第32話 新たな仲間

 なんとか魔物との戦いが終わったが、襲われていた者達の中の誰かが指揮をとっていたようだ。この一行の護衛を担当していた者達を率いていた者だろうか?又は一番実力のある者か?お陰で被害は最小限に抑えられていた。指揮を執る者がいなければあっという間に全滅していただろうなとコウは考えた。


 今日中に国境を越え、国境付近にある国境から一番近くの町まで行く乗合馬車だと言う。


 御者を含め26名が馬車5台に分かれて乗っていた。死者は6人で、そのうち5人は馬車の御者であった。大勢の魔物が道の脇から突如現れ、御者が真っ先に魔物に襲われ、一気に全ての馬車が横倒しとなり、中に乗っていた者達が皆外に投げ出されたらしい。運悪く頭を打ち、首の骨を折って亡くなった者もいた。ただ、殆どの者が冒険者で、応戦していて今に至っていた。


 本来は魔物が出たとしても底辺の弱い魔物しか出ないエリアだという。なぜか中級冒険者がやっと対処できる強さの魔物が現れてしまったのだという。


 皆各々持っているポーションで傷の回復をしていたが、流石に死者はどうにもならなかった。冒険者の一人が亡くなった者のカードを集めており、国境を越える前の町で亡くなった者の報告をすると言っていた。


 皆で魔物から魔石を抜き取り、各々に配分していた。コウ達の分は分かり易かった。矢が刺さっているからだ。トラブルの元になるのでフレンダが魔法で倒した分の魔石は主張しなかった。


 馬車は倒れた拍子に車軸が折れてしまい使い物にならなくなっていた。その為殆どの者は徒歩で国境を目指すと言っていた。


 総勢26名のうち死者は6名で、生存者は20名だ。だが、流石にこの人数ではコウ達の馬車1台ではどうにもならない。ましてや死体を運んで行ける訳でもないので、皆自分の荷物を馬車の残骸から出し、せめてもと死者を埋めてやる事になった。


 フレンダがトリト達を見て頷くので、コウも頷いた。コウは周りを見てくると告げ、その場をフレンダに任せた。魔物がまだいれば駆除する為だ。



 そしてフレンダがトリトとクルルに声を掛けた。


「ねえ、貴女達馬車に乗って行く?二人位なら大丈夫よ。これも何かの縁かと思うの」


「いいのかい?まだ距離があるから助かるよ」


「やったニャ!有難うニャ!」


「ただね、その、クルルさんに一つお願いがあるの。その、コウはワーキャット族を見たのがクルルさんが初めてで、その、尻尾を触りたがっているの。勿論ワーキャット族の事を話したの。でもワーキャット族の掟を抜きにして触らせて貰えないかしら?」


 フレンダが言っている事にクルルは目を丸くしていた。確かに昨夜のコウは機会があれば尻尾をもふりたい勢いでは有ったが、掟を抜きにと言う裏技を知っていたからだ。といっても、そう宣言するだけだ。


「分かったにゃ。黒髪が女の格好で女として触るなら良いニャ。黒髪はなぜ女の振りをするニャ?」


「コウの事ってばれていたのね。私の趣味で女装男子をじゃなくて、彼は国から追われているの。それで女を装い追手を躱していたのよ。それでも一緒に来る?黒髪黒目の男性を国が探しているの。だから女に見える格好をするのを何だかんだと理由を付けて認めさせ、追跡の目を躱わしていたの。詳しくは進み出してから話すけれども、基本的に彼はいい人よ」


「コウさんが男性だとか、追われているのは構まわないのだが、よかったら理由を話してくれないだろうか?勿論道中で。それに命の恩人ですから、私達で何か出切るならば是非とも恩返しがしたい」


 そうしているとコウが周辺は特に問題なかったと戻ってきたので、再び ダインを馬車に繋げていた。


 4人が乗り馬車が進み出すと、徒歩で国境に向かう者達からありがとうお姉さん達というような声をかけられた。


 コウは皆に手を振っていた。コウが皆を助けた事になっているから感謝をされていたのであった。全滅はしな買っただろうが、コウがいなければ間違いなく半分は死んでいたと感謝されていたのだ。


「ダイン、悪いがとりあえず国境まで進んでくれるかな。俺達はこれから話し合いをするんだ。後でちゃんとダインにも話すからさ」


 コウがお願いすると、ダインが小さく嘶いたので、御者をしていたコウが馬車の中に入ってきた。御者席に誰もいない状態で進んでいるので、トリトは驚いてはいた。


 コウは大丈夫、大丈夫と言って座席に座った。


「御者席に誰もいないのは、流石にまずいのではないか?」


「ダインに向かう先を指示したから大丈夫だよ。まあ、何かあったら知らせてくれるから」


「賢い馬なのだな。確かに立派な馬だけど、お互いに信頼しているのだな。それとコウは男の娘なのか?それとも女装男子なのか?」


「俺は身分を隠すのに仕方なくフレンダの提案に従い女装をしているだけだ。好き好んでの事ではなく、嫌々なんだよ。女が好きであって、男と乳繰り合う趣味なんてないから誤解すんなよ!。だが確かに効果はあったんだよな。きのう城からの追手に臨検をされた時も、俺の事を完全に女だと思い、目的の人物を目の前にしても分からなかったからな。まあ国境を超えるまでだからと我慢してるだけだよ」


「そうなのだな。趣味ではないのか。ある意味残念だが、安心したよ。変な性癖があるのではないかと少し気掛かりだったのだ」


「明日までの辛抱だからな。国境を超えたら流石にもうやりたくもないよ」


 フレンダがうるうるした目でコウを見ていた。


「時々、時々でいいの。私のお姉様になって!」


 コウはため息をついた。


「分かった、分かった。何か特別な事が有った時だけだぞ。やっぱりフレンダの趣味なんじゃないのか?」


 フレンダがコウに抱きつき、ありがとう!大好きと言っていた。調子のいい奴め!といった感じだったが、改めて四人とも自己紹介をした。コウの正体についてはある定度進み出し、間違いなく周りに聞いている物がいない状態で正体を明かすとした。


 その為コウの自己紹介は一番最後になった。フレンダもオニール国に留学していて、今回訳あって国元のウッダード国に戻っていたが、用が済み、留学先であるオニール国に向かう途中だとまずは告げた。自分は水魔法を使えると取り急ぎ説明した。戦いのスタイルを急ぎ共有する感じだ。すぐに何かに襲われた時に困るからだ。


 クルルは肉弾戦による近接戦闘が得意で、トリトは言うまでもなく剣士だった。


 コウは馬車の外を見て、誰もいない事を確認し、2人に自分は聖女として召喚された男だと告げた。そして二人の手を取りポーションでは治りきらなかった傷をヒールで治療して驚かせていた。


「いいのかい?我々を簡単に信用してしまって。我々が君の追手の可能性もあるのだと思うのだが」


「うん。だから今こうして君達に触れたんだ。治療という目的でね。君達は俺を裏切らないと確信したよ。そういう事ができる性質の人じゃないよ。何て言えばいいのか分からないが、ただ分かるんだ。君達が善良な魂の持ち主だと。改めて言うよ、俺は異世界から来ているんだ。つまり常識の違う所で育ったんだ」

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