第49話 王都

 コウがトリトの胸の確認をした事が特別な事であり、それ以外は特に何もイベントがなく淡々と王都へ向けて進んでいた。


 順調に進んでおり、当初の予定通り夕方少し前に王都に着いた。王都のあるこの町はオニールだ。基本的に王都の町は国名と同じ名前を使う。


 立派な壁に囲まれており、入り口には町に入る手続き待ちの者の長い列が見られた。


 基本的に他国の王族が緊急面談を求めれば、受けざるを得ない。それも自国の領主の書状を携えているものだから最優先事項になる。


 町の出入りは王都だけあってかなり厳しいが、兵士が書状と札を携えており、入り口ではほぼノーチェックだった。ただそれは先触れを出し、警備兵に伝えていたのもある。そのまま一行は王城へ向かい、国王へ緊急面談を必要とすると伝え、謁見する事になる。


 王都に入る時には兵士の一人が全員の名前と、入町の手続きをする為に残ってくれた。ただ町に入る時には例外なく全員がライフカードだけは見せ、犯罪者でない事の確認のみはしていた。これは自国の王族であっても、犯罪者のチェックだけは必ずすると言っていた。


 王城の入り口では、予め先触れにより誰が来るのかというのを門兵は聞かされていた。 その為門兵にそのまま中に入るように言われ、急ぎ謁見の間に向かって行った。


 城の作り自体はウッダード国の城と大差がない。


 フレンダは勇者召喚をするのに魔法陣に魔力を注入したりしていた。


 その為、何度も城を訪れており、その間取りをよく知っていた。


 迷う事なく謁見の間に着くと、丁度国王が謁見していた者達を下がらせているところであった。


 緊急面談の必要が有ると自国の領主からの面談依頼の書簡と、召喚に関わったナタリー王女が来ているのだ。勿論国王とも面識のあるフレンダがとんぼ返りで書状を携え、予定より一週間以上早く戻ってきたものだから、よほどの事がない限り断ることができない。しかも何か異常な事がなければこういう行動を取らない人物との認識があったからである。


 警備兵に促され謁見の間に入るとフレンダはコウと一緒に前に進んだ。トリトとクルルは従者として来ている事になっており、謁見の間の入り口付近で距離を置いて待機である。


 国王が怪訝そうな顔をしていたが、それでも声を掛けてきた。


「ナタリー殿、久し振りだな。と言う程でもないか。緊急との事であるが、此度は如何された?また、そなたは聖女召喚のために国元に呼び戻されておった筈だが、戻ってくるのがやけに早かったのだな」


「はい。約二週間振りでございましょうか。ところで陛下。こちらで召喚された勇者様はお見えでしょうか?今からするお話は、魔王軍絡みの為、勇者様にもいて頂いた方が宜しいかと思います」 


「魔王軍絡みとな!分かった。誰ぞ勇者様を至急お呼びしてくるのだ。それと第一から第三までで城におる騎士団長を呼んで来るのだ。ナタリー殿、実は今勇者様は体調が優れぬのだ。なので可能ならば手短に頼む。それと横に控えておるその者は見た事が無いが何者か教えてはくれぬか?」


「はいこのお方は、ウッダード国にて私が聖女召喚にて召喚し、現れた御方でございます」


「なんと!これはどういう事だ?何故聖女様を我が国にお連れしておるのだ?」


「はい。話せば長くなりますが、この御方は間違いなく魔王軍を一度退けており、対峙できる力をお持ちです。ただ、訓練等をした事がなく、戦いも素人のそれですが、召喚者に与えられた能力と、この御方の素質で勝てました。陛下にはこの御方の庇護と、こちらにいる勇者殿と協力し、対処する為に私達を含め、協力する為に間に入ってもらいたいのと、訓練や学ぶ機会を頂きたく参りました」


「間に入るというより、こちらからお願いはしたいが、勇者様はいまだ我らに気を許してくれぬし、日に日に覇気が失せてきておる。正直精神的に参っておるようなので、歳の近いそなた達と話せば元気になるかと期待したい。同じ召喚者として、仲良くしてやって欲しい。何でも想い人と離れ離れになっておるのが堪えておるようだ。それと庇護とは如何した?」


「はい。実はこの御方は男性でして、何故か聖女召喚の場に男性が召喚されております。恐らくこちらに召喚された者と聖女と勇者が入れ替わってしまっているのかと思います。勇者様は女性では有りませぬか?父王はこの御方を男だというだけで処刑しようと、危険な魔物がいる山に放逐したのです。恥ずかしながら、召喚した聖女様を支配し、妾にしようとしたようです」


「なる程な。そなたの父上たるウッダード国国王についてはその手の醜聞を聞き及ぶ次第なので、やりかねぬと思うが、そういう事で有れば、我が国の賓客として受け入れよう。っと、勇者殿が来たようだな。続きは挨拶の後にしようではないか。ささ、勇者殿、こちらに聖女召喚された御方が来られておるので、こちらに来てくれぬか」


 そこには見事な黒髪を靡かせ、颯爽と歩く美丈夫がいた。国王が聖女として来た者と言われたら者の姿を見た途端に手に持っていた弓を落としたのであった。




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