第12話  男の娘にされる

 馬車が進み出し、程なくしてコウはうとうとし始めた。車輪が石か何かを踏んだ時の振動でハッとなり、コウは意識を取り戻したのだが、フレンダが心配していた。


「コウ様大丈夫ですか?どうかなされたのですか?」


「すまない。夜通し歩いたり走ったりして魔物と戦っていたというか、逃げ惑っていたから眠くて仕方がないんだ。とりあえず行くあてもないし、フレンダが行こうとしている国に俺も一緒に向かう事で良かったよね?悪いけど頭がまともに働かないから、暫く寝かせてもらうとありがたいな」



「これは失礼しました。そうですよね。よくあそこから生きて出られましたね。ただ良いのですか?私の事を簡単に信用してしまって。ひょっとしたらコウ様の身ぐるみを剥いでどこかに放り出すのかも分かりませんわよ?」


 コウはフレンダの顔をまじまじと見た。


「そ、そんなに熱烈に見詰められると照れますわ」


 そんな事を言っていた。


「その目を見れば分かるよ。君の目は澄んだ綺麗な目をしている。こんな目をした人がそんな事をする筈はないよ。それに俺に対して何かする気が有るのだったら、さっき気絶している間に喉を掻き切る事もできただろうに。だから君を信用し、今は君に縋るしかないんだ。俺は見知らぬ世界に来て右も左も分からぬままいきなり放逐されたんだ。だからこの国の名前すら分からないんだ」


「分かりましたわ。ただ、何かありましたらすぐに起こしますので、その時は宜しくお願いします。今は街道を進んでいますし、この時間はもう大丈夫だと思います。お休み下さい」  


 そうしてフレンダに命を預けてコウは眠る事にしたのだ。



 コウは目覚めた時に何かおかしいと違和感を感じた。今見えたのは見知らぬ天井で、コウが寝ている布団に何者かが突っ伏していたからだ。


 微妙な所に頭があるので刺激があり、男として反応してしまった。

 フレンダがそれに気が付き、真っ赤になりながら布団から離れた。


「な、な、何で股関を膨らませているのよ?私を襲う気なのね?このケダモノ!」


「ば、馬鹿言うな!恩人を襲わないよ!ってごめん。その、男の生理現象で、寝起きはこうなるんだ。それよりなんで俺はベッドで寝ているんだ?」


 フレンダはわざとらしく自分の体を抱きしめるようにしてコウから離れたが、また近付いて来た。


「ふふふ冗談よ。真に受けて慌てたコウ様も素敵!って体は大丈夫なの?あんたをいくら起こそうとしても起きなくて、仕方がないから町に着いてからそのまま宿に来たのよ。宿の方に手伝って貰って、何とかベッドに寝かせたんだから有り難く思いなさいよね。このうすらでかい唐変木」


 フレンダの喋り方が明らかに違っていた。最初は丁寧だったが、気を許したのかどうやら本来の喋り方になっているようだった。


「へー。そんな喋り方をするんだ。」


「あっ!やっちゃった。そうよ、これが普段の私なの。ふん!文句があるなら聞くわよ」


「いや、その喋り方の方が似合うなってさ。ツンデレって俺は結構好きだぞ」


「何よそのツンデレって?それよりもあんたが起きたのなら、ちょっと手を洗いに行ってくるわ」


「トイレか?」


 フレンダは真っ赤になりながら否定した


「違うもん。全くそんななりなのにデリカシーが無いわね。私トイレになんて行かないもん」


「何か一昔前のアイドルみたいな事を言うんだな。まあいいや。それよりもさっきまでコウ様と言っていたのが何故あんたと言われるのかが気になるが、俺なんかした?それと出来ればコウって呼んでよ」


「わっ、分かったわよ。その、あんたじゃなくてコウが男って分かったから、その、残念だから」


 コウは首をひねった。


「いかんいかん、俺もトイレに行きたくなったから一緒に行こうぜ。と言うか、悪いが場所が分からないからトイレまで連れて行ってくれ」


「だから私はトイレになんていかないもん!」


「はいはい手を洗うだけなんだろ?分かったから、トイレに案内してくれ」


「案内するだけだからね!」


 そうして不満げなフレンダとトイレに行き、用を足した後部屋に戻り始める時に、コウは早速フレンダの肩を軽く掴んでさくっとクリーンを使った。


「あっ、有難う。やっぱりそれって凄いわね。私もトイレに行く度にお願いしようかしら。それとね、お肌に少し張りが出た気がするの」


「お前はトイレになんか行かないんじゃなかったのか?」


「あう!コウのいぢわる!」


 フレンダがポカポカとコウの胸を叩いた。


 少し元気になったフレンダを見てコウは和ごんでいた。大切な仲間が死んだからか、別の理由か分からないが、気が滅入っているのが分かっていたからだ。


 部屋に戻ったので話しの続きをする事となったが、トイレから戻るなりコウは怒っていた。


「それよりなんだよこの格好は?スカートじゃないか!さっきからなんか歩きにくいと思ったんだよな」


「私の好みだから着せたの。じゃなくて、今後の事を考えるに、コウが生きていると分かると城が追手を差し向けて来ると思うの。だからね、その、コウは嫌かもだけど、女装して女の振りをするのが良いと思うの。探すのは高身長の男性よ。女の二人連れなんてまず探さないわよ。それに似合ってるわ。素敵!」


「た、確かに一理有るが、本当に女装して旅をしないと駄目なのか?かなり恥ずかしいぞ。それに今のこの格好もかなり恥ずかしいんだからな!」


「コウ、よく考えるのよ。もしも次に捕まったらもうどうしょうもないわよ。それにとてもしっくり来るの。ああ!お姉様と呼ばせて下さいませ!」


 フレンダは取って付けたような理由を付け、コウを女装させたかったのだ。男としてのコウの時はツンデレで、女性チックなコウには礼儀正しい。また、フレンダは城が本当に追手を差し向けてくるとは思ってはいなかったのだが、それはコウを女装させ、着飾らせたいという欲望からのでまかせだった。


 コウは捕まるのが恐ろしかった。またあのような危険な所に放逐されたら今度も生き残れるか分からないのだ。その為渋々だがフレンダの意見を受け入れた。だが決して女性を装うのは本意ではないと納得させたが、フレンダはその返事に満足し、次の話に切り替えた


「それよりもコウ、殺した盗賊のカードを出して!」


 コウは言われるがままにカードを出したが、急に震え出してフレンダに抱きついた。その柔らかな胸に顔を埋めて震えながら涙を流していた。



「ちょっ!ちょっと何よ!何勝手に抱き付いているのよ。あんたは美形だからちょっと嬉しいかもじゃなくて、胸に顔が当たってるじゃなくて、ぐりぐりしないで!胸に変な息を掛けないで!ああん!この変態!」


 しかしフレンダは異変を感じた。明らかにコウの様子がおかしかったのだ。


「どうしよう?人を殺しちゃった!どうしよう」


 コウが嗚咽混じりだったからだ。フレンダはハッとなり、一度引き離した頭を自らの胸に抱き寄せて頭を撫でた。


「ごめんね。気が付かなかった。私の為に人を殺してくれたんだもんね。大丈夫よ。暫く胸を貸すから落ち着くのよ。美少女の胸で泣かせて貰えるなんて有り難く思うのよ!エッチな事をしたら許さないからね!」


 最後が余分だったが、5分程でコウは立ち直った。


「有難う。その、フレンダの胸って思ったより大きいんだね。落ち着いたよ。柔らかく心地良かったよ」


 フレンダはあう!とかえっ?と唸っていたが、敢えて堂々としていた。



 そしてフレンダがコウにおねだりをしていた。


「ねーねぇ、コウ様!そのね、あのね、フレンダお願いがあるの」


「なんだよ?急にしおらしくなって。嫌な予感しかしないけど、まあ聞くだけは聞いてやるよ。聞くだけならな」


 「あのねそのねお化粧させてください」


 コウは引きつった笑顔を見せていた。しかしフレンダがもじもじしながらお願いをしているその様があまりにも可愛くて、一回だけだからなと、おねだりに負けてついうんと言ってしまったのだ。


 フレンダはコウに抱きつき、コウ様大好きと言っていたのであった。


 断れなかった理由は他にもある。フレンダに言われた事だ。


「あんたさっき泣いていたわよね?しかも私の胸にぐりぐりしながら!私ね、男の人に胸をあんな事をされさたの初めてなの!恥ずかしかったんだからね!責任を取ってよね」

 

 そんな事をピシャリと言われたからであった。

    

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