第18話  地理

 ギルドを後にし、真っ直ぐに宿に戻った。コウが宿の主から弁当を受け取っている間、フレンダが馬を馬車に繋げていた。準備が出来たので二人は馬車に乗り込んでフレンダの御者で進み始めた。そして問題なく町を離れる事が出来た。


 コウは馬車の中でフレンダから今いる所の地理について講義を受けていた。今いる国はウッダードと言う王国。この大陸は大小様々な国家から構成されており、今いるウッダード国は三大王国の一つであるのだと言う。


 そこから東の方に入ったところにオニール王国というのがあり、そこがフレンダが目指している国だというのだ。そしてこのオニール王国も三大王国のひとつである。


 またそこから北の方には中小の国家が乱立しており、南の方に中規模の国が5つ位有り、その先にティフブルー国と言う最大の国家が有るのだと。


 紙などに書かれている地図があれば分かり易いのだが、フレンダが持っていた地図は生憎馬車ごと燃えてしまい、今は無かった。今の所は今いる国とこれから向かう国とが分かっていればいいとフレンダに言われた。一般市民に至っては隣国の名さえ知らない者も多いのだそうだ。コウはフレンダの言質に従い、まずはこの2つの国の事を覚えるようにした。


 一気に詰め込んでも覚えるのが困難だろうとの配慮からであるが、実際は現代日本の大学受験を控えた高校生の知識はこの世界では賢者と呼ばれ、尊敬されるだけの賢さがある。ただ、フレンダはコウの事は今は一般市民の頭の出来程度と見た方が良いと思い、コウが賢い者であるならばいずれ判るであろうと考えていた。


 またコウはフレンダに御者のやり方を教わっていた。ずっとフレンダが一人で御者をやっていけるわけもなく、交代交代で御者をやる必要があるからだ。


 フレンダはその事を既に感じていたが、まだコウに対して罪悪感から御者をさせたくなかった。しかしコウはフレンダの態度からそうだと感じたのでお願いという名ではあるが、有無を言わせない感じで頼んだので、渋々フレンダは教える事にした。


 フレンダはわざとなのかそうではないのか、やたらとコウの体にボディータッチをしていた。フレンダの髪がコウの鼻先を掠めたり、フレンダの体が当たるたびにコウはドキリとしていた。


 改めてフレンダをよく見ると、宏海とはまた違った意味での女性としての魅力があり、幼さの中にも美女になるであろう片鱗が見えるのだ。そう、彼女の見た目や仕草は基本的に可愛いのだ。


 また、道中コウは時折フレンダに怒られていた。それはコウがフレンダを異性として見ていてボケっと見惚れていたからだ。


「ちょっとコウ?ひとの話をちゃんと聞いてるの?何をボケッとしてるのよ!」


 そんな感じでフレンダはコウを怒っていたが、次にコウの口から出た言葉にフレンダはコウにからかわれたと思った。


「ああ、フレンダって見た目は可愛いよなって見惚れてたんだよ。こんな子が彼女だったらなって。もうちょっと大人だったらモロ好みなんだよな」


「な、何をバカな事を言ってるのよ!からかわないでよ。何よ・・・人の気も知らないで。真面目にやりなさいよね。もう」


 コウは真面目に言っていたのだが、フレンダはからかわれていると思ってしまったのか、ぷいぷいと怒ってしまったが、そんな怒った顔も可愛かったりする。


 馬車を走らせ続ける事は出来ない為時折馬を休ませ、飼い葉や水を与えていた。


 途中コウはフレンダが妙にそわそわしているので聞いてみると、恥ずかしそうにおしっこを我慢していると言っていた。


「あのさ、確かに男の前でおしっこがしたいというのは恥ずかしいのは分かるけどさ、体に良くないから我慢なんかすんなよ。こういう旅の時って、どこで用を足すんだ?」


「うん、そのね、馬車を止めてその周りか、周辺の草むらに隠れてするの。外でお尻丸出しでやらなければならないから普通は仲間同士でお互い見張りをし、交代で用を足すの。用を足す小部屋がある馬車は燃えちゃったから。だから我慢しているの」


 問題はフレンダが女性で、コウが男であるという事である。


「我慢していたようだけど、何で我慢していたんだよ?」


「だって恥ずかしいじゃない」


 コウはため息をついた。


「事情わ分かった。馬車を道の脇に停め用を足そう。俺も小便がしたい」


 フレンダは漏らす直前になっており、漏らすよりはと意を決し、周りに誰もいない事を確認して馬車を道の脇に停めた。次に馬車を背にする形で用を足すべく、馬車の脇にコウが生活魔法で穴を掘っていく。


 その穴の上で用を足すようにし、コウはフレンダに背を向けて、周りを警戒する事にした。本来であれば女性同士で見張りをするので音が出たり臭いが出る事はあまり気にしないのだ。だがフレンダはぶつぶつとコウに訴えた。


「見たらいやよ。おしっこをしている所を見たら許さないんだから」


「俺は変態じゃないぞ!女性が用を足しているところを見て喜ぶような性癖の持ち主じゃないから心配するな。お互い様だし、音や匂い等は気にしないから。生理現象なんだからさ」


 コウがピシャリと言ったので、フレンダは諦めて用を足していた。最早一刻を争う位に切羽詰まっていたので真っ赤になりながらも用を足していた。用を足し終わり、出すものを出しホッとした後に終わったわと伝えた。コウは用を足す前に伝えたようにフレンダの手を取り、クリーン魔法を掛けた。 


 後ろ向きに手を伸ばし、その手をフレンダが触るという形だ。クリーンは対象に触れていないと発動しない為、対象に触れている必要があるからだ。そしてフレンダが下げていた下着を履いたり、スカートを元に戻したり整えていた。こういう時のトイレって大変だなあと思うコウであった。


 そこから更に先を進み、馬車を休ませるタイミングでお昼休憩とした。お昼休憩と言っても収納の中に入れてある宿で作って貰った弁当を食べるだけだ。


 弁当を出した時にある事実が分かった。それはコウの収納は時間停止があるという事だ。宿で渡された弁当は作りたてで温かいものであったが、宿で受け取った時の温度そのままだったから、時間停止をするのだろうと判断したのである。


 弁当は街道の脇の草むらに馬車を停めて食べていたが、ずっとつかづ離れず後ろから進んでいた騎馬の一団が通り過ぎていった。


 出発前の手続きの時から二人を舐め回すように見ていた連中だった。


 そんな中、その者達の一人がコウ達の所に来た。


「お嬢さん達、街道とはいえ女二人だけとは危ないよ?良かったら俺達と一緒に来ませんか?この先はそろそろ物騒な辺りですよ」


 フレンダは不機嫌そうな顔をしていた。


「心配して頂き有りがたいのですけれども、とうぞお構いなく。自分達の身くらい守れますわ。その辺の盗賊程度なら私達2人で問題有りませんわ。私は上級魔法を使えるから返り討ちに出来るし、彼女は弓の達人よ。私達はもう少し休み、馬の世話をしてからゆっくりと向かうので、お先にどうぞ」


 コウはそうでもなかったが、フレンダは警戒をしていた。


「そっか、残念だな。もし盗賊に追われたら全力で追い掛けて助けを求めなよ。じゃあなお嬢ちゃん達」


 フレンダは首を傾げていたが、その男は仲間に振られたよとか言ってから先に進んでいった。フレンダは警戒し過ぎたかしらと首を傾げていたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る