第五章/第二話:ミコラの嘆き

 けっ。

 どうりでおかしいと思ったんだよ。


 俺、これでもLランクだし、戦闘だって超自信ある。だからCランクなんかに遅れなんてとる訳ないって思ってた。

 すげー技を見せてもらって、流石にカズトの実力は認めたけど、それでもどこかで俺、お前を守らなきゃなんて、内心思ってたさ。


 そんな俺が、ディネルだっけ? あいつに波動衝はどうしょうを止められちまって、危うく反撃受けそうになった時。

 内心やべーっ! って冷汗掻いた。

 避けはしたけど、派手に跳んで隙だらけ。こりゃ流石に喰らうなって。


 だけど、あの時のお前、俺をカバーするのにドンピシャなタイミングで踏み込みやがったよな。連携なんて無理だって散々言ってた癖に。

 しかもあの瞬間さ、すっげーしっくり来たんだよ。

 まるでロミナと一緒に戦ってる時みたいに、息があったって感じでさ。


 その後、お前がディネルに斬りかかった時も凄かった。

 あの刀捌き、この俺が目で追うのもやっとだったんだぜ。あんなのCランクの技じゃねえって。

 闘技場でお前の技見た時も思ったけど。俺、あの時改めて思ったんだよ。

 こいつは絶対に強いって。


 だから、俺はお前を本気で信じられたんだ。

 じゃなかったら、お前が囮になったタイミングで、ディネルに飛び込めなんてしなかったって。あいつのやばさを感じてたんだから。

 ほんと。お前はそれ位凄かったんだぜ。


 でも思い返してみたら、お前の凄さってそれだけじゃなかったよな。


 毎朝の稽古もそうだ。

 お前、本当に動き良くってすげーんだよ。

 しかも、まるで俺の手の内知ってるみたいに、気持ちよくなる所で受けやがる。

 だからすっげー稽古が楽しくってさ。

 ここだけの話、手加減しないで楽しんでたんだぜ。


 でも、同時にずっと不思議だったんだ。

 城で半年以上、戦士団の上の奴らに稽古を付けてたけどよ。その時より絶対にしっくりきてたからさ。

 大団長とだって何度も手合わせだってしたさ。

 何たってSランククラスの戦士。だから受けるのもめっちゃ上手かったけど、その比じゃない位馴染んでた。

 俺がカズトに会ったのなんて、たった二週間位前だってのに。


 ……だけど。

 記憶が戻って、やっと分かったんだ。


 そりゃそうだよな。

 お前はずっと一緒に旅して、一緒に戦ってくれたんだもんな。

 俺との稽古に散々付き合ってくれてたんだもんな。


 昔、一緒に冒険してた時。

 確かに実力不足を感じる時期もあったけど、俺達は皆、本気で頼りにしてたんだぜ。


 武芸者って言えば、俺達武闘家と一緒で本来アタッカーだろ。

 それなのに、お前は慣れないディフェンダーとして必死に後衛を護って、何度も何度も踏みとどまってくれたよな。

 その分俺とロミナがどれだけ自由に立ち回れたかわかるか?

 ほんと、感謝しきれない位だったんだぜ。


 それにさ。

 お前はほんと優しいんだよ。


 勿論怒ったりもするけどよ。

 何かあった時にすぐ褒めてくれるし、慰めてくれるし、頭撫でてくれる。


 当たり前だけど、他の男に頭なんて撫でられたらぜってーすぐぶん殴る。

 だけど、お前に撫でられると安心できるし、なんか嬉しくなるんだよ。


 だから頑張れると思った。

 恐くたってやれると思った。


 お前との記憶も戻ったし。

 頭も撫でて貰って元気も出たし。

 後は一緒に戦うだけだって思ったのに。

 一緒ならぜってー負けねーって思ったのに。


 ……何で俺達は戦えないんだよ。

 ……何でお前一人だけなんだよ。


 俺はお前に勇気貰って、何とかここまで来たんだぜ。

 びびりながらも、必死になって戦ってきたんだぜ。

 それなのに、最後の最後でどういう事だよ。

 なんで俺、一緒にいられないんだよ。


 カズト。

 俺、悔しいよ。

 お前の力になれなくて。

 俺、怖いよ。

 お前が死んじまうんじゃないかって。


 カズト。ちゃんと無事に帰ってくるよな?

 宝神具アーティファクトを手にして、ロミナの呪いを解いてくれるよな?


 ルッテもフィリーネも。そして俺も。

 扉の前ここでじっと待ってる。

 だから、ちゃんと無事で帰って来いよな。


 帰って来たら、ちゃんと褒めてやるからさ。

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