第三話:地下迷宮の成れの果て
「いやぁ。しかしカズト。あんたが本気でアンナの決断を受け入れてやるなんてね」
翌日。
朝食も済ませ一息ついた俺達は、魔誕の地下迷宮を目指すべく宿を出ると、晴れ空の下、街の中を歩いていた。
観光名所にもなっているそのダンジョンの入り口は街の外れ。今の宿から多少距離がある。
シャリアは昨晩と打って変わって上機嫌。
その理由は、昨晩アンナから俺に付いていきたいと提案があったからだった。
「そこまで深い意味はないって。冒険者になりたいっていうなら、放っておくのも何か可哀想だって思っただけだし」
「そんな事言って。本当はアンナと一緒にいたかったんだろ?」
「違うって。大体俺なんかと二人旅なんて、正直申し訳なさしかないしさ」
茶化される俺は何かと不貞腐れ顔。
だけど
とはいえ、きっかけとなったアンナはといえば、あまりのシャリアのはしゃぎっぷりに、申し訳なさを色濃く見せているけどな。
「あーあー。これだったらあたしも商人辞めて、冒険者に戻ろっかなー」
「馬鹿な事言うなって。お前、昨日のお偉いさんにいきなり恥かかす気かよ」
流石に交易相手の名は伏せつつ、俺がそんな言葉で釘を刺すと、シャリアは本気で残念そうな顔をした。
ったく。子供じゃないんだぞ。
シャルム。後でお前からも何か言っておけよ。
彼女に呆れつつ歩いて行くと、暫くして目的の迷宮の入り口が見えた。
といっても観光名所になっている言葉通り、立派な建物がそこにあり、看板等で魔誕の地下迷宮と示されているせいで、冒険者視点でいうと、ちょっと興醒め感がある。
それはシャリアやアンナも同じだったんだろうな。
「これが……迷宮の入り口、ですか?」
「みたいだね。まったく。商売っ気出しすぎだろ」
と、何処か呆れた物言いをしている。
まあ、どこかのアトラクションじゃあるまいしって気持ちはあるけど、結局観光名所なんて、世界が変わってもこんなもんなんだろうな。
受付で入場料を払い、列に並んで案内されるがままに建物の中を進むと、俺達は流れでそのまま階段を下り、地下迷宮に入っていった。
ダンジョンの中は、やはり古くから存在し、かつ戦いの場にもなっただけあって、通路に文様などが彫り込まれた壁に、炎で焼けたであろう焦げや武器の衝撃で付いたであろう傷なんかもあって歴史を感じる……と言いたい所なんだけど。
「あまり、
「そうだね。それなりに歴史は感じるけど、これだけ壁に展示物とか並べちゃね」
と、やはり二人が興醒めする程に、違和感ばかりが目立つ。
人がそこそこいて賑やかなのは目を瞑っても、流石に歴史の説明を書いたボードや、当時をイメージした絵画を並べられたりしちゃ、歴史的価値も下がるってもんだ。
途中の部屋なんかも大概そんな感じで、もうこの構成は美術館や博物館みたいなもの。
以前この街に来た時は魔王軍との戦いの日々の最中なのもあって、観光どころじゃなかったから足を運ばなかったんだけど。今日来て見て、二度も足を運ぶ必要はないなって強く思った位には、この場所に魅力を感じなかった。
まあ、デートコースにする奴なんかはいそう……っていうか、実際に子供連れの親子や観光客に混じってカップルなんかも結構いるけど。まあ歴史好きって訳じゃなきゃ、あまりオススメはしないな。
しかし……昔はそれでもダンジョンだった訳で。なんていうか、ダンジョンの成れの果てがこうなるってのは、少々残念だな。
人も立ち寄らなくなって朽ちていく方が、よっぽど浪漫あるだろ。
「で、どうだいカズト。何か感じるかい?」
ある程度地下一階を歩き終え、二階に足を踏み入れた所で、シャリアが側に人がいないのを見計らって声を掛けてくる。
「……いや。悲しいかな、緊張感のないダンジョンってだけとしか。シャリアやアンナは?」
「
「あたしもさ。こんな状況で後四階分歩かされるんだろ。何ていうか、退屈極まりないね」
肩を
まあ、目的がここの歴史を知るなら兎も角、今回はただの調査だしな。
「このレベルなら俺一人でも十分だし、あれなら先に戻ってもらっていいけど」
俺が気を遣ってそんな提案をすると、シャリアが急ににやりとする。
「ほー。つまりアンナと二人っきりが良いのかい?」
「シャ、シャリア様。そういうご冗談はお止めください」
「そうだぞ。アンナも困ってるじゃないか。それに、暇ならアンナも一緒に戻っててもらってていいし」
「え? あ、その……
少し声を小さくしながら、縮こまってそんな事を言うアンナ。
ほら。下手に気を遣わせただろ。
「ほら。アンナも本当は帰りたいのに、シャリアのせいで変に気を遣ったじゃないか」
「……カズト。あんた本気で言ってるのかい?」
「ああ。だってアンナも退屈そうだったろ」
「まあ、その……」
俺は当たり前だって強く口にしたんだけど、それを聞いてシャリアは大きくため息を漏らし、がっかりとした顔を見せる。
「こりゃ、アンナもロミナ達も大変だね」
「は? 何でだよ?」
「別に。それよりちゃっちゃと先に行くよ」
「あれ? シャリアは戻らないのか?」
「当たり前だろ。あんたといられる時間もそれほどないんだし、最後位楽しまないとね」
……ったく。シャリアの考えはよく分からないな。
そんな事を思いつつ、俺達は地下二階、地下三階と少しずつ深くダンジョンに潜っていく。
正直変わり映えのしない光景と、思った以上に時間が掛かる行程故か。途中で戻って行く客も増え、最下層の地下五階に着いた頃には、周囲の客も
まあ、とはいえ調査の関係上、俺はどうしてもここまで来たかったんだけどさ。
何故なら、この階に噂の転移陣があるから。
五階に降りてすぐの広間。そこには四つの転移陣が部屋の四隅に存在していた。
転移陣の先に存在するのはそれぞれ別の部屋。
そこには
今は勿論、
……って、受付で貰ったパンフレットに書いてあった。
先に部屋にいた客が、恐る恐る陣の上にあるポータルのような物に触れ、入って行くと、その姿が消えてなくなった。
すると、ポータルに映る先の部屋の景色らしい方にその相手はいて、まだ移動していない連れと手を振り合ったりしてる。
今でもこれはちゃんと機能してるんだな。
ま。じゃなきゃ、ダラム王達も注目しないか。
俺達は四つの転移陣の側に、他の客の邪魔にならない程度に近寄ると、描かれている魔方陣を見比べる。
「……全部同じに見えますね」
「そうだね。ここでならすぐ再現できそうなもんだけど……」
率直な感想を述べる二人。
確かに俺にも同じに見えるし、これからマルージュの面々の研究能力ならいけそうな気がするな。
ただ、それでも再現できないっていう事は、何かあるんだろうか?
とはいえ、観光客がこの陣のポータルで出入りしているのを見る限り、特に何もなさそうだな。
「とりあえず、まずはここから入ってみるか。あと四部屋見回れば一周。これで調査も完了だしな」
「そうだね。ささっと済ませて最後に美味い昼飯でも食べるとしようじゃないか」
「はい」
俺達は互いの顔を見た後、まだ客がいないそのポータルを、俺から順に潜ったんだけど。そこを潜り抜けた瞬間。
『やっと来たか。途中で戻るのではとヒヤヒヤしたぞい』
そんな年老いた老人の声を耳にしたんだ。
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