第三巻
プロローグ:戸惑い
第一話:死者の言葉
早朝。
俺は迷霊の森の中に立つ巨大な世界樹の側にある森霊族の村、ライミの村はずれにある一軒のログハウスから、シャリアとアンナを起こさないように静かに外に出た。
既に服装は武芸者らしく道着に袴。
勿論、相棒の太刀、
木々が生い茂るこの森の中にあって、村のあるここは多少空が見える。
普段なら夜空が朝に変わっていく少しの時間だけ見える、不可思議なグラデーションの綺麗な空が見えるんだけど。この日は生憎、俺の心を表すかのように朝から白い霧が村を覆っていた。
とはいえ、昇る前の日の光が、木漏れ日として差し込み薄っすらと霧に差し込むこの光景も中々に神秘的で好きだけどな。
俺は人気のない村を抜けると、そのまま樹木に覆われた、しかし足元は整備された道を、世界樹の幹の側まで静かに歩いていく。
個人的にロデムやウィバンみたいな都会も悪くないけど、こういう自然に囲まれた落ち着いた村なんかも結構好きだったりする。自然の中にある静けさって、本当に落ち着くし。
そんな神秘的な朝の世界を堪能しながら歩いて少し。
俺は世界樹の目の前にある泉に着いた。
泉の真ん中には小さな島があり、そこにひとつの墓碑がある。
掛かる綺麗な石造りの橋を渡ると、お
……流石はフィネットの墓碑って感じだな。
墓碑の前には、既に誰かが来ていたのか花が
俺がここに来た理由は拝みに来たから。
本当はこの世界だし祈るべきなんだろうけど。やっぱり元の世界の風習が中々抜けなくてさ。
俺は静かに目を閉じると両手を合わせ、元の世界で仏壇を拝むように、天に召された彼女を改めて追悼した。
──俺はカズト。
今語った通り、俺はこの異世界『フェルナード』の住人じゃない。
絆の女神アーシェの願いを叶える為、現代の日本からやってきた異世界転移者だ。
この事を知ってるのは流石にアーシェだけ。
だって普段この世界でそんな奴の話題も聞かないし、話したって頭おかしいって思われそうだしさ。
とはいえ。
既にこの世界で二年以上は過ごしているし、アーシェから力を得る為に受けた呪いで、もうあっちには戻れないんだけど。それでもこういった風習を続けちゃうのは、未練なのか。癖なのか。
あ。
ちなみに俺はCランクの武芸者だけど、同時にこの絆の女神の呪いを発端とし、巷で噂になった
その者と共に在ればパーティーは、数々の成功を収めるが。その者をパーティーから追放すれば、一気に没落する。
……なーんて、
だけど、案外それが事実に近いってんだから、噂ってのもバカにできないもんだ。
実際昔から、パーティーメンバーには内緒で俺の持つ『絆の加護』でこっそりパーティーを強化しててさ。追い出されてその加護を受けられなくなって、その地位や名誉が地に落ちたパーティーもあるんだよな。
そしてそんな俺は、この世界を魔王から救った聖勇女パーティーにも加わってた事がある。
まあ魔王討伐直前にパーティーを追放されて、俺は彼女達に忘れられたけど、今は紆余曲折あって、聖勇女であるロミナは俺を少し覚えててくれているし、互いにまた出逢う約束をして、改めて旅をしてる所だ。
今この村にいる理由。
それは次の旅の目的地、マルヴァジア公国でも魔導都市として名高い、首都マルージュを目指すついでに、ちょっと墓参りしたかったからだ。
この墓碑に眠っている……っていうより、祀られているって方が近いかな?
そんな彼女の名は、万霊の巫女フィネット。
魔王との戦いの最中、魔王軍によって絶たれそうになった世界樹の命を繋ぐべくその身を犠牲にした、この村の長だった、万霊術師であり、世界樹と共にありし巫女であり、聖勇女パーティーのひとり、森霊族の少女キュリアの母親だった人だ。
あの人もキュリアと一緒で何処か神秘的で、琥珀色の長髪が綺麗で、慈愛に満ちた優しい表情が印象的な女性だったな。
ちなみに彼女は、俺がこの世界の人間じゃないって気づいた唯一の人だ。
あの人は一般職で占術師としての才もあってさ。
この村に来た時、皆一人一人を占って貰った事があったんだけど、一対一で占って貰った時に気づかれたんだ。
やっぱりそれだけ何か凄い力を持ってた人だったな。
そういや、確かあの時の占われた結果って……ああ、思い出した。
──光と共にあれずとも、絆と共に闇より光を護る日がやって来ます。
確か、そんな事を言われたっけ。
その言葉を聞いた当時、さっぱり意味が分からなかったんだよな。
実際パーティーを追放された時に、やっと頭の文の事かと分かったけど。その先なんてわからないまま、聖勇女パーティーは魔王から世界を救ってたしさ。
だけど、今なら何となく分かる。
きっと後の文は、ロミナを魔王の呪いから救う日が来るのを指してたんだよな。
……で、フィネット。
今回の言葉は、どういう意味なんだ?
俺は、新たに彼女より語られた言葉を思い浮かべながら、昨日この村に来た日の事を振り返っていた。
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