第十話:一か八か
一通り、トランスさん達にも伝えていい情報だけを共有し、ダラム王の指示でトランスさんとジャルさんが先に部屋から出た後。俺はダラム王と二人で向かい合った。
「さて。余と話したいという事は、調査の結果という話で良いか?」
「はい。朗報というわけではありませんが……」
俺は少しだけ言葉を濁しつつ、何処まで話すかを改めて整理した。
俺は信頼されている。それは理解しているし、俺もダラム王を信頼している。
だが、だからこそ、話すべき事とそうでない事をきっちりすべきだからだ。全てを話す事が良いとは限らないからな。
「という事は、やはり四霊神など存在はしなかったという事か?」
「いえ。四霊神は存在しました」
「何!?」
流石にダラム王が驚くのにも少し慣れた。
だから俺は苦笑だけ向けた後、真剣な顔に戻って話を続けた。
「王が仰っていた通り、俺に興味を示して、魔誕の地下迷宮で出会いました。ただ、やはり
「……その言葉、お主から見て信用足るか?」
ダラム王の凛とした雰囲気に、俺は小さくため息を漏らす。まあ、信じてもらうしかないし、信じてもらえないような話もしないといけないからな。
「……俺としては、信用できると思ってます。ただ、これからする話を聞くと、ダラム王は信じきれなくなるかもしれません」
「……どういう事だ?」
その言葉に眉をぴくりと動かすダラム王に、俺は覚悟を決め、事情を話し出した。
「今、俺は四霊神に与えられた試練があって行動していますが、そのきっかけは、シャリア様と従者のアンナが、
「何だと!?」
「……とはいえ、きっかけはシャリア様です。
「その内容は?」
「行方不明事件を解明する事」
俺は嘘偽りない真剣な眼差しで、ダラム王を見た。
勿論そこには嘘が混じっている。
助ける為の試練だけど、それが
だけど、この事件を解決すればパーティーに加われるのも、この試練を達すれば二人を助けられるのもまた事実。だから俺は迷いなく嘘偽りない顔ができたんだ。未来は繋がってるからな。
その真剣さが王にも伝わったんだろう。
彼は、腹立たしさと悔しさを顔に出す。
「そうだったか。済まぬ。余がこんな事を頼まなければ、シャリア殿は巻き込まれる事など……」
「いえ。俺が一人で行けばいいものを、彼女達が付いていくと譲らなかったのを断れなかったのが原因です。気にしないでください」
「そうはいかぬ。だが……そこまで言い切る相手であれば、四霊神は白か?」
「俺はそう思ってます。だからこそ、先程あのような願いを申し出ました。二人を助ける可能性が潰えぬように」
「……そうか。その覚悟に感謝する。だが、余にも責任はある。この事件、
「お断りします」
……きっと言うと思ったよ。
何気に熱いからな、この王様も。
「あなたは国王です。国民の信頼を失うような真似はすべきじゃありません」
「だが、現にシャリア殿は──」
「全てとは言いませんが、原因は彼女にもあります。それに、俺は二人を助け出すのを諦めてませんから。本当に手詰まりになれば、最悪色々と無理に動いて頂く事になるかもしれません。だけどそれまでは、ダラム王は優しき王であってください。あの時不敬を働いた俺を、
ったく。
俺の言葉に唖然としすぎだろ。
ダラム王。目の前にいるのは確かに
内心そんな気持ちで苦笑しそうになるのを抑え、俺は自然に笑みを見せる。
ま。国を護るってのはそういう事だからな。
マーガレスもまた、ロミナの為に動けず苦しんでたけど、それも込みで国民を背負うのが王様だろ?
本分を忘れてもらっちゃ困るんだよ。
とはいえ、こういう王様が上にいるならきっと、皆も安心だろうけどな。
§ § § § §
王と謁見から二日。俺はひとり、調べられる範囲の情報を追加で集め、整理しつつ朗報を待った。
俺がダラム王達に頼んだこと。
それは魔導学園校長ヴァーサスに面会する機会を得ることだ。しかもただの冒険者としてではなく、王直々の調査団として。
とはいっても、これも表向き。この調査団の存在を知るのは王、トランスさん、ジャルさんだけだ。
今までも勿論、『行方不明者捜索クエスト』に参加した冒険者が、ヴァーサスに対しても色々事情聴取はしていた。その記録はギルドから前から貰っている。
だけど、元となった採集クエストについては情報不足だったから、この件に関係するからという理由で詳細な情報をギルドから受け取った。
確かに依頼主はヴァーサス扱いだったけど、それは学校の事情もあったからこそ名を貸しただけで、実際には担当の教員がクエストを貼り出したこと。
その際に誤って協力クエストにし忘れた事。
冒険者へ依頼したのは、当時
この辺りは意外にも、しっかりと整合性が取れていた。
在庫が焼き尽くされて
流石に市販用の薬草の在庫まで売り切るわけにもいかないしな。
その辺りはしっかり辻褄があっていたし、もし不正があったとしても、ここまで隠し通せてるなら、それはよっぽどうまく手を回しているはずだ。
一応先日キュリアに周囲を調べてもらった時に、あの森は「ヤバくない」と言っていた。つまり、行方不明事件とは違う外的要因で行方不明になった可能性は低いはず。
とはいえ、しっかり状況証拠もあるならヴァーサスは白。そう言えなくもないんだけど。
俺は先日の王との謁見の前から、ひとつ確認したい事ができていたんだ。
だからこその調査団。
一介の冒険者じゃプレッシャーを掛けきれないからな。
真実しかなければそれで良し。
だけど少しでもほつれがあれば、そこからなんとか糸口を掴む。
人の命がかかる事件。
本当はいけないのかもしれないけど。
こういう所が何処かゲーム攻略みたいだな、なんて思ってしまったのは内緒だ。
朗報が届いたのはその日の夜。
トランスさんがわざわざ宿まで来てくれて、俺に無事面会を取りつけた事を伝えてくれた。
§ § § § §
翌日。
俺とトランスさんは、二人で魔導学園に向かう馬車の中にいた。
天気は何処かすっきりとしない曇り空。ゆっくりと流れる街並みを、俺は窓からぼんやりと眺めている。
「カズト。お前は何を考えてる?」
と。トランスさんの声に顔を向けると、彼は俺に真剣な顔を向けてきた。
「それは内緒です。ただ、付いてくるのでしたら、色々と覚悟してください」
「ほう。俺を煽るのか。知ってるか? 冒険者ってのは、知りたい謎を追い続けるもんだ。悪いけど、何が何でも付いていくからな」
「シャリアさんにも突っ込みましたけど、トランスさんもはもう、冒険者じゃないですよね?」
「
「確かに。パーティーの教えみたいなもんですか?」
「ま、そんな所さ。とはいえ忠告通り、覚悟はしておくよ」
互いに軽く笑い合った俺達は、再び視線を逸らし、それぞれ風景に目を戻す。
確かに言ってたな、シャリアも。
って、そういやシャリアとアンナに会わないまま、もう一週間も経ったのか。流石に餓死とかしてないよな?
──『当たり前じゃ。お嬢ちゃん達はピンピンしとるわ』
そっか。それなら良かった。
さて。ここからは一か八か。俺の勘だけを信じて行動する。
何としても糸口を掴んで、ロミナ達のパーティーに戻って、二人を助けなきゃいけないからな。
何処か空回りしそうな決意を乗せ、馬車は魔導学園へと近づいていく中。
俺の心にふっと嫌な予感が過ったんだけど。
その時の俺には、その理由がまだ、分かっていなかったんだ。
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