第七話:気になる表情
「それでは、封印のし直しは──」
「ああ。無事成功したよ」
「そうですか。すいません。結局足を引っ張りましたね……」
「何言ってんだい。封印にはロミナも欠かせなかった。成功したのはあんたが身体を張って護り切ったお陰だ。感謝してるよ」
俺はベッドの上に腰掛けたまま、シャリアからその後の話を聞いた。
俺達が狂いし
俺が無理し過ぎて弱っていたから、ある程度応急処置をした後、一旦俺をアンナに託してその場に残し、残りの皆で最後の
そこでも結構な数の
「お前の為に必死になってくれたんだよ」
なんてシャリアが笑ってたけど、カルドはそこまで深い知り合いじゃないんだから、そりゃないさ。
まあ、誰かを危険に晒した事への戒め位、あったのかもしれないけど。
そして敵を一掃した後、ロミナやフィリーネなど、術が使える者達の力で、封印の術式を施し直し、事なきを得たんだとか。
「あの儀式、すげーかっこよかったんだぜ!」
なんてミコラが興奮しながら話してくれたけど、それは確かにちょっと見てみたかったな。
あ。因みに今、この船室には今回の旅に同行した仲間が全員いる。シャリアやディルデンさん、アンナやウェリックだけじゃなく、勿論ロミナ達一行まで。彼女達は皆、俺がいるベッドを囲むように立っている。
「カルド。そういえば貴方、あの巨人との戦いから既に
当初の目的を達成できていた事を聞きほっとしていると、フィリーネが少し真剣な顔で声を掛けてきた。
……ここから反省会か。
まあ色々絞られそうだけど、素直に答えるか。
「はい。魔術師の巨人の
「確かにあれは人が使う術の比ではない程の恐ろしい力があったし、そこは良い判断だったと思うわ」
あれ? 褒められてる?
なんてちょっと拍子抜けしたんだけど、やっぱり甘かったね。
「だけれど、ロミナと共に戦うとはいえ、その弱った身体のまま、ぎりぎりまで
言葉と同じ位のきつい表情を見せるフィリーネ。
まあ、正直こうなる覚悟も持ってはいたし、下手な言い訳は止めるか。
「正直、実力がなかっただけです。あの時も何とかロミナさんの力になりたいと思っていましたし、自身ができる限りのことをしなければと必死でした。ですが残念ながら、巨人の術を止めた時点で結構な
「……本来、パーティー外の我等がどうこう言うべき立場でないのは分かっておるし、ロミナの為に尽力してくれた事にも感謝しておる。じゃが、お主は未熟過ぎじゃ。術者はその場限りに全力を尽くすべきものではない。それ位分かっておろう?」
「……はい。申し訳ございません……」
ルッテも苦言を呈してくるが、ごもっとも。
もしあの後、別の敵が出てきたらどうするんだって話で。
厳しい戦いだったとはいえ、後先考えてないって言われりゃそれまでだからな。
せめて肩の脱臼さえなかったら、剣術でもう少しどうにか出来たとは思うんだけど……まあそれも結局、言い訳でしかないか。
「でも。カルド。私も、ロミナも、助けてくれた」
「そうだよ。巨人の時だってこいつが咄嗟の判断で俺達を助けてくれたじゃねーか。フィリーネもルッテもネチネチ言ってないで許してやれよ」
「別に責めてはいないわ。でも、ギルドカードも貰っていない冒険者だとしても、そういう所は改めるべきなのよ」
「そうじゃ。誰か一人が欠ける事が、そのパーティーに危機を
「そんな事言ってるけどよ。こいつは俺達を守ってくれて、更にロミナまで助けてくれたんだぞ? それで責められたら、流石にこいつが可哀想だろ?」
「うん。可哀想」
ん?
何か珍しくミコラとキュリアが情に厚いし、逆にルッテとフィリーネが手厳しいな。
普段は真逆なイメージなんだけど……。
ただ、会話の流れであっちのパーティーの空気が険悪になってきてる。
っていうか、お前らが言い争う必要ないだろ。悪いのは俺なんだから。
「あの……皆さん──」
「皆。もう止めて」
俺が何とか場を収めようと話そうとしたその時。
そこまで口を開かず俯いていたロミナが、初めて言葉を発した。
落ち込んでいるというより、ずっと口惜しげな顔をしていたのは気になっていたけど……。
きっと、俺がこうなったのは自分のせいとでも思ってるんだろう。
「カルドは私達が生き残れるよう、聖術師として全力を尽くしてくれたわ。彼が悪いというなら、それは私達にも責任があるの。だから、許してあげて」
「……まあ……確かに、そうね」
「……そうじゃな。済まんかった」
真剣な顔で語る彼女に、フィリーネとルッテが少しバツが悪い顔をする。
確かに、ロミナが良いならって話かもしれないけどさ。
「ロミナさん。あまりお二人にきつく当たらないでやってください。私が未熟なのは確かなのですから」
俺がそう言って苦笑してみせるも、彼女の目は笑わない。って言っても、怒っている訳でも無さそうだけど。
……あれ? そういやロミナ、俺を聖術師って言ったよな?
剣技も見せたけど、そこは隠してくれ……た……っ!?
俺の思考を遮るように襲った眩暈に、思わず前屈みになる。
肩の脱臼も意識ない間に何とかしてもらったみたいだし、それほど怪我や痛みはないんだけど。ギリギリまで生命を使ったせいか、身体のだるさや重さをはっきりと感じる。
こりゃ当面大人しくするしかないか……。
「カルド!?」
少し呼吸が荒くなったのに気づき、ロミナが悲鳴みたいな声を上げ、思わず皆の視線が俺に集まった。
ちらりと横目で見ると、彼女は血相を変え、とても不安そうな顔をしてる。
勿論皆もだ。
……生きてるんだから、そんなに心配しなくても良いって。
「す、すいません。ちょっと眩暈がしただけですから。大丈夫です」
慌てて俺が安心させるように笑うと、皆が安堵のため息を漏らす。
「まだ目覚めたばかりだし、無理させるのも可哀想だ。今はゆっくりさせてやろう」
「そうね。ごめんなさい。ついきつい事言ってしまって」
「いえ。何度も同じ過ちはできませんから。肝に銘じておきます」
シャリアの言葉に続き、謝ってきたフィリーネに俺がそう返すと、アンナを除く皆が部屋から出て行った。
……最後に部屋を出る時の、ロミナの何か言いたげな、名残惜しそうな表情が妙に引っかかったけど……。
「……ふぅ」
俺は一息
たかだか上半身起こしてるだけなのに、この疲労感か。
自分の身体の不自由さに思わず自嘲していると、少しひんやりとしたアンナの手が、俺の首にすっと添えられた。
……これ、少し気持ちいいな。
「どうやら熱があるようですね。氷嚢を取って参りますね」
「あ、うん。頼むよ」
少し心配そうな顔でアンナが部屋を出ると、俺は目を閉じた。
……ほんと。クエスト達成の迷惑にならなくて良かったよ。
でもな。フィリーネ。ルッテ。
悪いけど、肝には銘じるけど、いざという時には譲らないからな。
俺はロミナを護りたかったんだから。
……なんて。
それで心配かけてちゃ目も当てられないよな。
ほんと。冒険者としても。人としても。
身体も、心も。もっと強くならないと。
俺はそんな決意を新たにしたんだけど。
残念ながら、それも今の身体の前では意味をなさなくって。
結局俺は、気づけばまた微睡みの世界に足を踏み入れていたんだ。
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