第11話  二人旅の行き先

 この先の事に対する話をする前に、今は目の前の惨状に向き合わねばならなかった。


 フレンダと話し合い、盗賊の死体はこの場に放置せざるを得ないが、盗賊ではない者の死体については生活魔法で穴を掘って埋葬する事にした。死者を運んで町まで行くのは無理と判断した為だ。町に助けを求めに行き、人を連れて戻ってきた頃には魔物や獣に食われているのが関の山というので助けを求めに行く事は選択肢から外れる事になった。


 獣の餌にされるよりは、今この場で埋葬するのが死者に対して今できる最大の敬意だという。また燃やすのは周りの状況から飛び火し、災害を発生させる恐れが強いからできなかったのだ。


 コウは穴を掘る前にフレンダに自分の事を伝えた。信じられないかもと断りを入れ、自分は異世界から聖女として召喚され、男と言うだけで処刑する為に強い魔物の生息地であるヒューランドという山の山頂付近に単独で放逐されたと。


 何故かあっさりと受け入れられ、常識が違うんだよねとさえ言われたので拍子抜けしていた。ただ、それを伝えた後のフレンダの悲しそうな顔が印象的でドキリとした。


 元々聖女召喚がなされ、聖女のお供になる為に国元から来ていたが、召喚が失敗したと聞かされ、帰るところだったが馬車が故障し、やむなく野営したところを襲われたと言う。


 詳しくはおいおい話すが、ある意味目的の人物の仲間に収まったのだという。

 本来、勇者の従者になる家系だそうだが、何故か聖女の従者になってこいと送り出されたのだそうだ。


 不思議な子だった。手は綺麗なので、市井の民ではない筈なのだが、コウには分からない。


 地が出ている時もあるが、基本的に喋り方や仕草は上品そのものだから、良い所のお嬢様位に思っていた。


 コウはテントの中で殺された二人は実の兄弟ではないのだろうと感じていた。何か理由が有るのだろうが、死んだ者が兄と姉と偽り正体を隠しているのだろうと半ば確信していた。確かに大切な人では有るのだろうが、大切な人と一度言ったのと、親族が死んだにしてはあまり取り乱していない事に違和感を覚えた。本調子ならば声のトーンだとかで瞬時に嘘と分かった筈だった。


 埋葬をするに当たり、周りへの警戒をしつつコウは穴を掘り始めた。


 フレンダはというと、盗賊を見て回って全員が死んでいるという事を確認し、何やらカードを持ってきた。ライフカードと言いこの世界のものであれば生まれつき全員が持っているとの事だった。


 盗賊の死体についての扱いについて聞いたが、余程の事がない限り基本的に野ざらしだそうだ。

 回収したライフカードでどの盗賊が死んだのかや、盗賊の討伐が証明されるそうだ。盗賊は見せしめに野ざらしにし、獣や魔物に食われるのが相応の報いだと言う。


 フレンダが盗賊の死体を漁り、金目の物等を回収し始めたのを見た為、コウはそれは自分かやるから、それよりも使える馬車が有ればそれで移動したいから、死体を確認する代わりとして馬車の確認と出発の準備をお願いした。美少女にそんな事をさせたくはなかったのだ。それと最優先事項として貴重な矢を全て回収していった。


 盗賊と戦った時は夜明け前の薄明かりだったのだが、埋葬が終わった頃には完全に朝日が登っており、普通の者の活動時間に差し掛かっていた。


 死者に対して最後の手向けの言葉を掛け、フレンダは形見の品を握りしめその場を離れる事にした。


 結局馬車の故障自体は修理が終わっており、フレンダの御者で先に進む事にし、馬を繋げるなど準備をしてもらった。


 フレンダは盗賊は騎馬で襲ってきたと言う。盗賊が乗っていた馬は基本的に開放した。


 出発直前にコウは早速フレンダにカマをかける事にした。


「なあフレンダ。あの二人は君のお目付け役なんだろう?でも仲の良い方達だったんだろ?」


「ええそうなのよ。私がちゃんと異世界人の仲間になれるまでの護衛を兼ねた兄弟子と姉弟子なの。異世界人の年齢と一番近いのが私だったの。あっ!」


 フレンダは答えてしまってから失言に気が付いた。


 あっと唸ったのを聞いたコウは何か複雑な理由が有るのだろうと確信し、更にフレンダに聞いた。


「やっぱりそうか。兄弟姉妹じゃないのだろうと思ったんだよな。まあどういう事情があるかはフレンダが俺に話してくれるまではあえて聞かないよ。聞かれたくなかったり、言いたくない事もお互いにあるだろうからさ。フレンダはどんな魔法が使えるの?」


 コウは敢えて話題を無理に変えた。早い段階で確認したい内容ではあったが、今はフレンダの身の上話は必要なく、お互いの能力をきちんと知る必要があると感じたのだ。


「私は水魔法が使えるの。あの二人は火と土だったの」


 コウは解せなかった。魔法、それも攻撃できる魔法があれば盗賊になんぞに遅れを取らないのではと。


「言っちゃなんだが魔法を使える者って盗賊ぐらい難なく倒す事が出来るんじゃないの?」


「本来はその筈なのですが、見張りが先に倒されたようで、私が騒ぎを聞きつけた時にはもう遅かったの。二人が刺されていて、なおかつ高価な魔法を封じる結界を張られてしまったの。私達魔法を攻撃手段とする者にとっては致命的なのよ。私はなんとか逃げて隠れていましたが、見付かるのは時間の問題だったの。隠れ潜んでいた所に目の前まで盗賊が迫っていて、最早これまでと思ったら、どこからともなく飛んできた矢で倒れていました。コウ様はどうやってあの人数を倒されたのですか?」


 コウは近くの石に向けて見ててと言い実演した。サッカーボールより一回り位大きく、一人で持ち上げるのは難しい大きさの石というか岩を選んだ。そこに魔力弾を放ち、石を粉砕したのだ。


 それと回収した矢と弓を見せた。


「どうやら魔力弾は魔法を封じる結界や道具の影響が出ないようだね。それと弓は元々やっていて、必中のスキルがあるんだ。約2秒のタメ時間があるけど、矢が届く範囲なら狙った所に必ず当たるんだ。魔力弾は発射した残滓が残るから、最初は草むらから矢で倒していたんだ」


 フレンダは分かりましたと返事はしていたが、首をかしげていた。そう聖女にはそもそも攻撃する手段は手に持った武器ぐらいしかないと聞いているからだ。攻撃に使える魔法は精々着火に使うファイアに大量の魔力を送り込んで、火炎放射器のように使う位しか聞いた事がない。それも魔力消費の関係から、数秒で魔力が枯渇するから、最終手段だとの認識だ。スキルなどで攻撃をする手段があるという事も聞いた事がないのだ。 


 ただ、コウがヒールを使っていた事、その力は聖女のみに与えられていると聞いているし、実際回復魔法を使える者が皆無なのだ。コウが嘘をついているとはフレンダにはとてもじゃないが思えなかったが、それでも本来の聖女の姿とはかけ離れている。

 確かに女装が似合いそうではあるが、純粋な肉体的な性別は男だと理解した。



 そもそも聖女として男が召喚された事自体が異常なのだ。フレンダの中でコウが聖女として召喚されてしまった男だという認識が既に有ったのだ。


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