第33話  国境へ

 トリトとクルルはコウが異世界人だという事が分かり、目を丸くして驚いていた。ある意味目的の人物に会えたからである。聖女召喚されたと言っていたが、意味がよく分からなかった。だがコウがはっきりと自分は異世界から来たと言っていたが、嘘を言っているようには見えなかった。何故男なのに聖女?確かに女装すれば女に見えるが、声は男そのまんまなので、突っ込みたくなっていた。


 それでもはっとなり、ちゃんと自己紹介をするクルルである。


「じゃあまずはアタイからにゃ。クルルにゃー。見ての通りのワーキャット族にゃ。そうニャあ、コウの髪を触らせてくれるなら耳と尻尾を触ってもいいニャ。でもその時は女の格好をしていないと駄目ニャ。男の格好をしている時は駄目ニャ?コウは分かったニャ?」


 コウはうんうんと首を縦に振りながら了解と告げた。


 そしてクルルに対してフレンダは親指を立ててグッジョブというような風にしていた。

 フレンダが目をうるうるさせながらコウに女装を懇願しても、ご褒美の時だけだと言われたが、クルルをモフる時は女装をしなければならないから、必然的にコウの女姿を見られるのだ。そう、二つ返事で了解したのだ。


 コウはクルルにモフりたければ女の格好をしろと言われたのだが、モフれると分かり顔が緩みきっていた。だが、冷静に考えれば断る話であったが、女装さえすればモフれる。女装を渋るより、モフれる方が優勢になってしまったのだ。


 そしてクルルの歳に大いに驚いた。


「あたいは18歳にゃ。もう大人で子供も生めるにゃ」


 コウはすかさず突っ込んだ。


「お前その格好で18歳って俺より年上かよ!マジかよ!」


「そう言うおまんはいくつにゃ?」


「俺は17だ」


 クルルはコウの年齢を聞いて満足していた。どう見ても12、3歳にしか見えないが、18だと言うのにコウの受けた衝撃はかなりのものがあった。服も小柄な為か、子供服にしか見えないのだ。


「えーと、それでは次は私だな」


 トリトが自己紹介を始めた。


「年は16だ。見ての通り剣での戦を得意としている。魔法は得意ではなく、殆ど使えないから、剣頼りでやってきた。コウさん、フレンダさん宜しくな」


「コウさんじゃなくて、俺の事はコウでいいよ。君の事を俺もトリトって呼ぶから」


「分かった。じゃあよろしくなコウ、フレンダ」


「改めて。私はフレンダよ。その、コウの召喚を実行したのは私なの。その償いとして彼にこの体を既に捧げているの。だから彼が私に何をしようとしてもほっといてもらっていいのよ」


 コウはすかさずデコピンの刑に処した。


「体を捧げただって?人聞きの悪い事を言うな!俺はお前の事を抱いても手籠めにもしていないぞ!お前の事を心から愛していると思わない限り抱かないと言ったろ?誤解を招くようなことを言うな!二人が引いているだろう!」


「でも時間遡行ってごめんなさい。はい、私はまだ清い体でした。じゃあ気を取り直して、そうね歳は最年少のピチピチの15歳で、オニール国のある魔術師のところで魔法を学んでいるところなの。聖女召喚の為に1度国元に呼び戻されたけども、召喚が失敗したとして追い出されるようにして城を出たの。コウに対する仕打ちを許せないから、もう国に戻るつもりはないの。一応王族だけど、気にしなくていいんだからね」


 二人がポカーンとなっていたが、次にコウが話し始めた


「じゃあ俺がコウで17歳だ。さっき見た通り弓を得意とし、攻撃魔法は使えず、生活魔法ぐらいしか使えない。ただ魔力は膨大な量があるらしいが、魔力を魔力弾にして無理矢理発射するぐらいしか魔力での攻撃の方法を知らないんだ。他には生活魔法に強い魔力を注ぎ込んで無理やり使うのしか思い付かないんだよな。後はスキルで治療ができるぐらいかな。一応こいつはこんな事を言っているが、俺は女を無理やり手籠めにしたり、立場を利用して無理やり身体を求めるなんてそんなゲスな真似はするつもりもないぞ。俺は本当は勇者として呼ばれる筈だったとしか思えないんだよ。それと一応言っとくけど、女装の趣味はないからな。こいつに女性を装っていた方が逃げやすいと言われ仕方なくだからそこんとこ間違えんなよ。という事でよろしくな!」


 自己紹介をしながら1時間位い進んでいただろうか、誰かのお腹が鳴ったのでそろそろお昼だなとなった。一旦馬車を止め、馬に飼い葉や水を与え、4人の食事はコウが出した収納の中にある買い置きの弁当で済ませた。


 コウの収納は、コウのレベルが上がった時に少しずつだが収納力が上がっており、ちょっとしたテーブルなども入れてあったりした。


「便利なものだなその収納というのは」


「そうなんだ。これは相手に触っているとそいつが身につけている物を任意に奪えるんだ。例えばほらこんなふうに」


 トリトに触りながら、トリトから奪った財布を収納から出して渡した。トリトは驚きながらホエーと言っていた。


「奪うのとは逆に、収納の中の物は俺しか触れる事が出来ないから、俺とフレンダの物の殆どは俺の収納に入れているんだ。今は多分馬車くらいなら入るかもね。それと収納の中に入れた物は重さが消えるんだよ」


 二人は手を取り合い、凄いなと唸っていた。


 トリトとクルルの二人は同じ町の出身で幼なじみだという。今回の召喚は聖女召喚がウッダード国の担当で、勇者召喚がオニール国だと聞いた時に、勇者召喚の所に行き、可能であれば勇者と接触してその仲間とし一緒に冒険をする。それを夢見てオニール国を目指し始めたと言う。


 コウは正直に話した。自分が聖女召喚の場に召喚された後、男だという理由だけで危険な魔物が生息する山に放逐され、命からがら脱出し、フレンダと知り合い今に至っていると。


 トリトは馬車の中であるという事もあり暫くすると、かぶっていた兜というか、簡易のヘルムのようなものを取った。すると肩までの長さの金髪のエルフがそこにいたのだ。


 コウは反射的についついトリトの耳を触ってしまった。


「いきなりなんだい?私の耳が変だったのかい?」


 コウがブルブルと首を降っていたのでトリトは確認した


「ひょっとしてコウはエルフを見るのが初めてなのか?」


「悪い悪い。つい初めて見たエルフの耳を触っちゃった。ごめんな。嫌だったよな」


「いや、別にいいのだが、少し驚いただけだよ。ただ、気を付けた方がいいぞ。中には怒る者もいるからな。でも私の耳など触ってもしょうもないぞ。形が違うだけで 、ヒューマンの耳とそう大して変わりないだろうに」


「ごめんごめん。俺の居た世界じゃエルフとか猫耳さんなんていなかったからさ。ヒューマンしかいないんだよ。だからつい珍しくてさ。その今だけだから」


 ふーんといいつつ、黙って触らせるトリトであった。

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