第10話  フレンダと男の娘?

 弘美は意識を取り戻したのだが、何やら温かくて心地よい感触が頭に有った。目を開くと美少女の顔が見えた。


 当然だが相手からは敵意は感じられず、起き抜けに質問をした。



「ここはどこ?それと君は誰で、俺は何故膝枕をされているの?流石にこんな美少女に膝枕をされているなんて、ちょっと状況が理解出来ないんだよね。ひょっとして俺は記憶が混乱していて、実は俺と君はそういう事をするような間柄だったりするの?」


 そう言うとその少女はえっ?という顔をした。


「あのう、女の人ではないのですか?確かに声からすると男の方のようですが?それと貴女様とは初対面です。」


「うい?言ってる意味が今いち分からないけど、見ての通り俺はれっきとした男だぞ?ところで君の名前は何て言うんだい?名前を教えて貰えるなら教えてくれるかな?」


「あっ!失礼しました。私フレンダよ。じゃなくてフレンダと申します。あのう、私を助けて頂きありがとうございます。あのままだと犯され殺されていたと思うの。その、兄様と姉様を弔おうとしてくださっていたのに、私とんでもない事をしてしまいました。何でもしますからお許しください」


「俺にフレンダが何をしたって?俺に分かるのは、今こうやって俺を介抱してくれているという事だよ。多分俺は気絶したんだよね?段々思い出してきたよ。確か刺さった矢とナイフを抜いてくれたよね。俺の方こそありがとうと言わなきゃだよ。それにフレンダのような美少女が何でもしますって言うもんじゃないよ。俺がエッチな事を要求したらどうするの?自分を大事にしなよ」


「ごめんなさい。私がナイフで刺してしまったのです。それに、私って恩人に対してそれだけの事をしてしまったのよ。覚悟して言ったの。先程貴女様に刺さっていた矢とナイフを言われた通りに抜いたのですが、痛みからなのか、治療のせいなのか、20分程意識を失くされていたのですわ」


「俺が強引に肩を引っ張って後ろに突き飛ばしたから、その時に事故で刺さったのだろ?フレンダが刺したんじゃなくて、あれはあくまでも事故だと思うぞ。だから気にするなよ。それよりもこれからどうするとか考えないとな。そうだな、エッチな事を要求するのも魅力的だけど、俺がこの世界で生きる為、いや、生き残る為の目処が立つまでの助っ人をお願いしたいな。つまり、仲間になって欲しいんだ」


 彼女は涙を浮かべながら頷いていた。弘美はフレンダが刺したのではなく、事故だとしたから安堵から涙したのだと思ったが、実際は言ってしまった手前もあるが、弘美がエッチな事を要求しないと分かり、安堵からの涙だった。本気で恩人の要求を必ず飲まねばならないと、日頃から自らに課しているのだが、それは己の信じる教えが説く教義にある事で、それに対する自ら課した誓約だったからでもある。


「すまない。俺がもう少し早くここに来ていれば救えたのかもわからない。助けられなくてごめんな」


 そして弘美は本名をもじり、コウだと名乗った。

 本名はこの名とは別にあるが、二度と会えない想い人と名前が同じで、想い人の顔が思い浮かんでしまうから辛いからと、これからはコウと名乗るとしたのだと。


 コウは思った。よく見たらフレンダは血で汚れてしまっている。掠り傷は別として怪我はなさそうだが、なんとか血を取ってあげたいと思った。自分を介抱してくれている時に血が乾いてしまったようで、手にこびりついているようだったからだ。ふと思う所があり、フレンダに時間をくれと頼んだ。


「2分、長くても5分時間をくれるかな?ちょっとステータスを見るから。まだ確認していないスキルとかがあるかも?だから」


 コウがフレンダに時間をと言ったが、フレンダは不思議そうな顔をして首を傾ていた。


「はい、私が周りを見ています。何をされるのかよく分かりませんが、何かあったら体を揺すりますので、どうぞなされたい事があればなさってください」


 早速フレンダに身の安全を託し確認を始めた。山を彷徨っている時に生活魔法があるというのだけは分かっていたが、どんな魔法が使えるのか等を見る時間がなかった。


だが小説とかでよくあるやつかなと思いつつ、詳細の確認を今になってようやくしたのだ。そう水が出せたり、着火の為のファイヤー、穴を掘れたりする事ができそうだった。そして目的の項目があった 。クリーン魔法があったのだ。クリーン魔法が有る事を見た段階でそれ以上は確認せず、後で落ち着いたら詳しく確認する事にした。


 コウはクリーン魔法があるのが分かったので早速使う事にした。


「えっと、どうやら俺にはクリーン魔法が使えるようなので、ちょっと失礼するよ」


 そういいフレンダの小さく可憐な手を取り、クリーンと唱えた。勿論コウ自身にも掛けたが、クリーンと唱えるとみるみるうちにフレンダの汚れが取れていく。


 そしてすぐ横に横たわっている二名の死体の額に手をかざし、クリーンと唱えた。そうすると死体とは言え綺麗になっていくのが分かった。


 フレンダは自分を綺麗にして貰った事よりも、躯を晒している自分の大切な仲間を綺麗にして貰った事を喜んでいた。


「ありがとうございます。これでこの二人もうかばれます。でもやはり本当に男子なのですか?先程の回復魔法といい、今の魔法といい、これは伝説に聞く聖女様が持つ力だとしか思えないのですけれども。実は男子の振りをした女性という事はないのですか?男装の麗人とか?」


「いや俺は本当に男だって」


「そうですか。それでは女装の好きな男性という事ですか?」


 フレンダは訳の分からない事を言っていた。


「いや、俺はいたってノーマルだぞ。女装癖もなければ、衆道の気もないぞ!俺は女性が好きな普通の男子なんだけど!」


 フレンダはジト目をした。

 

「そうなのですか?あのですね、どう見てもその姿は女性としか思えないですよ?」


 フレンダは失礼しますと告げ、コウの頭に手をやった。そして髪の毛を手のひらに乗せた。


 今までま違和感はなかったのだが、今改めてそうやられると己の髪が長い事に気が付いた。腰までの見事なロングヘアになっている。


「素敵な御御髪ですわ!羨ましいです!」


 フレンダはうっとりとコウの髪を見ていた。


 コウは収納にある筈の物を探った。すると己の持ち物の中に小さな手鏡がある。年頃の男子の為時折身なりをチェックしていたのではなく、エチケットブラシと一体になった折りたたみの鏡を親から渡され持っていたのだ。服についた糸くずとかを病的に嫌い、母親に無理矢理渡されており、普段は帰宅する直前に宏海に全身ブラッシングして貰っていた。母親が心を病んでおり、宏海に助けられていた。元々の持ち物は全て収納に入っているという事が分かっていた。ジャージのポケットに入っていたのだ。


 徐に収納から鏡を出したものだからフレンダは驚いていた。そしてコウは自分の見た目と言うか、髪が女性の髪型にしか見えなくて愕然としていた。コウ自身はそれなりに整った顔立ちをしている。なので化粧をし、長いウィッグを付けてロングヘアにすれば女性の振りができなくはない。


 コウは己の髪があり得ない長さになっている事に唖然とし、まじかよ!と小声で唸っていた。


 そしてさらに言われた言葉に衝撃と悲しみを覚えた。


「ひょっとしてコウ様は男の娘という事はないですよね?」


 コウは必死になって首を振った。


「さっきも言ったろ?俺はごくごく普通の男で、女装癖もなければ衆道の気もないからな。君のような綺麗な女の子は好きだけどさ」


 そう言うとフレンダがぽかんとしていた。


「そうですか。女性の格好が似合いそうなのですけれども残念ですわ」


 そんな感じでフレンダはコウが女装するのを期待していた。それはともかくとして、この後どうするかという話に移っていったのであった。

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