第9話 最低男

「おいっ! 聞こえないのか! アイラ!」


 男が叫びながら近付いて来る。その前にリクが立ちはだかった。


「アイラに何の用だ?」


「なんだ貴様は!? どけっ! 俺はアイラに用があるんだ!」


「どけないな。アイラが怖がってる。用なら俺が聞こう」


「貴様ぁ! なんのつもりだ!? 貴様はアイラの何なんだ!?」


「アイラは俺の友達だ。友達を害そうとするヤツを近付けさせる訳にはいかないな」


「友達だとぉ~!?」


 リクが相手をしている間にクウがこそっと聞いて来た。


「ねぇ、なんなのあの男?」


「え~とね...」


 私は取り急ぎクウに説明した。騒いでる男の名はバート。ランカスタ伯爵家の次男坊で私に婚約を申し込んで来た男。とにかく女癖が悪いことが有名な輩で、いい女と見るや片っ端から粉を掛けまくるという最低な野郎。


 そんな評判の悪い男にまともな家は相手をするはずがなく、家格が上もしくは同格の家柄の令嬢達には見向きもされなかった。このままだと結婚することも出来ないと焦ったこの男は、家格の低い家柄にターゲットを変更した。


 運悪く我が家が目を付けられてしまい、私との婚約を打診されてしまった。ウチより格上の伯爵家だから、きっと断られることは無いと高を括っていたんだろう。


 だがウチの両親は断った。貧乏だが私には甘い両親は、みすみす私が不幸になるのが目に見えている婚約を良しとしなかったのだ。


 そこからが大変だった...まさか断られるとは夢にも思ってなかったこの男は勝手に激怒した。そして私の悪い噂を流し始めたのだ。


 曰く私がこの男に一目惚れして婚約を迫って来た、曰く身の程を知れと突き放したら私が泣いて縋って来た、などなど。完全に私を悪役に仕立てたクソ野郎なのである。


 風の噂では最近、どこぞの高位貴族の令嬢に入れ上げていると聞いたが、今更私に何の用だろうか。


「なによそれ! 最低な野郎じゃないの!」


 私の話を聞いたクウが怒り心頭だ。こんな時だけど、私のために怒ってくれる友達が居るっていうことがとっても嬉しい。今まで友達なんか一人も居なかったからね...


 友達に勇気を貰った私は、最低男と向き合う覚悟を決めた。何の用があるのか分からないけど、いい加減腐れ縁を切りたいしね。


「リク、ありがとう。もういいよ」


 私は未だにバートと向き合っているリクの背中を叩いてそう言った。


「大丈夫か?」


「うん、もう平気。それでバート様、私に何の用ですか?」


「やっと出て来たか! 喜べアイラ! お前と婚約してやる!」


「はぁっ!? 嫌ですよ。あなたなんか死んでもお断りです!」


「なっ!? き、貴様ぁ! 俺に惚れてるって」 

 

「そんな事実は一切ありません! 私言いましたよね? 何度も何度も何度も何度も! あなたと婚約なんかしないって! バカなんですか? 人の言葉が通じないんですか? 猿なんですか? 私にフラれた腹いせにあること無いこと噂しまくるってなんですかそれ! 逆恨みもいいとこじゃないですか! 本当に最低な人ですね! そんなんだから誰にも相手にされないんですよ!」


 私はここぞとばかりに溜まっていたものを全部吐き出した。


 あ~! スッキリした~♪

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空と陸に愛されて 真理亜 @maria-mina

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