらず、とにかく彼女は連れて行かなきゃならない。そうしないと今よりもっと酷くなり、いずれ廃人になってしまう」


 3人が頷いていた


 コウが答え終わるとドアが開き、宏海がお茶菓子を持ったメイドさんと共に部屋に戻ってきた。


「飲み物は後から持って来手くれるけど、取り敢えずお菓子を持って来から少し食べましょ」


 そうして当たり障りのないような話をしていたり、召喚されてからのことをお互い話し合っていた。宏海はコウがどういう経緯を辿ってここまで辿り着いたのかを聞き、涙を流していた。


 そんな宏海の涙をコウは拭いてあげていた。

 コウが宏海に一つお願いしたのだが、もうこちらの世界ではコウと名乗る事にしているので、コウと呼んで欲しいと。宏海は手をぽんと叩き

 

「なるほどね。ヒロ君の弘ってとも読めるもんね。分かったわ。じゃあコウ君と呼ぶね」


 そんな感じで普段とは違い、ノリが軽かった。いや、軽い過ぎた。


 その後今日の晩餐に呼ばれ、皆で出かけて行ったのだが、豪華な料理が出ていたのだが、正直コウは何を食べたのかを覚えていない。周りの者のが宏海の様子を見てぎょっとしていた。


 コウはひたすら宏海に食べさせられたり、世話を焼かれていた。宏海はこちらに来てからほぼ無口だったと言う。氷の女とも言われ、綺麗だが表情が無いお人形さんとまで言われていたようだ。そう、必要最低限の会話しかしていなかったのだ。


 その後今日泊まる部屋に案内されたが、部屋割りはフレンダの希望もあり、フレンダ、トリト、クルルがひとつの部屋だ。コウも一緒の部屋で良いと言ったのだが、未婚の王族の女性の部屋に男性を泊まらせるわけにはいかない。実際はどうするかは別として、体面上部屋を別に用意する必要があった。その為、コウには個室が用意されていた。ただコウのベッドは使われる事はなかった。



 その日の夜、コウは宏海の部屋で一夜を過ごす事になった。宏海は寝る時にコウにその裸体を見せていた。そして抱いてとお願いしてきた。コウに抱かれ、コウの女にしてもらわないと不安だと言うのだ。コウはベッドの中で彼女をギュッと抱きしめるだけであった。そうセックスをするわけではなかった。


 今の彼女の状態を見て、そうするべきではないと思ったのだ。オスとしては据え膳食わぬは男の恥なのだが、理性が勝ったのだ。


 彼女は泣いてお願いをしていた。


「私、こういう事初めてだから上手くできるか分からないけど、コウ君の女にしてほしいの。私寂しかったの。もう我慢出来ないの」     


 そんな感じでお願いをしていたのだ。


「今俺に抱いてと言う君は普段の君じゃない。勿論俺は君を抱きたい。ただ、それは今じゃないよ。ゆっくり、ゆっくり時間をかけて元の君になるように二人で頑張ろう。それになぜか魔王軍に襲われたからかな?その、俺のあそこが今は役に立たないんだ」


 宏海はコウの男性の象徴が平時治のその大きさのままだというこ事に気が付きはっとなった。


「ごめんねコウ君。気付いてたの。私の中のものとコウ君、あなたの中のものがお互いに入れ替わっているという事に気が付いていたの」  


「俺も心当たりが無くはないし、その影響だと思うけど、どうやって戻すんだよ?」


「簡単よ。合体して一つになれば良いのよ。と言いたいけど違うの。おでことおでこをくっつけて、お互いの手を握り合うの。なぜか分かるの」


 そうしておでことおでこを合わせると、お互いに持っていかれた半身が戻ってくるのを感じた。


 凶暴になっていたのには理由が有る。また、宏海が心を病んでいるのにも理由が有る。お互いの心の一部が入れ替わってしまったのだ。コウには宏海の攻撃的な部分や勝ち気の強かった部分がコウに移っていた。その結果としてコウはフレンダを殴ったり、犯そうとする事ができていたのだ。フレンダに言われていた。自分に対し優しくして欲しいというような事も、コウが持っている優しさや慎重さの部分等が宏海に移っており、その為宏海は優し過ぎ、慎重過ぎになっていた。


 心のバランスが崩れ、普段言わない事を発する強ような状態になっていたのだ。ましてやコウが精神的に不安定になってしまった部分を宏海は無意識のうちに引き受けていた。なので彼女の心はどんどん蝕ばまれていた状態であった。お互いにお互いのものが戻った瞬間、コウは己が興奮している事に気が付いた。


 また、宏海も元の宏海に戻るのは戻ったのだが、異常状態が続いていた時に病んでしまった心はすぐには癒えない。


 入れ替わった心を元に戻すのに互いかなり体力を消耗してしまい、こうは宏海をぎゅっと抱きしめてただ眠るだけであった。

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