第47話  魅力

 トリトはフレンダに助けを求めた。


「フレンダ!コウに言ってくれないか!私がこんなに綺麗な筈がないと。これは絶対に違う筈だ。魔道具で偽りの姿を映し出しているとしか思えないのだ。以前水面に写し出された自分の顔を見たが、私の顔は醜く歪んでいたのだぞ」


 フレンダは先程からトリトとコウのそのやり取りを見ていて呆れながらため息を付いていた。


「あのね、トリト。貴女、それって私に対する嫌味?今見えてる姿が本当の貴女の姿よ。私より大人びて見えるし、誰が見ても美人よ」


「本当に私はこんな姿をしているのか?」


「女の私から見ても貴女は綺麗で羨ましいわ。さっきからコウが鼻の下を伸ばしているでしょ?こらコウ、いつまでもトリトの体をジロジロと見てるんじゃないわよ。トリト、貴女は今まで鏡で自分の姿を見た事がないの?」


「私達の育った里には鏡などなかったからな。水面に映る姿しか知らないのだ。水面では自分の姿がよく分からないんだ。だからこうやって自分の顔を見るのは実は初めてなのだ」


 フレンダとコウはお互いの顔を見てため息をついていた。


「その、コウ、私の体は筋肉質で、フレンダのように柔らかくはないぞ。こんな硬い体の女は苦手だろ?違うか?」


 コウはため息をつき、トリトに告げた。


「なあトリト。いいか、あのな、大抵の男はお前の事を見ると魅力的な女性だと思うぞ。筋肉質で硬いだって?鍛えられ引き締まっていて、すらっとした抜群のプロポーションだと思うぞ。さっき触った感じの柔らかさでは確かにフレンダの方が女性らしい体つきをしているな。確かにフレンダに比べると君の方が柔かさは少ないだろうが、その、スタイルもいいし顔も可愛いよ。男から言い寄られる事が多くなる素敵な女性だと思うぞ」


 一呼吸置いて話を続けた。


「そうだな。フレンダから見てもお前の事は同じように見えている筈だぞ。そうだよなフレンダ?」


 フレンダは頷いた。


「だからなトリト。兵士がお前を見ていたのは、うわー美人が歩いている。すげーなとか、こんな子が俺の彼女だったらなとか、そんな目で見ていたからだよ」


「そ、そういうものなのか?」


 そこから道中の馬車の中にて、トリトはフレンダからみっちりと女性としての魅力を引き出す方法や、どういう格好をすべきかをレクチャーされていた。今までのように男を装う必要はないし、また胸が潰れてしまったらおっぱい星人のコウが悲しむからやめようねとまで言われていた。コウは目の前に俺がいるんだがと思いつつも、隣に座っているクルルの尻尾をもふりながら大人しくその様子をのほほんと見ていた。


 確かにトリトは見た目は美少女剣士なのだが、今まで男を装っていた為か喋り方が少し男っぽい。そんなトリトがどう変わるのか、それはそれで楽しみである。だが性格的な事に関してはそう簡単には変わらないであろうとは思う。ただ、これからはちゃんと女性として生きていくとトリトも言っており、どんな風に見た目が変わるのかが楽しみだ。しかもこれからは男装は一切辞め、ちゃんと女性の格好をするし、本当は女性らしい格好をしたかったとフレンダに話していた。


 コウは目のやり場に困っていた。

 慣れないスカートの為か、トリトは全くガードをしていないので、下着が見えていたのだ。今トリトが履いているスカートはかなり短い。そんなトリトのスカートはガードをしなければすぐ下着がチラチラ見えるだろうと思うぐらいに短いのだ。しかもトリトはコウの正面に座っている。


 コウは言う機会を失してしまった為言いずらく、中々言い出せずにいた。今日はなるべく馬車の外の景色を見るようにはしていたが、どうしてもトリトのその姿が気になる。まだ女としての姿を見慣れていないためチラチラとトリトを見る。そして下着の方も気になりついつい見てしまうのだ。淡いブルーに花がらのワンポイントがと心の中で呟いていた。


 トリトはコウが自分の事を時折見ているという事には気が付いてはいたが、コウが見ているのは、見慣れぬ女の格好を珍しくてなのだろうとは思ったが、まさか下着が見えているとはその時は思っていなかった。自分の事をジロジロと遠慮しがちにではあるが見てくるコウに、トリトは赤くなっていた。恥ずかしかったのだ。自分の姿はみっともなくないだろうか?とそのように考えていたのだ。場違いな格好をしており、残念さんを見る目で見てはいないだろうかと心配だったのだ。


 トリトが自分の姿を見ようとしなくなったのには理由がある。そう以前水面に映った自分の姿が醜く歪んでおりショックを受け、二度と見たくないと思ったのだ。池の湖面は普段は鏡のように穏やかな水面なのだが、たまたまトリトが自分の姿を見ようとした時は少し風が吹いており、水面が揺れていたのだ。揺れている水面でまともに見える訳もなく、自分の顔は醜く歪んでいるのだと思い込んでしまった。その時のショックから二度と自分の顔を見たいとは思わなくなってしまったのだ。


 それと真面目な話として、コウはフレンダからトリトの胸をもう一度診てあげてくれと言われた。勿論今ではないか、今日宿にて診てあげて、必要であれば胸を追加で治療をして欲しいと言う。

 

 昨夜のコウは寝ぼけており、夢だと思ってトリトの胸を治していたのだが、きちんと意識のある状態でもう一度診て欲しいとフレンダとトリトの二人から言われた。恥ずかしくはないのか?と聞くと、少しは恥ずかしいが、それよりも胸の形の方が気になると言っていた。羞恥心の度合いがコウが思っているのとはどうも違うようだ。トリトはこの胸はコウのものだから、コウが自分に子宝を授けてくれる時にどうせなら綺麗な胸を見てもらいたかったと呟いていたが、コウには聞こえなかった。


 トリトがあまりにも真剣に言ってくるのでら、コウはつい頷いていた。もちろんフレンダの立会いの下で行う。クルルに至っては万が一トリトに対しいやらしいような事をしようとしたならば、コウを叩く役割を担っていた。これはコウか自らに課す制約と、理性を保つ為の方便だった。


 尤も、クルルからはもしもエッチなようにしたら二度とモフらさないと言われ、コウは真剣にやりますと告げたが、どうしても女性の胸を見たら体は反応するからと、そこだけは大目に見てくれと告げるのであった。

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