第22話  後始末

 小さい方の1頭がフレンダの顔を舐め始め、大きい方はフレンダの服の裾を軽く噛んで馬車の有る方に少し引っ張っていた。


「きゃははは。くすぐったいぃ。やめて〜!きゃははは」


 フレンダは嬉しそうな悲鳴を上げていたが、小さい方の馬とじゃれ合っているのに業を煮やしたのか、大きい方が催促するかのようにフレンダの背中を鼻先で軽く押していた。


「えっと、私達と一緒に来たいの?」


 軽く嘶いていたのでフレンダは頷き、取り敢えず馬車まで連れて行く事にした。


 2頭の手綱を持ち、馬車の方に向かっていたが2頭は大人しく付き従っている。気性が荒そうだが、何故自分と一緒に来るのかが不思議だった。


 馬車に着くと大きい方の馬がコウに近付くといきなり頬を舐め始めた。

 そして徐にコウの腕に噛み付いた。フレンダがえっ?と思っていると、口に咥えたコウを持ち上げ、馬車の中に放り出した。そう、噛んだのではなく、口で掴んでいたのだ。


 因みにコウ達の馬車を引いていた馬は、戦闘中に馬車と馬を繋げていた紐が切れた為か何処かに逃げていた。


 フレンダは大きい方の馬に有難うと伝え、その首を撫でた。するともう一頭が背中を押して来た。


「うん、分かったわ。コウを見てくるからここにいてね!」


 馬は頭が良いと聞くが、この2頭は飛び抜けて良いと感じた。どう考えてもこちらの言っている事を理解しているからだ。

 

 魔道具を脇に置き、急ぎ荷台の中で無様に転がっているコウを床に寝かせ、毛布を掛けた。その情けない転がり方を見て吹き出していた。


 フレンダはコウの意識こそ今はないが、呼吸も落ち着いているようで、大丈夫と判断した。その為コウをそのままにして馬車の外に出た。フレンダにはやらなければならない事が有ったからだ。


 討伐した賊達のライフカードの確認と回収だ。可能なら何者かを調べたかった。


 馬車の外に出ると小さい方の馬がフレンダに付いてきて、大きい方は荷台の入り口を塞ぐ形でその場に残った。その様子から馬車の中のコウを守らんとしているとしか思えなかった。


「ねえ、お話ができれば良いのだけれども、そうね、私はフレンダ。私のお友達になってくれるのかしら?あなたは女の子ね」


 フレンダはカバンを馬の鞍に引っ掛けて一人ひとり確認していくが、死体はバラバラだった。


 気の滅入る作業の合間に馬に話し掛けていた。武器は安物は捨て置き、お金やカード等を回収した。


 2人だけ盗賊と有ったが、残りは一般人であり、初犯らしい。前日と同じだ。


 お金は全て集めても金貨12枚位にしかならず、身分を示す物は身に着けていなかった。

 コウの魔力弾により顔は殆ど原型を保っておらず、肌の色からどこの国の者か?と推測するしかないが、残念ながらこの国の一般的な感じの者としか分からなかった。


 そしてカードやお金の回収が終わり 、フレンダは馬車に戻り魔法で水を作る事にした。


「我が望む。我の前に恵みの水を。ウォーター」  


 するとフレンダの手の先から水がそれなりの勢いで出て来て、馬車の中から出して来た桶に水を溜めていく。

 その水を使い、手や顔に着いた血を流した。

 次に馬に水や飼い葉を与えたりと世話をしていた。飼い葉は一回分は馬車の天井に括り付けられていたのだ。


 その後コウを確認するも暫くは起きる気配が無く、どう見ても魔力切れの状態だと思えた。

 慣れた為普段はあまり気にしないが、コウからは有り余る魔力を感じるのだが、今は少ししか感じない。先の戦闘で思ったよりも魔力を使ったのか?程度の認識だ。

 魔力を使い過ぎるとどうなるのか知らないのだろうなと、起きたら伝えねばならないなとフレンダは思った。


 だが、これだと丸一日とは言わないが、早くても数時間は起きない筈で、ため息をついていた。


 馬車の外に行くと2頭は馬車を引く位置にいた。


「いいの?助かるわ。今からに馬車に繋げるから、取り敢えず次の街までお願いするわね」


 小さい方の馬が軽く嘶いたが、大きい方は鼻息を荒くし、早く繋げと言わんばかりの態度だった。


 そして一際立派な2頭に馬車を引いて貰うべく馬車に繋げていった。10分程で準備が出来た為、出発する事にした。  


 馬に指示をしようとし

 たが、驚いた事に手綱をまだ操作していないのにも関わらず、勝手に動き出したのだ。それもコウに配慮しているとしか思えない位堂々とだがゆったりとしたペースで歩み出したのだ。


 この馬車は本来は荷馬車だったが、荷台に幌を掛けており、両脇はベンチシートを置いている。荷馬車を人を乗せるように作り変えた感じだった。


 ベンチにコウを寝かせると落ちる可能性が高いというか、持ち上げられなかったのでコウは床に敷いた毛布の上に寝かされ、服等ををまとめた物を枕にしていた。


 フレンダはこの2頭を見て不思議な子達ね!と思う、異世界人のコウが不思議な力を持っていて、その力の為にこの2頭が付き従う感じなのかな?と感じた。ただ、なんとなく見た事の有る馬のような気がした。


 時折休憩し、馬に水を飲ませていた。

 その後は問題なく進み、時折旅の商人、農作物の買付、販売の為等で近隣の町や村に行き来している農家や商人の馬車とすれ違う程度だった。


 幸いなのはコウは気絶する前にクリーンを掛けていた事だ。そうでなくば返り血や自らの血で汚れてかなりシュールな姿になっていた筈だった。魔力切れ?というか、コウが気絶したのは最後に使ったクリーンが引き金だった。


 フレンダは不思議に思っていた。コウが魔力切れを起こす程の強い魔法は使っていない筈だし、今使えるのはヒールとクリーン、魔力弾だけだからだ。ほぼ無尽蔵とも思える魔力量の筈で、100人の宮廷魔術師の魔力を集めてもコウの方が上だと言う評価だ。ただ、コウはまともに魔法が使えないのだが、数少ない使える魔法も本来は魔法封じにより使えない筈が、何故か魔法封じが発動している中でも発動していた。自分の魔法が封じられている状況から、間違いなく魔法封じが発動している。それにも関わらず、コウの魔法は発動していたから不思議だったのだ。ひょっとして時間遡行が大量の魔力を必要としているのだろうか?と考えていた。


 賊の驚きようも頷ける。魔法封じが働くのかは事前に試し、効果が有る事を確かめた筈だからだ。


 それはともかくとして順調に進んだ為、夕方少し前に目的の町に着いたのであった。

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