第20話  死闘とフレンダの死

 コウはフレンダを馬車の中に押し込んでから、盾と弓矢を渡して何とか自身の身を守ってくれと半ば祈るように伝え戦いに出ていった。今のコウにはフレンダを守りながら戦う余裕が無いのだ。


 フレンダが震えながら短剣を携え、弓矢と盾を持ち、荷台の中に入っていった。フレンダはかわいそうな位に震えていたが、それは魔法の使えない魔法使いは一般人と大差ないからだ。魔物相手に短剣を多少は使える程度だった。


 つまり今からの戦闘については役立たずなのである。一応弓を渡していたので、弓を構えてはいるが、賊との間にいるコウが邪魔で放つ事ができなかった。


 コウは最初に飛びかかってきた者の足を弓矢で射抜いた。いてぇと唸りながらそいつが叫んだ。


「てめぇやりやがったな!」


 次に二人が同時に襲い掛かって来た。コウは矢継ぎ早に矢を放った。一本目は手を貫通し、2本目は外れた。3本目はもう一人の顔に当たった為に即死した。コウは殺すつもりはなかったのだが、急ぎ放っていた為狙いを定める時間がなく、体のどこかに当てる事が精一杯だった。それは2人が10m先から走ってきたからであり、目の前の事だったから狙いを付けづに放った為、たまたま運悪く頭に当たったのだ。


 右手を射抜かれた者は左手で剣を持ち、コウに襲い掛かってきた。コウは咄嗟に剣で受け流したが、弓を離して剣を両手で握っているのにも関わらず、手負いの者が片手で振る剣を凌ぐのが精一杯だった。


 コウは蹴飛ばされ、尻餅をつく形で倒れた。そいつは怒り狂っており、コウに止どめを刺そうとしてきた。コウは咄嗟に手を翳し、魔力弾を発射したのだが、そいつの頭を吹き飛ばしてしまった。無力可するつもりが加減ができなくて強めに出ていたのだ。というか、掌から出したから強かった。


 賊達が騒然となっていた。


「なんで魔法を使えるんだよ!結界はちゃんと働いているんだぞ!こうなったら全員で囲め!一気にやるぞ!やらなきゃ殺られるぞ!」



 7人がコウを半円状に囲み、襲い掛かる前に一人が叫んでいた。


「こいつやべーぞ!人質を取るぞ!女の方はいかしとけ!」


 馬車に向かい2人が突撃していった。あっという間の出来事で止める暇もなく、フレンダの悲鳴が聞こえて来た。


 コウが馬車の方に掛け寄ろうとしたが、残りの5人が一斉に飛び掛ってきて塞がれてしまった。しかも馬車の方に気を取られていてコウは腕を切られてしまったのだ。


 ぐわっとなりつつも、左手から放った魔力弾でそいつの胴体に風穴を開けた。コウの右腕は半ば切断されている状態であった。コウはいてぇと唸りつつも攻撃を躱したりしつつ、一人また一人と魔力弾を叩き込み、5人を無力化していった。その間は戦闘開始から概ね2分位の事だ。5人の体を魔力弾で撃ち抜いたが、即死した者、即死しなかった者、色々であるが、生きている者も一人を除き致命傷である。一人の生き残りにお前ら何者だと聞くと下を噛み切り口から血を流し絶命した。脚を射抜いた者は仲間に殺されていた。


 馬車の中からはフレンダの悲鳴と泣き声、物音がした。コウは取り急ぎ己にヒールを掛け、もう一度戦えるようにして馬車に突撃した。

 馬車に着くと馬車の外に額に矢が刺さっている死体一体あった。


 荷台に入るとそこには犯されている最中のフレンダがいた。組み伏せられ、服を殆ど破られており、上半身が裸になっていた。捲し上げられたスカートに賊の下腹部が当たっていて、血が見えた。コウが冷たい声で叫んだ。


「てめえ、俺の女に何をしている!よくもよくも!」


 というと一気にそいつの首に剣を突き刺した。そいつはフレンダから離れ、血を吹き出し死んでいった。


 フレンダが呆然となり泣いていた。コウはフレンダを抱きよせ、2人にクリーンを掛けた。返り血を浴びて真っ赤になっていたので、まずはクリーンを掛けた。コウはとりあえず賊の死体を外に蹴り出した。


 フレンダは殆ど裸であり、胸が顕になっている体をコウは焦りながらぺたぺたと触って怪我がないか確かめていた。もちろん胸も触ったが真剣そのものである。怪我はないか大丈夫か?と聞くがフレンダはただただ泣いていた。


「お願い!殺して!わ、私、穢されたの。犯されたの!いやだ、いやだ。死にたいよ。初めてを好きな人に、コウにあげられなかったの。ごめんなさい。コウ。ううう」


 フレンダの下腹部を見ると陰部から賊の体液とフレンダの血が滲んでおり、何があったのか一目瞭然だった。


「俺は守れなかった。すまない。俺が君を守れなかった」


 コウはフレンダを抱きしめたが、フレンダはコウを突き飛ばし、その場にあった短剣を自らの胸に突き立てて自害した。


 突き飛ばされたコウは馬車から転落し、フレンダの自害を止められなかったのだ。


 馬車の中に入ると、短剣を胸に突き立てたフレンダが口から血を吐きながら、息を引き取る所だった。最後にか細く呟いた。


「身を守れず穢されてごめんね。貴方のような方に抱かれたかったわ」



 コウは死ぬなと叫んでヒールを掛けるも、傷はなくなったがフレンダは息をしていなかった。

 泣きながら心臓マッサージと人工呼吸をするも、再び心臓が鼓動をする事はなく、見開かれた目からは明らかに生気が失せていた。


 フレンダの死体を抱いて何度も泣きながら謝り、君を守れなかったと悔やんだ。


「ばかやろう!俺は処女厨じゃないんだぞ。例え穢されてもフレンダを嫌いになるわけはないだろ!なんで死ぬんだよ。俺が愛してやるのに!生き返れよ!」


 しかしコウが泣き叫んでも、無情にもただただ時が過ぎるだけであった。

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