第50話  再会

 コウ達は立ったまま国王と話をしていた。この国の国王は型破りな事で有名であり、堅苦しいのはあまり好きではなかったのだ。勿論面識のない国外の者や、商人等明らかに格下の者に対しては国王としての威厳を保つ為、それなりの対応を取るが、フレンダのように見知っている者は別である。


 フレンダとは家族同様の付き合いをしている為、堅苦しい挨拶など抜きである。


 一部の家臣や伝令の者を除き、謁見の間から締め出していた。


 そしてそこに現れた勇者は俯いており、気が重そうに入って来た。コウは謁見の間についてキョロキョロと見ており、新たに誰かが入ってきたというのに気が付くのが一足遅かった。


 新たに来た者は呼び出された勇者であるが、コウ達を見ると途端に持っていた弓を落とした。弓が落ちた音がした方をコウは見たが、タプンタプンとした胸が目前に迫っていた。


 皆が唖然としている中、コウはその勇者に抱きつかれた。皆がポカーンとなっていた。その勇者は淑女にあるまじき事をしていた。駆け出し、最後はジャンプしてしがみつく様に抱きついたのだ。


「やっぱり弘君だ!弘君がいるよ!会いたかったよ!」


 コウは顔を見ていないが声の主が誰か分かったので、驚きながら抱きしめた。


 そしてその勇者は涙を流しながら、膝の力が抜けたかのように震え出した。


 そしてその勇者である女性、つまり宏海はいきなりコウの唇にその唇を重ねた。宏海のファーストキスである。コウは驚いたが、涙を流しながらキスをしてくる宏海を力一杯抱きしめ、頭を撫でていた。


 宏海は召喚されてからは感情を一切現さなくなっていた。宏海が感情を顕に泣きじゃくりながら会いたかった!会いたかった!とナタリー王女が連れてきた者に抱きつき、あまつさえキスをしている。その為、皆啞然としていた。


 コウの事を知らぬ者からすると、コウは女に見えるのだ。別の意味で皆落胆していた。宏海は男性に興味がなく、女性に興味があるのだと思ってしまった者もいるからだ。フレンダは二人の様子をじっと見ており、感動の再会の時を複雑な目で見ていた。


 目の前で少なからず思っている、ではなく、惚れているコウが初めて見た女性とキスをしているのだ。そしてフレンダはハッとなった。もう二度と会えないと思っていたとコウが言っていた想い人とは彼女の事なのだと理解したのだ。


 結果的にフレンダがコウとその想い人、確かひろみと言っていたこの二人の召喚に大きく関わっていたのだと今更だが気付いたのだ。


 2分位キスをしていただろうか、国王がコホンと咳払いをし、宏海がハッとなり慌てて片膝を付いた。


「し、しちゅれいいてこましましちゃ」


 舌を噛み、狼狽えながら挨拶をしていたが、ろれつも回っていなかった。宏海に対して国王は勇者殿はそのような堅苦しい挨拶をしなくても良いのだぞと言っているが、一向に止めようとしなかったのだ。変な喋り方になっていたが、所作は堅苦しいのだ。


 トリトとクルルもそれが誰なのか確信し、やはり複雑な感情が湧いていたのであった。


 宏海は召喚の影響により理性が働かなくなっていた。僅かながらに働く理性は己がしゃべると、言うべきでない事を喋ってしまうと分かっているので、口を閉ざす事にしていた。


 だが目の前にコウが現れ、その理性は完全に制御できるものではなく、本来しないような理性が押しとどめる行動を抑制する枷が外れたのだ。その為に、感情の赴くままに動いてしまうのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る