第54話  合体

 コウは不思議な感覚に見舞われていた。召喚時の不都合というか、女神シリウスのミスにより己の魂の一部が宏海と入れ替わってしまっていたのだ。再会し、昨夜己の魂の半身を交換して元に戻った時に、心地良く優しいものに包まれていた。裸の宏海に抱きしめられ、宏海からオーラが出ていてまるで母の胎内にいたかのようなその心地良さ、安堵感に涙している感じだった。後から聞いたが、宏海も同じような状況で、コウに優しく抱きしめられ、その温もりに涙をしていたと言う。


 そしてもう一つ不思議な事があった。自分の魂の奥底深くに宏海以外にフレンダの存在も感じるのだ。


 そしてコウはその温もりに包まれながら寝ていたのだが、翌朝目覚めるとちゃんと宏海が己の腕の中にいた。優しく抱きしめ、彼女の頭をひたすら撫でていた。


 やがて宏海も目覚めた。しかし、宏海は真っ赤であった。半身が戻ってくる前の行動は何となくは覚えているが、夢遊病の状態であった。ただ、何故ベッドでコウに抱きしめられているのかが一瞬理解できなかったのだ。しかも裸である。それから暫くの間、コウの温もりに安堵感を得ながら何があったかを考えていた。すると異世界に召喚され、そこからしばらくこの王城で過ごしていたのだという事を思い出してきた。ただその記録というのは誰か他の人の行動をビデオ等で見た、それぐらいの感覚であり、自分がした行動とは思えないくらい他人事で、他人の行動を見ている感じだったのだ。ただ記憶としてはあるのだが、実感が薄かった。恥ずかしいとはいえ、コウの腕に抱かれている事が今の宏海には嬉しかった。


 記憶の中にある自分の記憶は、行動や言質や精神状態がおかしかった。不思議なのは、コウが自分に対して手を出さず、ただ抱きしめているだけだった。コウが自分に手を出していないというのは理解できていたが、理由が分からなかった。


 頭が痛く、まだ少し感情の起伏があるという事や己の精神が今は不安定になっているというのは理解できた。ただこうしてこうと一緒にいると心が落ち着くというのも分かっている。


 己の魂の一部がコウと入れ替わっており、それが己に戻ってきたというのも分かっている。そう、ずっとコウの存在を己の魂の中に感じていたからだ。ただ、今は少し感覚が違う。今まで感じていた己の魂の中にある何か?の正体が分かったのだ。コウと行動を共にしていたナタリー王女の存在を感じていると理解したのだ。きのう会った時にこの子知っている!これからの人生に大いに関わってくる大切な存在だ!そう気が付いたのだ。今はコウと宏海はお互いの魂が紐付いており、魂にフレンダの魔力が取り込まれており、魂にフレンダの存在も紐付いているのだった。

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