第17話  冒険者登録

 コウは少し考え事をしていたのもあり、フレンダに腕を組まれ半ば引っ張られていた。


 途中からは引っ張られて歩く振りをし、フレンダの胸に腕が当たっているので、その胸の感触を味わっていた。こいつ意外とでかいなと思いつつ、宏海とどちらがでかいかななどとしょうもない事を考えていた。


 そんな感じでコウは不埒な事を考えていたのだが、フレンダはまさかそんな事を考えているとは思わなかった。コウが難しい顔をして歩いているので、何か大事な事を考えているのだろうと話し掛けるのをやめていた。その為、時折こっちだよとかあっちだよとか呟きながらコウを引っ張り、道を進んでいた。フレンダが呟く度にコウは上の空で、アーとかそうかといったような返事をする感じでフレンダに引っ張られていった。


 程なくしてギルドが見えてきたのだが、宿の主が言っていた事の意味がようやく分かった。建物が小さかったのだ。周りの店に用のある者が周辺の馬車置き場に馬車を停めているものだから、知らずにコウ達が馬車でギルドに着いた頃には馬車を停めるスペースは皆埋まっているのだ。


 ギルドの建物が有る場所は、その辺にあるお店の一角といった感じだろうか。看板でそうと分かるのだが、恐る恐るではあるがその2階建ての寂れた感じの建物に入った。


 中に入ると受付に一人の女性が暇そうに待機しており、二人を見ると早速声を掛けてきた。


「いらっしゃいませ。ハルの町の冒険者ギルドにようこそおいでくださいました。今日はどのようなご用件でしょうか?」


 フレンダが受け答えをする事になった。


「私達二人の冒険者登録をして欲しいの。それと道中に討伐した盗賊と、亡くなった私達の仲間の報告に来たの。私達二人しか生き残れなかったの」


 そうですかと一言事務的に言いながら、所定の用紙にご記入くださいと用紙を渡してきた。だがコウはこの世界の字が書けないのでフレンダに書いて貰うようお願いをした。


 受付の女性はそんなコウを見て不思議そうな顔をしていたが、コウの美人っぷりに感心していた。


 名前と年齢等も書くのだが、用紙を書き終わったのを見計らい受付の女性が次の指示をしていた。


「それではライフカードを出してください」


 フレンダがあの盗賊や死んだ者達から回収したのと同じようなカードをどこからともなくさくっと出したのを見て、コウは困ってしまった。


「あ、あのう、ライフカードという物は持っていないのですが」


 受付の女性はコウの声を聞くと驚いた顔をしていた。そう、太い男性のような声がしてきたからだ。どう見ても女性にしか見えないのだが、男性のような声がしたので、見た目と違い、声の低い女性だなと驚いていた。


 それとは別に、ライフカードが無いと告げられたので残念そうな顔をしていた。


「そうですか。それは残念ですね。でも貴女の方はこちらのオーブに手を翳してください。そうですね、貴女は何か できるのですか?魔法が使えない方となると、男性は別ですが、何かしら戦闘が可能な方でなければ冒険者登録を認める訳には参りません」


 フレンダは言われるがままに直径10cm程の透明なオーブに手を翳した。すると今まで無色透明だったオーブが水色に光り出した。コウは何やらそこに文字が浮かび上がっていたような気がするが、残念ながら読めなかった。


「す、凄いです!これだけの魔力量をお持ちの方とお会いするのは久々ですわ。宮廷魔術師と肩を並べる程の魔力の持ち主なのですね。一応貴女の方もお願いします。ライフ カードが無いという事は魔力が無い事を意味しますが、規則ですので本当に無いという事を確認します」


 コウは訳が分からずオーブに手を翳したが、受付の女性がフレンダの魔力値を記録していたようで目を離していた。コウが手を翳すと一瞬だけ光り、ピシッという鈍い音というか、小さい衝撃を手に感じた。だがしかし、受付の女性は気が付かずオーブの中心が濁っている事に気が付かなかった。


「反応がありませんから、やはり魔力の無い方ですね。それではこのカードをお持ちください。魔力の無い方でも魔石や仲間の方からの魔力を注入すればカードの出し入れができます。ライフカードが無ければ冒険者登録ができませんので。但し、貴女が何が出来るのかを見させて頂いてからです」


 コウは弓矢を装着していたので、そのままギルドの裏庭に行き、まずはそこにある的に向けて矢を射るようにと言われ、矢を番えた直後に放ち、さくっと的の中心に当てた。

 距離がそれなりにあり、普通は数本放ち漸く当たるような距離だが、3本を矢継ぎ早に放って見事に中心に当たったものだから驚いていた。


「凄いですね!」


 フレンダは受付の女性の驚きぶりを見て、ドヤ顔をしながら自慢気に言い放った。


「コウはね弓の名人なのよ。弓のスキルは上級を持っているの。これでダメかしら?」


「いえ。これだけの弓の技量があれば冒険者登録するのに問題はありません。寧ろ上級冒険者と比べても引けを取らないでしょう。それでは血を1滴垂らしてください」


 そう言われたので指先を渡されたナイフで軽く切り 、血を垂らした。


 そこに受付の女性が魔力を込めていた。コウ様でよろしかったでしょうか?お名前を確認してください。そういうのでコウはカードを受け取り、フレンダに見せた。


 フレンダはカードを見て頷いていた。コウは恐る恐るとだが、フレンダがしたようにカードを体に押し付けると、体の中にすっと入っていった。


 受付の女性は満足した。そして渡された盗賊のカードや亡くなった方のカードを受け取り、奥にいた別の職員に渡して後方で処理をする事になった。


 その間に受付の女性からあれやこれやと説明を受けていたが、冒険者というのは、ただ冒険者である。小説とかではよくある冒険者も上級職とか一般職だとか何かしらの職業、そう戦士だとかプリーストだとか、そういうのが無い   との事だ。一般的に戦士、騎士、魔法使い等が有るが、ギルドとしては細分化していなかった。プリースト、つまり回復系は居ないとの事。回復役は無く、各自が持参しているポーションにて回復するのだという。


 暫く待つと手続きが終わった。盗賊達は賞金首ではなく、盗賊歴も浅かった。その為ただの犯罪者となり、討伐報酬も一人頭金貨1枚と最低限の報酬しか貰えなかった。


 盗賊達が集めていたお金の方は金貨120枚程になっていたが、フレンダは項垂れていた。装備を充実させるのに十分なお金を得られるものだと思っていたのだが、これでは必要最小限の物しか買えないのだ。それでも当面の生活費としては十分なお金を得られており、二人はお金を受け取ってからは直ぐにギルドを後にし、宿に戻るって行くのであった。

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