第21話 時間遡行
コウはふと時間が気になった。何故かまだ30分経っていないわ!と聞こえてきた気がしたから、はっとなったのだ。しかも何故か宏海の声のような気がした。
賊と戦い始めてからまだ20分程しか経っていなかったのだ。
そうと分かるとまだやり直せるんだ!と涙を流しながらコウは時間遡行をする事にした。
涙を流しつつ、息をしていないフレンダを抱き上げ、キスをしながら頭を撫でた。
「やり直して君を助ける!次はちゃんと守るから!時間遡行!」
そうすると昼食を終え、馬車を発進させる少し前に戻っていた。
そこには笑顔のフレンダがいた。
「何をバカみたいに口をポカーンと開けているのよ?ちょっと大丈夫?」
突然コウは泣きながらフレンダに抱き着き、お腹に顔を埋めたのだ。
「ちょ、ちょっと!何してんのよ!こら!勝手に抱き着かない!このスケベ!こら!胸に頭が当たってるじゃないの!」
必死に引き剥がそうとするが、ガッチリ抱かれているので中々引き剥がす事が出来なかった。何とかお腹から顔を離す事が出来たのでフレンダがホッとしたのも束の間で、コウは涙を流しながらフレンダにいきなりキスをした。
「今度は守る!君を死なせてたまるか!好きだよ!穢されても今度は死ぬな!例え穢されても俺が愛してやる!」
コウの言う事の意味が分からなかった。ファーストキスだったのもあり、呆然としていたがなんとか文句を口に出せた。
「いきなり何よ!私のファーストキスなんだからね。責任取りなさいよ。次って何よ?それにコウのその必死さや私を見る目っておかしいわよ?まるで死人に会った感じじゃないの。それに失礼な事を言わないで!私まだ未経験なんだから、穢されてなんかいないわよ!」
勢いでかなり恥ずかしい事を言ってしまったので、フレンダは真っ赤になっていた。
「その、すまない。時間遡行をしたからまだ混乱しているんだ。君はこの先賊に犯され、穢されたと泣きながら俺の目の前で自害したんだ。俺が守ってやる!だから死ぬな。あんな思いをさせてたまるか!したくもない」
フレンダはコウから時間遡行について予め聞いていた。コウからキスをされたのには驚きもあったが、嫌どころか嬉しかったのだ。フレンダはコウからのキスを嬉しいと思い、ドキドキしている自分に戸惑ったが、コウからのキスは悪い気はしなかった。寧ろこのキスで本気で好きになっているのだと思い知らされた。だが、コウは生き返った自分を見て、生きている事への安堵からキスをしたのだと理解した。
好きな恋人へのキスではないと分かり少しがっかりしたが、自分の為に涙を流してくれたんだと胸が苦しくなった。
どうやらこの先、本当なら自分は純潔を散らされ、自害する事になるのだと理解したのだ。そう、もしも何者かに犯された時、自分はその場で自害すると思うから、コウの言っているのは恐らく事実なのだろうと思ったのだ。フレンダは頭がよく、物覚えもよい。
「分かったわ。これからどうすれば良いの?」
「悪いがある程度離れた所から見ていてくれ。少なくとも魔法封じの結界の外にいてくれ。俺なら大丈夫だ。だがさっきは魔法の使えない状態のフレンダを守りきれなかった。次も同じになると思う。だから戦闘には結界の外からしか参加するな!」
「そういう事ね。魔法封じのアイテムを持っているのね。そっか。それじゃあそこに行ったら私は無力ね。でも無理しないでね。」
そう言ってフレンダはコウにキスを返して送り出した。
一人で戦う方が今回は勝ち目があるのだろうと思った為、木陰に隠れながら少し距離を置き後を追う事にした。
コウは混乱していた。先程のフレンダの自害は精神的にかなりのダメージが在ったのだ。
賊は殺す!絶対に許さない!とまだ起こってもいない事なのだが、先程のフレンダの恐怖と絶望の顔が頭から離れない。それまでは単なる旅の仲間であり、ちょっといい感じの美少女だなとしか思っていなかったが、動かなくなった体の感触、無力感がまだ手にこびりついており、怒りや悲しみの感情でグチャぐちゃだった。そう、何がなんだか訳が分からなくなっていたのだ。
そして真っ直ぐに賊の待ち受けている所に向かい、やがて奴らが見えてきたのでコウは矢を番え、魔法封じのアイテムに矢を放った。
しかし、裸で置かれている訳ではなく、箱に入っていた為アイテム本体には届かず、矢は箱で食い止められていた。
コウは手応えからそうと分かり、チッと舌打ちした。
コウは仕方がないので何食わぬ顔をして街道を進んだ。
すると街道を塞ぐように賊がいたが、既にコウの顔は怒りで眼光鋭くなっていた。
「どうした喧嘩でもしたか?くくく。悪いがネエチャン達、死にたくなかったら大人しく俺らに捕まりな。暫く俺らと遊んだら開放してやらんでもない」
クククと下卑た笑いがしていた。
コウは返答代わりに脇に置いた弓矢を取り、番えると構えもせずに即時に矢を放った。真っ直ぐに向かって行き、声を掛けてきた奴の脳天に見事に突き刺さった。
「貴様ら楽に死ねると思うなよ!」
「テメェやりやがったな!こいつ男だぞ!手足はもいでも殺すなよ!男娼にしてやる!」
奴らは一斉に襲ってきた。脇に潜んでいた者が矢を射掛けてきたが、魔力弾を放ち撃ち落とした。しかし数が多い為全てを撃ち落とす事が出来ず、コウの脚に刺さってしまった。だがお構いなしに魔力弾を放ち次々と倒していった。
1分と経たないうちに倒したが、コウは更に2本の矢を食らってしまい、倒れてしまった。ぐふっと血を口から吐いた。戦闘が終わったと分かるとフレンダが息を切らせて駆け寄ってきた。
「コウ!」
フレンダは口を押さえて叫んだ。ぐったりしているコウを見て慌てて矢を引き抜いた。
コウは痛みから叫んだが、辛うじて意識がまだあり、ヒールを唱える事が出来た。痛みが引くと取り憑かれたように死体に向けて魔力弾を放った。
フレンダは唖然となった。盗賊達とはいえ、死体に対し酷い仕打ちだからだ。
「コウ、もう止めて。皆もう死んでいるのよ。」
それでも止めないのでフレンダはコウに抱きついて意識を自分に向けさせた。
コウの顔は修羅の如く恐ろしい形相であった。フレンダが落ち着くように背中を擦っているとやがてコウは魔力弾を放つのを止め、気絶した。
フレンダは困った。外で気絶したのだが、フレンダの力では背の高いコウを引きずる以外に動かせなそうに無いからだ。
取り敢えず馬車の中から出したクッションを頭の下に置き、毛布を掛けて寝かせた。
コウが倒れた事による不安が有るが、急いで周りを見て確認をしていた。
フレンダはコウを見ていたかったのだが、そうもいかないのだ。まだ魔法封じが機能しており、今のフレンダは魔法を使えず、もし今何者かに襲われるとひとたまりもないのだ。それ故魔法封じを止めるのが最優先なのだ。
魔法封じを探すべく道の脇の木立に入った。すると一際立派な2頭の馬が木に繋がれており、フレンダを見るとそのうちの一頭が何やら矢の刺さった木箱の紐を引っ張ってフレンダの前に出した。そして親しげに嘶いた。
「こ、これは?あなた、これを私に?」
馬は嬉しそうに嘶いていた。
フレンダは箱を開け、コアになっている魔石を抜いた。すると魔法封じが切れたのが分かる。
そうすると木に縛られている紐を引っ張っており、解いて欲しいとアピールしている気がした。
馬には罪はないからとフレンダは紐を解いた。
すると先の小さい方の馬がフレンダの頬をぺろりと舐め、フレンダはくすぐったそうにしていた。
もう一頭はよく分からないが、フレンダは馬に伝えた。
「こめんなさいね。あなた達の主は私の仲間が殺したの。今紐を解くからね。これであなた達は自由よ。さあお行きなさい。あなた達に幸あれ!」
馬の首を撫でてから軽くお尻を叩いて、進むように促したのであった。
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