第26話  臨検

 フレンダも後ろを見たが、先頭の騎馬の者が追い抜きざまに止まり、馬を下りこちらに向かって来た。どうやら城からの騎士か兵士のようだ。


「私が応対するから、あんたは黙ってなさい。声で男とバレるかもだから。どう見ても正規兵で臨検と思うから心配しなくても大丈夫よ」


「分かった。気をつけろよ。万が一の場合は時間遡行が使えるからな」


 フレンダは馬車を降り、兵の方に近づいた。

 残りの者も来て、馬車の中やコウを厭らしい目つきで見ていた。


 残念だけど俺って男なんだよな。

 耳を済ませると兵達の会話が聞こえてきた。


「臨検だ。ライフカードを見せろ」


 コウは黙って従い、ライフカードを見せた。そいつは値踏みするようにコウの顔や体つきを見ていた。不躾な目線ではなく、男か女かを見極める為に見ている感じで、さっと目を通しライフカードを返してきた。尤も持っていっても一時間もすれば霧散し、本人の所に戻るので持っていく事が出来ないのだ。死人のは別だ。


「副長、女性2人のみで、荷台もクリアです。ライフカードも持っています」


「よし、先に進むぞ!こっちに来ていたらソロソロ追いつく頃だから気を引き締めろ。外れだと隊長に報告しろ」


 フレンダを見ると、騎士と思われる者がフレンダの前で片膝を付いていた。フレンダに起こされ立ち上がってから話をしていたが、やがてフレンダの手を取ると、片膝を付きその甲にキスをしていた。そしてお辞儀をしてからフレンダと別れ、兵達に手振りで行くぞと指示をしていた。やがて全員騎乗し、去っていった。


 コウには会話が聞こえず、何をしていたのかが分からなかった。

 フレンダが戻って来て御者席に座ったので直ぐに進み出した。


「大丈夫だったか?あの騎士?に何か言われたのか?」


「いえ、何もないわ。レディの馬車の中を検めた事を謝られただけよ」


「そうか、それなら良いが、それにしては物々しかったな。ああいうふうに手にキスをするのを初めてみたが、フレンダは慣れているのか?」


「あの騎士様は気障なだけよ。それより何やってるのよ。クリーンを早く掛けなさいよ。手にキスされたのよ。気持ち悪言ったらありゃしない」


「ああすまない。ほら綺麗になったぞ。ああいうのは俺も覚えたほうが良いのか?」


「向こうに行ったら男として過ごすから必要よ。ちょっとやってみたら?ほら」


 フレンダは手を差し出したので、座ったままだがその甲にコウは見様見真似でキスをした。


 フレンダは真っ赤になりながらその手を胸元に大事そうに握っていた。


「は、初めてにしては上手じゃない。本当にした事がないの?」


「ああ、初めてだよ。それよりあいつらやっぱ俺を探してるのか?」


「ええそうよ。大体の見た目を言っていて、似ている者を見掛けなかったかと聞いてきたわ。何でも召喚した異世界人だが、逃げ出し、女性を犯したり強盗を働いている凶悪犯だから気をつけろと言われたわ。あの者達は信じているようよ。犯罪者だから生死は問わないそうよ」


「そっか。犯罪者に祭り上げられたか。くそ、許せない!」


「ごめんね」


「別にフレンダが謝る事じゃないだろ。さあ先を急ぎ、明日早めに国境を越えようぜ」


 フレンダは頷き、先を進んでいた。


 そこからもフレンダの表情が暗かった。

 コウは生活魔法に氷の生成が有るので、豆粒大を作りそんな沈んだフレンダの首元に氷を放り込んだ。途端にキャッ!という悲鳴が聞こえた。


「どうした?背中でも急に冷たくなったか?」


「何よ!あんたの仕業?くだらない事してんじゃないわよ。まったくもう」

 

「悪い悪い。フレンダが深刻そうな顔をしてたから和まそうと思ってさ。」


「ばか。折角の魔法をくだらない事に使うなんて!ほんとにしょうもない人ね。人の気も知らないで!ばか!」


 フレンダがぷいぷいと怒ってしまったが、コウはその怒った顔に少しどきりとした。


 何か悩んでいるか、考えているようだったので今はそっとしようとした。


 その後は特に何もなく、夕方少し前に今日の目的の町に着いた。


 宿をいくつか回ったが、金貨3枚の高級宿しか空いておらず、今日はやむなく高級宿に泊まる事になった。コウが仕方がないなと言うとフレンダの表情が少し明るくなった気がした。


 小さな風呂があり、貸し切りに出来るのだったが、30分とかなり短かった。但し予約した順になるが、遅く宿に来た為予約が出来ないと言われたが、今すぐだと30分は大丈夫との事だったので、急ぎ部屋に荷物を置き、風呂場に向かった。


 どうするかとなったが、二人共恥ずかしさはともかく疲労が溜まっており、可能な限り長くお湯に浸かりたかった。体は洗わずクリーンで良いからと、30分丸々お湯に浸かる事にしたのだ。


 勿論フレンダには大き目のバスタオルで体を覆って貰う。湯船に浸かる前にバスタオルを外すが、先にコウが入り、背中を向ける事で話が付いた。フレンダはコウになら見られても良いと言うが、コウは理性が吹き飛ぶからと慌てていたが、フレンダにからかわれただけだった。むっつりスケベとか、期待しちゃった?とか散々言われたのだ。


 湯船にタオル類を漬けるのは本来はマナー違反だが、バスタオルを巻いて入っても問題なかった。


 風呂場自体は二坪位で、浴槽はそんなに大きくはない。

 一般的な戸建て用のユニットバスの浴槽程度だ。背中合わせだと体育座りで狭くなるが、贅沢は言えない。


 コウがクリーンを湯船に掛けるか、お湯を生活魔法で入れ替えれば済むのだが、焦っていてお互いそこに考えが及ばなかった。


 しかし、真面目に入ったので、コウがフレンダの生の胸を見たり触ったりもなく久し振りのお風呂を堪能した。


 ただ、お互い気不味いのか恥ずかしいのか、必要最低限の会話しかしなかったが、風呂を出るのはフレンダが先で、服を着た後コウが呼ばれた。そしてフレンダは服を着て出てくるコウを風呂場の入り口で待っており、お行儀よく部屋に戻るのであった。但し、コウは宿着の為、フレンダの谷間が見えており、ドキドキしっぱなしだった。身長が20Cmも違うからフレンダの谷間がモロに見えてしまったのだ。コウはまさかちら見している事をフレンダが気付いているとは思わなかったのであった。

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