第31話  リザードマン

 フレンダが謝ろうとした為、コウはフレンダの口に指を当てて黙らせた。コウはフレンダに謝るなと言っているのだが、フレンダはコウに対して父王が何をしたのかが分かり、申し訳ない気持ちで一杯なのだ。また、普段あまり父親と関わりがないが、それでも国王として敬ってはいたが、流石に今回は愛想が尽きていた。


 尤も数人いる妻の中の一人の子であり、子供の時から数ヶ月に一度しか会っておらず、生物学上の親であり、育ててくれたのは母親や乳母夫婦であり、家族の認識はない。

 もしコウが父王を討つと言えばコウに協力する位に憎悪を向けていた。


「これ以上謝ろうとするなら、逆に怒るぞ!」という事を伝えていたのだ。



 丁度コウがフレンダを黙らせた時にダインとルインの様子が変わった。それまで軽やかに駆けていたのだが、急に鼻息が荒くなり警戒を始めたのだ。


 コウはその異変にいち早く気が付いた。


「フレンダ。この話はこれまでのようだ」


 コウの雰囲気から異変を感じ、フレンダも頷いた。コウがダインにどうしたと声を掛けると、ダインは馬車から自分を解けというような仕草をしていた。どうやらこの先に何かがあるらしい。その為二人共警戒を始めた。そうすると異変が発生しているのが分かった。前方に土煙が見えるが、この先を曲がったところで何が起こっているのかが分からないのでコウはフレンダに告げた。


「ダインが何やら俺を乗せて行きたがっている。悪いがダインを馬車から外してくれないか?馬車はルインに引っ張って貰えばいい。ルイン、フレンダを頼むぞ!。嫌な予感がするんだ」


 そうするとルインは短く嘶き、任せて!と言っているような気がした。


 フレンダがコウに気を付けてねと言うと、コウはフレンダに確認をした。


「今回は魔道具は使われていないと思うが、大丈夫そうか?」


 フレンダは頷いた。


「お前は無理をするなよ。俺は大丈夫だから。フレンダは可能なら俺の援護、無理なら自分の命を最優先にして身を守ってくれ。君の事を守りながら戦えないかもだから」


 フレンダは頷き、コウは馬上の人となり、道の先へ進んで行った。フレンダの乗った馬車も軽やかに前進していたが、指示する前にルインが動き出したのだ。馬車は元々空荷に近いので、一頭の馬で十分なのだ。それにルイン自体牝馬とはいえ、普通の馬よりも一回りは大きい見事な躯体の馬である。そのため一頭で十分なのだ。


 ダインはコウを乗せると意気揚々と駆けて行った。コウがダインに特に何かを命じたり、お願いする事もなかったが、ダインに跨がり準備ができたよと言おうとした矢先に走り出したのだ。


 コウは弓矢を出して矢を番え、いつでも矢を放てる準備をしていた。


 馬車は峠を越えようとしており、山道を走っていた。緩やかな傾斜ではあるが、くねくねと入り組んだ道である。一本道なので迷う事はないが、見通しは悪い。


 そんな中、大きな左カーブを曲がったその先で争いの音や叫び声が聞こえてきた。


 コウの視界に入った光景は、数台の馬車が横転し、二足歩行の魔物、そうトカゲが二足歩行をするような感じのいわゆるリザードマンと思われる魔物が大挙して馬車を襲っていた。その場にいた襲われた者は各々の得物で戦闘を繰り広げており、何とか魔物を食い止め、一進一退を繰り返している状態だった。


 そんな中一人の若い冒険者が剣で斬り結んでいたが、その者の背後から一匹のリザードマンが槍を振りかざし、首に突き刺そうとしていた。


 コウはそのリザードマン目掛け矢を放った。馬上の人であるが、足でしっかりと馬の腹を挟み込み、上半身は完全にフリーである。走りながらだが、戦っていた者の頬を掠め、後ろにいたリザードマンの額を撃ち抜いた。頬に軽く矢による掠り傷を負ったが、後ろから襲われている事に気が付いておらず、顔を青くしていた。


 コウは次々と矢を番え、都度放っていく。そうしていると草むらから新たな魔物達が襲ってきて、コウの背後に回ろうとしていた。その魔物達はフレンダが放った氷の矢、いわゆるアイスアローというもので貫かれ絶命していた。中にはダインが後ろ蹴りで吹き飛ばして倒したのもいたりした。


 コウが後ろを見ると、フレンダが倒してくれた魔物の屍が転がっていた。コウは一瞬だがフレンダに向かって手を振り、有難うと合図を送っていた。その後は一心不乱に矢継ぎ早に矢を放った。勿論必中を使っており、必ず額に当たっていた。スキルを使っているが、それでも約2秒に一本矢を放っている。驚異的なスピードである。コウのいた部でも速射で約2秒おきに放てる者はコウを除くと宏海しかいなかった。放った矢が吸い込まれるように魔物をどんどん倒していくのだ。それまで形勢不利だった襲われていた者達が息を吹き返し、反撃に転じていた。


 昨夜相席とはいえ一緒に食事をしたあの二人がいる。ワーキャットの娘は手についた鉤爪で魔物を切り裂いていた。軽やかに飛び交い、後顧の憂いがなくなると本領発揮と言わんばかりに切り裂いていく。もう一人のトリトの方も1 対2の状況で防戦一方であったが、今は1対1の状況を作れるようになり、こちらもまた本領発揮と言わんばかりに相手をどんどん切り裂いて行った。


 コウがどんどん矢で魔物を倒していったおかげで、あっという間に魔物を倒し切り、コウが救援に駆け付けてから5分ほどで魔物を殲滅した。


 余裕の出てきたトリトとクルルは、まるで戦の女神ラーナのようだなとコウが矢を放つ姿に見惚れていた。女にしか見えないが、クルルはコウを男だと早々に見抜いており、二人はコウを男と認識した状態で、その勇姿に見惚れていたのであった。

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